ココロ・キセキ ~ある孤独な科学者の話~ [3]


*   *

 皮肉にも、リンの死によって、レンは研究室に引きこもったため、人形の『Rin』はますます進歩していった。ケーブルを離れ、歩き、走り、会話もし、時にはわざと指示に従わないしぐさも見せる。
動作が人間に近づくほど、レンには、『ココロ』が入らないのが口惜しい。



「そもそも、俺は、……俺のほうにこそ、『ココロ』が何なのか、わかっているのか?」


 その問いに気づいて、レンは愕然とした。

 焦ってカイトの研究記録を繰った。はじめから終りまで、ひとことも見逃さないように。


 しかし、これまで、レンは舐めるように見てきたはずでは無かったか。


 すべてのヒントを、拾い上げたはずでは、なかったのか。


 レンの指先が震えだす。


 これ以上、読み取れない。これが、今の自分の、ベストだ。
 それでも、『ココロ』は、できない。



「俺に、『ココロ』は、わからないのか……!!」



 窓が、夜の風にガタリと揺れた。


 セントラルヒーティングが完璧に効いているはずの部屋で、真冬が、じわりと心臓をつかんだ。
 蛍光灯の明かりが、ぐらりと歪んだ。



「俺は……何を、やっているんだ」



天井から下がっている、人形の研究用のケーブルで、衝動的に、首をつってしまいたくなった。




……[4]へつづく

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ココロ・キセキ -ある孤独な科学者のはなし- [3]

ココロ・キセキ -ある孤独な科学者のはなし-[2]からの続きです。

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投稿日:2010/01/30 12:55:34

文字数:596文字

カテゴリ:小説

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