ミクルカ小説 百合注意><
Side ルカ
私が初めて此処に来た時、みんなとても歓迎してくれた。なんでか微かにお酒の匂いのするメイコさん。元気いっぱいに挨拶してくれたリンちゃん。友好的なレン君。あとは……あの、か…なんとかさん。そして、開口一番告白してくれたミクちゃん。
『…………んふふ。可愛かったわぁ……』
あの時のミクちゃん、本当に可愛かった。挨拶みたいに告白してしばらくしてから顔真っ赤にしていたっけ。今思い出しても頬が緩む。と、そんな事を思いながら私は部屋を掃除している。要らないものはゴミ箱へ、使わないものは圧縮。作業しているはずなのにミクちゃんのおかげで楽しい。
さて一段落ついたかな、と行ってもまだ来たばかりだから整理しなきゃいけない程データもないんだけど。と、パタパタと足音が聞こえてきた。ああ、来たな。思わず笑顔になった。
『ルッカー^^ノシ 掃除終わった?遊ぼうよ!』
ノックもせずに飛び込んできたのはやっぱりミクちゃん。相変わらず良いタイミングで突撃してくる。私はため息を適当に吐いて、ミクちゃんを見た。
『私は今終わったけど、ミクちゃんはまだでしょ?掃除してらっしゃい』
『えー、また今度ね♪』
嫌そうな顔がすぐに一転して楽しげなものに変わる。感情というか表情がくるくる変わるのは彼女の好きなところだ。見ていて楽しいし。
『だーめ。こないだもそう言ってたじゃないの。今日こそ掃除しましょ』
『やーだー、何処に何があるのか分からなくても良くない?というか分からないほうが良い物って結構あると思うんだけど』
『意味分からないこと言わないの。なんなら手伝ってあげようか?』
『え』
なにかに触れてしまったのか、彼女はぴたりと静止して固い顔で笑って見せた。そして言葉ではなく首だけでそれを否定すると、ゆっくり後ずさった。そこまで否定されるとなにかもの悲しいというか好奇心が沸くというか。
『えっと………きょ、今日は遠慮するね。ありがと』
『………ふぅん。私には見せられないものでもあるのね』
『え!』
恋人でもないのにこういうのは卑怯だけど、結構気になるので追求してみる。話には汚い汚いと聞くけれど、ミクちゃんの部屋って入った事ないし。
『じゃ、行きましょうか』
『え、だめ、なん、積極的!?』
そこまで拒むのなら無理に部屋に入ろうとは思わないけど、折角自分から遊んでと言ってきたんだし、少しくらい遊んでもいいよね?
それから結局掃除なんてしなくて、二人して汗をかくまで騒いでいた。珍しく私から絡んでいたからか、途中からリンちゃんも参入して家中大騒ぎになった。その後昼間からカイトさんと酒盛りしていたらしいメイコさんに怒られるというお約束になりつつある結末で、とりあえず掃除騒動は完結した。
『ルカ姉~ミク姉~、お風呂行こっ』
『いいわね……私もちょっと疲れたわ………』
今ミクちゃんの部屋へと繋がるドアのある廊下に、私たち3人は転がっていた。リンちゃんは廊下に仰向けで、私は壁に寄りかかり、ミクちゃんはドアを守って。
『ね、ミク姉も行くでしょ?』
リンちゃんはもう一度尋ねた。しかしミクちゃんから返事はない。屍にでもなっているのかと届く範囲で手を伸ばし、私はミクちゃんの肩を優しく叩いた。触れた瞬間びくりとしたものの、ミクちゃんは返事を返すことは無かった。
『? ミクちゃん?』
『……………ん』
微妙に返事をされた。しかし意味は分からない。早くも痺れを切らしたリンちゃんががばっ!と立ち上がり、ドアに額を預けたままのミクちゃんの顔を覗き込んだ。
『………………あー、うん。だね。ごめんルカ姉、じゃ私先お風呂行ってくるねー』
『え?』
『じゃあ後でね~』
なにやら一人納得したらしく、リンちゃんはくるくるとお風呂へ向かってしまった。状況の読めない私はとりあえずミクちゃんの顔でも覗き込もうかと思って、けれどそれは本人のつぶやく声によって阻まれた。
『ルカちゃんとお風呂とか………私死んじゃうよぉ………』
ああ、そうか。
ミクちゃんは私のことが好きなんだった。遊んで欲しいとか、そんな好意じゃなくて。私は今初めてミクちゃんをみた気がする。ミクちゃんは私が好きなんだ。それは私を束縛したりしたいということ。触れたいと、思うことだ。
『ねぇ、ミクちゃん』
『…………………………ん?』
自分の世界から帰ってきたらしいミクちゃんの手短な返事。それでも気にしないし、今は自分のことで頭がいっぱいだった。
『私の、どこがすき?』
唐突だけど、少し私たちの現状をお話しようと思う。
私たちはVOCALOID。人間の変わりに歌うために生み出されたソフト。歌うために身体の情報を貰い、歌うために感情を教えられ、歌うために生きている。歌うために家族を感じ、歌うために喧嘩をし、歌うために恋をする。最初こそ、私は人間に踊らされているのかと反感した。けれどそうじゃない。今ではそう感じるように作ってくれた事を感謝している。家族をくれたこと。喜怒哀楽をくれたこと。歌うことの楽しさをくれたこと。人を愛させてくれること。
それでも、私たちは本を正せばデータでしかない。二進法で表せる、所詮は1と0。だから、感情はあっても、触れることはできない。触れたとは思えるけれど、触れられたと思うことはできても、実際には触れない。
それ故に、私は改めて問いたい。
愛を教えて触れるということを渇望させて、感謝なぞできるのかと。
だから私は人を愛したくないと思った。その望みは此処に来て一瞬で潰えたのだが。最初は、そう思っていたのだ。
『え、えと………どうしたの?そんな急に』
ミクちゃんはおそるおそるといった風にゆっくりとドアから額を話し、私に視線を向けた。あの小声が聞こえるくらい近くにいたのだから、私とミクちゃんは至近距離で向き合う形になった。私との距離に驚いたミクちゃんの頬が少し染まり、わずかに目を反らした。
『急かしら?でも変ではないでしょ』
『そ、そうだけど………』
聞きたい。私のどこがすきなのか。そして、どのくらいすきなのか。
私は穴が空きそうなくらい見つめた。しばらくして困ったようにミクちゃんは話しを切り出した。それは私たちが初めて会った日のこと。私に告白してくれた日であり、私のことを好きになってくれた日。
『だから………思わずすきって言っちゃったけど、今は…もっとすきだもん』
ミクちゃんの少し拗ねた顔で話しは終わった。終わってからようやく廊下でする話しではなかったなかと思ったが、この際リンちゃんが茹だっても話を終えるまで場所移動したくないと思う。ちなみにリンちゃんの部屋とお風呂は此処を通らないと帰れない。おそらく脱衣所で聞いてたりするんじゃないかと思うけど、リンちゃんはしっかり者だからもし私がミクちゃんを傷つけてもフォローしてくれるんじゃないかという下心もあったりする。
『そう……ありがとう。話してくれて』
『ううん、私も、ちゃんと言ってなかったもんね』
まるで捕まったウサギのように肩身の狭い様子に思わず笑みがこぼれる。この子はいちいち動作が可愛くて仕方がない。すきだということを何度も言われ上機嫌になったのもあって、私は思わずミクちゃんの頭を撫でていた。
『ぅ………』
『…………あ、ごめんなさい』
突然頭を撫でられたから嫌な気分になってしまっただろうかと、ない骨髄から反射するように手をどけた。が、手を引いたほうがミクちゃんは嫌だったようだ。
『ううん!嫌じゃないから!………もっと撫でて』
さぁ撫でて。そう言うかのように頭をずいと出され、私はまだしばらく廊下でいちゃつく羽目になってしまった。でもさっきのせいで少し乱れたツインテールを触ったりしているのも楽しかったし、撫でている私の方も幸せな気分になるのだった。
が、廊下の先からチラチラと見え隠れする黄色い髪を見た瞬間私は噴きだした。見える限り髪は完全に乾いてひらひらとしている。湯冷めさせてしまわないうちに、リンちゃんを呼んであげようと思うのだった。
『?』
『ルーカー、入っていい?』
夜。もうおやすみの挨拶も終わっているというのに、ドアからミクちゃんが顔を出した。入っていいかと問うているわりにはドアは開いているし、上半身も領空に入っている。
『どうぞって言う必要もないでしょ』
『ま、ね。でも、なんとなく』
嬉しそうに部屋に入ってくるミクちゃんがとても可愛い。本当に、この子は小動物のようだ。今はツインテールではないというのにウサギに見えるのは凄いと思う。
ミクは当然のようにベッドで寝る準備をしていた私の横に腰掛ける。ギシっと言う音になぜがドキっとした。しかしミクちゃんに自覚はないようなので追求しない。
『どうしたの?眠れない?』
『………うん、あのね』
あのね、ミクちゃんは繰り返した。何か真剣な話そうだ。私は掛け布団を整えるのを止めて、ミクちゃんから少しだけ離れたところに腰掛けた。ギシっ
どうしてか、私の心拍数が上がっている気がする。
『あ、あのね!別に私の妄想とかじゃなくて…だから…』
なにが言いたいのか分からない。分からないはずなのに知っている気がした。私だって少し前から自覚ぐらいしていたんだ。私は、この子がすきなんだ、って。
『り、リンちゃんが…』
『ええ』
『……リンちゃんがね、ルカ姉はミク姉のことすきなんじゃないかって……』
『……そう』
まぁ、分かっていたけれど。頭を撫でるところを見たリンちゃんなら、あの時の私の表情から。晩ご飯の後でリンちゃんがミクちゃんを呼び出すのを見て、本当は少しだけ覚悟していた。リンちゃんはミクちゃんの為にも私の気持ちを伝えちゃうんだなって。それは別に構わない。私だって、「ミクちゃんがすき。あいしてる」と心を決めて告白できたらよかったのだけど……。
『それで?確認しにきたの?』
『うん……、だって、そんなの聞いちゃったら眠れないもん………』
『まぁ、そうよね』
単純といったら聞こえは悪いけど、ミクちゃんのこういうところは好きだ。率直で見ていて清々しいのもあるけれど、もし本当は私がミクちゃんをすきじゃなくてぬか喜びで迷惑をかけるんじゃないかとか思っているだろうから。
それにしても、なんて答えよう。ここですきだなんて言っていいのだろうか。ミクちゃんをずっとすきで居続ける覚悟、虚しくしか触れられないのにあいする覚悟。そのどれもが私には欠けていた。でも、リンちゃんが背中を押してくれたというのに。
『あのね、聞いてくれる?』
『うん?うん…』
そう。悩んでいるのは私でも、ミクが私をすきでいてくれている時点で、これは私だけの問題ではないのだ。黙っているのはフェアじゃない…というか、たぶん、私はミクに答えを出してもらいたいのだ。自分で、決められなくて。
『リンちゃんが言ったとおりよ。私は、本当は貴女がすき』
『!!』
『でもね、続きがあるの。情けないんだけど…』
『?』
もう隠しても仕方ない。私はとりあえず思ったことから話していくことにした。本当は出会った時に告白されてとっても嬉しかったんだよ、なんて。
『私はVOCALOIDとして、貴女をすきでいる覚悟がないの』
『それは、そこまで私のことがすきじゃないってこと?』
『え?』
想像していなかった答えに、黙らされた。そうか、そういうことになるのか。本当に堪えきれないくらいにあいしていれば、私はこんなに躊躇しないのか。
すきだったと思っていた分、後悔が押し寄せた。何がすきだ。ただのエゴ分でしかないではないか。
『…………でも、いいよ』
何も返せない私とは打って変わって、ミクは嬉しそうに笑っていた。いつもは分かるミクちゃんの考えが、今日の今に限って分からなくなった。
『これから私の魅力を伝えていけばいいんでしょ?うん、がんばるっ』
『……………』
開いた口がふさがらないとは、よくいったものだ。私が選択肢を選んで選ばせなくても、ミクちゃんは自分で選択肢を作って選んでいくのだ。侮っていた自分が恥ずかしい。子供だと思っていたミクちゃんは、ちゃんとレディーだったのに。
『………そうね。私に……離したくないって、思わせさせてくれる?』
『えへ~、きっとすぐに落ちちゃうよ。ルカなんてね』
結局のところ、私たちの関係は変わっていない。でも、明日からの毎日がまたいっそう楽しくなることは間違い無かった。
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同じことを何回も繰り返した。
それこそ、気が狂いそうなほどに。
どうしたら、狂った『夜』が終わるのか。
私も、皆も考えた。
そして、この舞台を終わらせるために、沢山のことを試してみた。
だけど…必ず、時間が巻き...Twilight ∞ nighT【自己解釈】
ゆるりー
誰かを祝うそんな気になれず
でもそれじゃダメだと自分に言い聞かせる
寒いだけなら この季節はきっと好きじゃない
「好きな人の手を繋げるから好きなんだ」
如何してあの時言ったのか分かってなかったけど
「「クリスマスだから」って? 分かってない! 君となら毎日がそうだろ」
そんな少女漫画のような妄想も...PEARL
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ファントムP
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