ルカさんと友達のテトさんは、テトさんがオーナーをするお店にお客さんを集めて、マジック・ショーをしようと考えている。
●2人で手品をしよう!
「ねえ、どれにする?」
テトさんは、売場の手品グッズを前にして、ルカさんに聞いた。
2人は、マジックのネタを買いに、ルカさんの行きつけの店、原宿のキディディ・ランドにやってきたのだ。
「そうね...この『シカゴの四つ玉』なんてどうかな」
「ダメダメ。それはかなり難しいのよ」
「うーん、いろいろあって、何がいいかよくわからないわね。そうだ、店長さんに聞いてみよう」
ルカさんはテトさんを連れて、カイくんのいる1階のレジに行ってみた。
「こんにちは」
「やあ、いらっしゃいませ。今日は、お友達がご一緒で?」
「どうも」
テトさんが会釈する。
「こんど、2人でちょっとしたマジック・ショーをするの」
ルカさんはカイくんに説明する。
「マジックですね」
「そう。子どもたちを集めてやるの。簡単にできて面白いもの、ないかしら」
「そうですね...」
カイくんと2人は、また手品売り場に戻った。
マッチを使う手品、ハトを使うもの、水を使うマジック...。いろいろ説明してもらったが、ピンと来るものがない。
「どうしようかな」
考えこむ彼女たちを見て、カイくんが言う。
「じゃ、とっておきの一品をおすすめしましょう」
店の奥から彼が出してきたのは、『ピエロのジョニーくん』だった。
紙で作られた薄っぺらいピエロが、人のかけ声や身振りに合わせて、2本の足で立ってとび跳ねたり、ぴょんと宙返りをしたりする。
「これは普段は売場では売らなくて、年末とかのパーティのシーズンだけ仕入れる“レアもの”なんです。1個だけ在庫があったので、お分けしますよ」
「わあ、面白そう」
テトさんは、大きな瞳を輝かせて喜んだ。
カイくんの、イキな“はからい”だ。さっそく、2人は『ピエロのジョニーくん』を買うことにした。
●テトさんのマジック、大絶賛
それから数日後の、日曜日の午後。
東京の郊外の小さな町にある、北欧雑貨のお店「つんでれ」。
テトさんのこのお店に、子どもたちとそのお母さんがおおぜい集まった。
彼女はお客様へのサービスとして、月に1度、小さなイベントをしている。
今日はテトさんとルカさんの2人で、マジックを披露する。
原宿で買った『ピエロのジョニーくん』。これは1人でやってるように見えて、実は2人でやるマジックだ。
ルカさんは、今回は裏方の役目にまわるのだ。
お店のカフェ・コーナーのテーブルをどかして、カーペットをひき、子どもたちとお母さんたちが座っている。
「さあ、はじめますよ。いいかい?ジョニーくん」
テトさんが、床の上に寝ている紙のピエロに声をかける。
「立て!」
ジョニーくんは、ピョンと立ち上がる。
わぁ、とどよめく子どもたち。
「ジャンプ!」
テトさんは、自分もピョンとはねる。
ジョニーくんも、テトさんを真似するように、ピョン!と跳んだ。
どうして、紙のピエロが動くのだろう...?。
じつは観客のフリをしてすわっているルカさんが、ポケットのボタンで操っているのだ。
秘密は、極細の糸だ。ポケットの中でボタンを押すと、糸がピンと張る。ボタンから指をはずすと糸がたるむ。
その加減で、ピエロがぴょんと立ったり、跳ねたりする。
子どもたちの歓声に、テトさんは大熱演。
ピョンピョン飛んだり、くたっと倒れたり...。
ピエロのジョニーくんも、そっくりに動く。
でも...ジョニーくんより、テトさんを見ている方が面白いくらいだ。
糸を操るルカさんの、練習の成果が光る。
ところが...ルカさんは急に、クシャミがしたくなってしまった。
知らずしらず指の力がゆるみ、糸がたるんで、ピエロは床にだらんと這いつくばってしまった。
「...あれ?」
テトさんは動きをやめ、思わずピエロに顔を近寄せた。
その時、テトさんの髪の毛が、糸に引っかかったのに、彼女は気づかなかった。
なんとかクシャミをこらえたルカさんは、またボタンを押し、ピエロはまた立ちあがった。
テトさんも安心して、自分も立ち上がる。
すると...
テトさんの頭の、きれいなロール・パーマの髪は、糸に引っ張られて、長く伸びてしまった。
「あっ!まずい!」
あわてたルカさんは、ボタンの指をゆるめた。そのとたん、
ギュルルン!
すごい勢いで、パーマの髪が回転して元の形に戻った。
あっけにとられる観客たち。
一瞬の静けさのあと、割れるような子どもたちの歓声が上がった。
「すごーい!」
「ぐるんって、回ったぞ」
「わあ、すごい」
子どもたちは一斉にテトさんのまわりに集まり、みんなでパーマの髪をさわろうとする。
「まわるんだぞ、これ」
「すごいねえ」
うしろで観ていた母親たちも、感心してうなずいたり、拍手をしたりしている。
子どもたちにモミクチャにされながら、赤い顔をして立ちつくすテトさん。
それを見ながら、ルカさんはピエロと糸をそっとしまって、つぶやいた。
「終わり良ければ、すべて良し」
(ナナメ上かな、これ) (。-_-)ノ
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