「少しは落ち着いた?」

「うん…ごめんなさい。もう平気だよ」

「そっか、良かった」

微笑したレン君は不意に途方に暮れたような顔をして

「僕は正直君が羨ましいよ。長く生きなくてもいい。外へ出たい。本の中の知識じゃなく自分の目で世界が見たい。小さい頃はずっと思ってた。…何時の間にか忘れちゃってたけどね。けど君と話していたらあの時の気持ち…急に思い出したんだ」

「レン君…」

「はは…ごめん。駄目だなぁ、僕…。こんな事言っても君の事困らせるだけなのに。君と一緒に行けたら…世界を見られたならきっと楽しいんだろうな。そんな事許されないのは分かってる…分かってるんだよ」

「私、は…」

何を言おうとしたのか自分でも分からないまま彼を見つめると自嘲気味な笑みと目が合った。
そんな顔見たくなくて思わず手を伸ばそうとした時…空気が変わった。
来る…?

「どうして…?」

早すぎるよ!
待って…まだ駄目なの!
もう少し…もう少しだけでいいからこの世界に留まらせて。
彼に言わなきゃいけない言葉まだ見つかっていないから…!
私の内から溢れ出ようとするチカラを抑え込むように自身を抱きしめてみるけれど効果はない。
『時渡り』が…始まる。

「レン、君…!」

私の様子に事態を察したらしい彼が伸ばした手を取ろうとするが僅かに届かず空を切る。
独特の浮遊感。

「ミクちゃん!さよなら─────」

泣き出しそうな顔でレン君が何かを叫んでいるけれど。
周りの音は消え去り…もう何も聞こえない。
この広い時空(トキ)の中、逢える保証なんてない。
むしろ逢える可能性の方が限りなく低い。
それならば最後の言葉くらい聞かせてくれてもいいでしょう?
このチカラを一族に与えた『何か』につぶやいてみてももう遅い。
レン君の姿も遠くなり私は時にのまれていく。


もし…もしもう一度逢えたなら言葉の続き…他にもたくさんいろんな君の話聞かせてほしいの。
その時にはきっと私も言わなきゃいけなかった言葉見つかる気がする。

『覚えていて?大丈夫よ』

誰の言葉かも分からない随分前に聞いたような気がするその声。
それが何故か頭の中に響いている。
ああ…これは誰に言われたんだっけ?

『絶望しないで。きっとあなたも逢えるわ。私もそうだったもの』

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【小説】時の旅、一夜の邂逅(であい)3

「時の旅、一夜の邂逅(であい)」の小説版3です

閲覧数:232

投稿日:2011/02/16 03:28:09

文字数:964文字

カテゴリ:小説

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