私はつかんでいたエレベーターガールの服を放し、二、三歩後退りした。
《あなたの生き様と大差は無いのでしょう?》
私は恐怖の眼で目の前に流れる映像を凝視した。お腹の大きな女性が命を絶ち、銃を片手にキスする二人、少女をおぶっている少年…
私はその映像から目を背けたかったが何かがそうさせなかった。私は、それらを見ながら今までを思った。
私にあの紛争を止めることは出来ただろうか?
―できなかった。
私にあのミサイルを止めることは出来ただろうか?
―出来なかった。
私は少年を救おうとしただろうか?
―……
私は若者を助けようとしただろうか?
―……
チーン
エレヴェーターの扉が開いたが、今度は何もなかった。大地も空もなかった。そこには世界中の映像が映画のフィルムのように流れる不思議な空間があった。そこには、歌を歌うあの少年や街を見下ろす青い髪の少女も映っている。
しかし私には一歩が踏み出せなかった。エレヴェーターから出るその一歩が。
今度は音もなく扉が閉まり出す。「閉」の文字が光る中、私がほっとしなかったといえば嘘になるだろう。ここで扉が閉まってしまえば、私は決断をしなくて済む。一方であの少年や若者の顔が頭をよぎる。
《貴方は、まだ見ているだけなのですね》
どこからかそんな声が聞こえるような気がする。
《それでは貴方様、よい終末を》
上…いや、飢えから……
ダンッ!!
扉が止まった?
私が顔を上げると、エレベーターガールが拳で「開」のボタンを押していた。
「行けよ!リンの元へ!!」
エレベーターガールはその時既にエレベーターガールではなかった。私によく似た顔…でも彼は…アンドロイド?驚くほど人間らしいけど、彼は確かにアンドロイドだった。
そして、彼の口にしたリンという言葉…いや、名前。僕は全てを理解した…そして思い出した。僕は迷わず映像の波へと駆け出していった。
________________________________________
僕はボタンを離した扉が閉まりる。あの時、時空起動インターフェイスが作動したとき。僕は消えそうになった彼の記憶を拾い、とっさに機械自体の中へ飛び込んだ。僕の機械の心はその時に壊れてしまったらしい。僕が機械になりきれなかったおかげで僕は今ここにいるんだと思う。
少し意地悪して時間をかけてしまったけど、彼に記憶を返すことが出来た。時差のおかげで、貧しい国から廻ればまだ今からでも歴史を変えられることだろう。
僕の体もこのエレベーターも光に包まれ消えだした。歴史が変わったのかな?うっすらと僕はそう思う。歴史が変われば今までのものは全て消える。時空起動インターフェイスそのものも、勿論僕も…
身体が軽くなり、意識が遠くなる…
今行くよ、リン…
________________________________________
僕は今、貧しい国の岩の上に立っている。目の前には殺し合いをする人間達。僕は何をするのかなんとなく分かった。
少年の歌を、今ここで…
銃が消え、花が咲く。自分でも驚いた。しかし、人々は皆笑っていた。僕はその中にあの少年を見つけた。仲間と抱き合い、歌を歌っている。
僕は静かにその場を後にした。
________________________________________
僕は次に、豊かな国の交差点に立っている。上空を滑るように飛んでくるミサイル。今度はあの青い髪の少女の歌を…
彼女は笑いながら消えてゆく。街行く人は、立ち止まり自らを見返している。あの若者だけは不思議そうな瞳で僕を見ていた。
僕は笑い返し、次へと進んだ。
________________________________________
星を抱きながら、僕は思う濁った星はとても綺麗になった。これが再び濁らないように、受け継ぎ未来に託す。僕はその時までしばしの眠りにつこう。
リン待っててね…
episode3―新世紀―終
The End
終末史episode3―新世紀③―
囚人Pの楽曲新世紀(http://piapro.jp/t/_XAE)(http://www.nicovideo.jp/watch/sm6723010
)を元にした二次創作小説です。レン視点です。
今回は特に自己解釈…いや、事故解釈満点でお送りしております。
今回で一応「終末史」が完結になります。(番外編とかは書くかもだけど…)個人的には、理想郷のレンにものすごく同情的に書いてしまって、一縷の願いのレンがうすくなってしまったかなぁと反省。
こんな作品ですが最後までお付き合い頂きありがとうございました。
次回作も(何書くか決めてないけど…)よろしくお願いします。
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-----------...ネバーランドから帰ったウェンディが気づいたこと【歌詞】
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