語り部の鎌を持てない死神の話
ようこそいらっしゃいました。このたびお聞かせするのは人を殺す術を持たない死神のお話です。

その死神は、人が死ぬ事を知る事はできても私情によって死ぬべき者を生かしてしまったり、生きるべき者を殺してしまわないように、殺すことは鎌と呼ばれる存在の仕事だったそうです。

実質仕事など割り当てられない死神は、退屈な気分を誤魔化す為、消え逝く者を探して、町を歩いていたそうです。
そんな日々を過ごす中である時、死神は可愛らしい伯爵の娘を見つけたそうです。

その娘は、病に倒れ医者にも手遅れだと告げられ、嘆く伯爵達が一人、また一人と部屋を出て行った後に姿を現した死神に娘は、今すぐに私を殺して欲しい、そう告げたそうです。

しかし死神には人を殺す術がなく、その代わり、きっと貴女も私と同じ、孤独で悲しい存在。死神でよろしければ友となって差し上げましょう、そう告げたそうです。

そして死神は娘に対し、残された時が幸せ満ちた時となるように友人として出来得る限りのことをしたそうです。
そしてある時、娘の願いで市場へと出向き、可愛らしい銀の首飾りを買ったそうです。

しかし、その頃から娘の病状は目に見えて悪化して行き、大人達が娘のことを心配し、気遣うようになったそうです。娘は大人たちを心配させないようにと、大丈夫だと強がっていたそうです。

いよいよその時が訪れようとしている娘に対して死神は、自分が誰かを愛しても悲しい結末しか待っていない、朽ちないこの身が憎い、貴女と共に星になりたい、と嘆いたそうです。
そんな死神に娘は、貴方と過ごせたから私は幸せになれた。そう言って晴れやかに笑ったそうです。

そして死神は、娘の亡骸に共に過ごした記憶を永久に守ることを誓ったそうです。

いかがでしたか?私のお聞かせした物語は。次に来られたときは何の物語をお聞かせしましょう。今日のところはここでお開きにしましょう。帰り道にはどうぞお気をつけて。よければまた、私の物語を聞きにいらして下さい。それではさようなら。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

語り部の鎌を持てない死神の話

語り部シリーズ21作目です。

閲覧数:299

投稿日:2010/01/14 22:15:51

文字数:864文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • あめ。

    あめ。

    ご意見・ご感想

    こんばんは・・・でしょうか
    はじめまして。あめ。と申します。
    私なんかがコメントしては勿体無い様な気がしますが、素敵な作品なのでつい・・・。
    語り部シリーズ、すべて素敵ですね
    では、失礼しました。

    2010/01/31 00:13:40

オススメ作品

クリップボードにコピーしました