呆気ない幕切れ。最後の一体が0と1とで構成された粒子と化して砕け散り、100だの250だの、宙に青白い文字を浮かべる。何か、意味のある数字なのだろう。それを見遣った少女がショットガンを肩に担いで溜息を吐く。
「…やっぱり、この程度のモンスターじゃ殆ど稼ぎにならないわ」
指先で数字を摘む。少し迷った後、摘み上げたそれをまとめて呆けたままのレンへと放った。
「え…っ、えぇ…っ!?」
ご丁寧に空を切る音までさせて、弾かれた数字は咄嗟に差し出したレンの掌へと受け止められる。重いとか軽いとか、一切の存在感触を感じる前に、それは霧散してしまったのだが。
「……え、っと……あの?」
『サバイバー・レン。350サバイブ、加算されます。現在スコアランク、最下位です』
「…ひっ!?」
不意に右耳で聞き慣れない機械音声が再生されて、思わず声をあげた。恐る恐る手をやると、少女の左耳にあるのと同じインカムの形が解る。そして、それはどうやら自力では外せないらしい、ということも。
「どういうことだ…?サバイブ?いや、そもそも、どうして俺の名…」
はっきり言って、混乱の極みだった。突然モンスターに襲われたかと思ったら、今度はサバイブだのスコアだの、ゲームじみた演出のオンパレードなのだ。
それどころか、見慣れたはずの街並みも、夜空も、空気の感触まで、まるでリアリティがない。液晶の向こう、ひたすらリアルに構築されたCG空間にでも放り込まれたような、そんな違和感。
リアル過ぎて、リアリティがない。
今現在、自分を取り囲む空間は、現実ではないのか。
理解を拒む本能に、背筋を厭な汗が伝っていく。
「ねぇ、」
インカムに手をやったまま硬直するレンに、痺れを切らした少女が憐れむような視線を向ける。
「もしかして、自分の状況、把握してない?」
「俺の、状況……」
「説明して欲しいなら、してあげるよ?」
それは即ち、現実を突き付けられろ、ということだ。思考の片隅に追い遣られた予感の一つ。レンにとって、何よりも受け入れがたい可能性。
ソーシャル・ネットゲーム、《サイバー・サバイバル》への接触。
ゲーム世界への干渉が認められた時点で、自動的に参加が決定する。それがルールだ。もし、それが事実だとするならば、
「此処が、ゲーム世界、なのか……」
「なんだ。ちゃんと解ってるじゃん」
説明の手間が省けた、とでも言いたげな表情で、少女が同意する。少女にとって、此処がゲーム世界か否かは大した問題ではないのだ。
「だけど、ゲームに接触なんて、俺は一度も…っ!!」
「これ」
否定しようと言い募るレンを遮って、少女の指が道路脇の側溝、そこに突っ込んだ格好で放置されているものを示す。
「触ったんでしょ」
モンスターの襲撃に遭って忘れていたが、確かに、その無駄にメカチックな外見には覚えがある。
「……さっきの、自動推進式スノーボード」
「フロートボード!!」
愕然と勝手な名称を呟くレンにすかさず訂正を加えて、それなりの重さはあるはずのそれ――フロートボードを片手で掴み上げる。
「簡単に言ってしまえば、これがゲーム世界行きのチケットだった、ってわけ」
少女はこともなげに言ってのけ、
「どうしてそんなものが俺の家の前にあんだよ!?」
レンは激昂した。
そんなものが、ゲーム世界行きのチケット?冗談じゃない。
俺は、そんなものに関わりたくない。関わりたくないんだ。
「でもこれは、間違いなくキミのものみたいだけど?」
「何だと…?」
「だってほら」
ぱっ、と少女が手を離す。重力に従って墜ちるはずのフロートボードは、どういうつもりか、地面ぎりぎりの低空飛行で、レンへと直進してきたのだ。
「…ぅあっ!?」
避けきれずに足を掬われる格好になって、その場へ尻餅を突く。少女はけらけらと笑っているが、レンにしてみれば、コンクリに打ち付けた腰が痛いだけで面白いわけもなく、
「笑うな!!お前のせいだろ!!」
しつこく笑い転げる少女を睨み付ける。もっとも、少女はそんな程度では怯みもしなかったが。
「だから、フロートボードの内蔵PCには所有者情報が登録されてて、ちゃんと持ち主のもとへ帰ってくるように設計されてるんだってこと」
「…それで、俺がこれの持ち主だって?」
「だって、フロートボードの制御システムって最高ランクだし、主人を間違えたなんて聞いたこともないし」
レンは腑に落ちない顔で、足元で大人しくなったフロートボードを眺め遣る。普通に現実世界に生きていれば、まずお目には掛からないだろうフォルム。重力に抗ってエンジンで飛ぶスノーボードなど、レンには見覚えはおろか知識すらなかった。それを、いったいどうして所有者になどなれるものか。
「有り得ないな。俺はこんなもの、見たこともなかったんだ」
「じゃあ、人違いってこと…?ないない、絶対にそれはないって」
納得いかない、と少女は首を振るが、レンにしても、はいそうですかと引き下がれる状況ではない。
「だいたい、俺はこれが空を飛ぶことすら知らなかったんだぞ。所有者っていうなら、そんなの有り得ないだろ」
「んー…確かに、言われてみれば変かも」
乗りこなせないもの買っても、さっきみたく転ぶのがオチだしね、などと聞き捨てならないことを呟いて、少女が考え込むような素振りを見せる。
「ねぇ、もしかして、生き別れになった双子の兄弟とか…」
「居ねぇよ、俺は一人っ子だ」
「じゃ、じゃあ、実は何処かに隠し子とか…」
「もっと居るわけねぇだろ!!俺を何だと思ってんだ!!」
相手は女だ、とか、いや、でもモンスター相手にやり合うようなヤツだし、とか、考える間もなく手が出た。レンの渾身の右ストレートをひらりとかわした少女は、冗談だってば、と笑って見せる。空振りを打ったレンはそれ以上怒る気力も削がれて、溜息を吐いた。
「とにかく、それがキミのものじゃないとしても、ゲーム世界に干渉しちゃったのは事実だしね。諦めるしかないんじゃない?」
「諦めてたまるか。俺は、こんな世界さっさと出てってやる!!」
「どうやって?」
「どうにかして、だ!!」
沈黙。
「取り敢えず、キミにはこの世界の基本から教えてあげなきゃダメみたいだね」
やれやれと肩を竦めて、少女が手を差し出してくる。
「仕方ない、これも何かの縁だしね。わたしが面倒見てあげるよ」
満面の笑み。勢いに飲まれて、差し出された少女の手を握り返す。
「俺はレンだ。あの、その……よろしくお願いします」
「いいって、そんなかしこまらなくって。どうせ、雑魚モンスター相手のサバイブ稼ぎに飽きしてたとこだしね」
それに、一人より二人の方が色々と便利だし、などと意味深なことを言う。
「まぁ、そんなわけだから、これからよろしくね、レン」
さっさと話を切り上げてしまう少女に、最も大事なことを聞きそびれて思わず追い縋る。
「あ、あの、お前のことは、なんて…?」
直後、少女の顔にかつてない驚愕の色が浮かぶ。モンスターの大群を前にしても、顔色一つ変えなかったあの少女が、だ。
「もしかして、私のこと、知らない?」
「あ、え…?だって、初対面だし…」
「で、でも、見たことくらいはあるでしょ?デモPVとか、色々」
「いや、見たことはあるけど、名前までは…」
目に見えて少女の機嫌が悪化していく。逃げ出したいような気持ちに駆られながらも、此処で引き下がるわけにはいかないレンは必死に作り笑顔を浮かべる。
「だから、その…名前、教えて欲しいな、って…」
「リンよ、リン!!いい?次、次に忘れたら、今度こそ許さないから!!」
少女の中で、レンは彼女――リンの名前を忘れてしまった不束者、ということになっているらしい。精一杯の妥協だったのだろうが、こればかりはさすがのレンも苦笑せざるを得ない。
***
「いい?レン。わたしから手を離したら、落ちて死ぬものと思いなさい」
「ああ、もう既に死にそうな気分を味わってるよ」
「それとこれ、こう見えて二人乗り仕様じゃないから、何処までもつかは解んないわよ?」
「……リン、それは、もうちょっと早く言うべきだったんじゃないか?」
暗闇を疾走する、二人乗りの大型バイク。
不吉な異音に車体を軋ませて、目指すは一路、【¢ity】メインストリート。
【ラノベ化企画】サイバー・サバイバー【2】
古びたフロートボード。内蔵PCに記録された「誰か」。
今は未だ誰も知らないけれど、やがてそれは―
***
やましぃ、今日は大奮発です。
この短期間でこんなに書くとは、
やはりコメの効き目は凄まじいですねww
そして、リンちゃんのキャラが…^^:
すいません、作者の趣味です。
***
SPECIAL THANKS
SHIRANOさん
http://piapro.jp/t/d2yz
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瓶底眼鏡
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お邪魔です!!
おお、なんて速度の更新……!!自分もコメは創作活動の気力の源になっていますが、一週間ペースです……やましぃさんすげぇ……
なぜレンはほぼ強制的にゲームに参加させられる事になったのか。これも消えた幼なじみと関係があるんでしょうか?伏線がどのように回収されて行くのか楽しみです!!
リンちゃんは可愛ければもうどんな性格でも←
そして思っていたよりレンがヘタレンだったw←
2011/07/09 04:43:31
人鳥飛鳥@やましぃ
毎度コメント感謝です。励みになります!!
やましぃは現金な性格なので、煽れば煽るだけ埃が出ます←
レンはヘタレじゃありませんwwリンがイケイケなだけでwww
相対的ヘタレン…それはそれでヘタレですね、はい。
それでは、また【3】でお会いしましょう!!
2011/07/09 13:38:56