「今よりもっと、豊かな時代・・・10年前の戦争よりもずっと前、もう50年は前の話になるかの」
シーカーは「この間」と言っていた戦争は10年前の話だったらしい。
「ワシは一人のお嬢様に、恋をしていた。伯爵家のお嬢様での、ワシなんかとはとても釣り合わないような高貴なお方じゃった」
生まれてこの方そんな人を見た事のない僕からすれば、今一つぴんと来ない。
つきん、と一瞬頭が痛む。
「この写真は、写真屋に頼み込んで焼き増ししてもらったワシの宝物での・・・いつも、ご両親と一緒に出かける所を眺めていた。一度でいい、一言でいい、いつかお嬢さんと話をしたい。それが、幼いワシの夢じゃった」
おじいさんはそこで一度言葉を切って、雪雲を見上げた。
―――雪が、随分強くなって来たように思う。
「結局、そのお嬢様とは話せたんですか?」
僕がそう問い掛けると、おじいさんは首を横に振った。
「ある日から、ご両親のお出かけにもお嬢さんの姿が見えなくなってしまってのぅ・・・最初は結婚でもしたのかと思ったのじゃが―――」

「―――病気で、亡くなった」

僕の唇から、自然とその言葉が零れていた。
何故かは分からない。
頭にノイズが走ったかと思うと、一瞬光景がブレた。


光の溢れる、白い病室―――

“きっと私も貴方と同じ、孤独で悲しい存在”

か細い少女の声―――

“でも、貴方と過ごせたから、私は幸せになれたの”

僕に対して、泣きそうなのを必死で堪えて笑顔を作る、黒服黒マントの誰か―――


「―――少年? 少年! 一体どうしたんじゃ!?」
「ぁ、ごめんなさい・・・ちょっと、ぼぅっとしちゃって・・・」
おじいさんが僕の肩を揺する感触で、我に返った。
「確かに、お嬢さんは病気で亡くなった・・・死神様に愛されて、の」
「死神、様?」
シーカーが話していた、死神という存在。幼い僕には、様付けされるようには思えない。
「死神様は、この世界と死者のいる向こう側の世界との橋渡しをしているんじゃ。死神様は優しい御方さ。いつでも皆の幸せを願っておられる」
「僕には、よく分かりません」
嘘、と僕の中で少女の声がした。その声は、夢の中で僕だった少女の声で、写真に映るお嬢様の声だ。
「少年にも、いずれ分かる日が来るじゃろうて。だからお嬢さんもきっと、向こうの世界で幸せに暮らしていると信じているよ・・・さて、ワシはそろそろ行くかの」
「お話、ありがとうございました」
僕は去って行くおじいさんに、ぺこりと頭を下げた。
おじいさんはひらひらと右手を振って、僕に笑ってくれた。

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【白黒P】捜し屋と僕の三週間・13

閲覧数:400

投稿日:2011/12/29 14:25:43

文字数:1,078文字

カテゴリ:小説

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