他人を傷付ける術に長けている人は、もっとも有効な方法を知っている
相手の愛しい人に矛先を向ければいい。

そうして相手が自分の命を取るのか、最愛の人を取るのか
苦渋に満ちた選択をする、その過程を楽しむの。



というのが、天秤にかけられた側の、私の予測。
決断を迫られて思考回路が逃げ出した先。

目の前には傷ついた彼と、彼の命を握る奴らの歪んだ笑み。
彼の瞳は閉じられたまま、ただ赤い血が私の視界を奪ってゆく。
呼吸は少し浅めで、全部私のせいなんだと思うと、今にも狂ってしまいそうで。


わかってる、わかってるの。
選ぶべきものも、選びたいものも、守りたいものも、全部同じ。
あの日私の心を救ってくれた、あの暖かい笑顔を守れるのなら、私は。

恐怖に勝ってみせるの。



「レン、目を開けて、…レン」



私、幸せだった。
どんなに辛くても、苦しくても、あなたがいてくれたから。
独りじゃないって、揺るがない瞳と、まっすぐな言葉が教えてくれたから。

あなたが愛してくれたから。
幸せな思い出を、たくさんくれたから。

私、幸せだったの。



「……リ、ン」

「レン、」



意識が戻った彼にほっとした。
大丈夫、これでもう、大丈夫。



「レン、たくさん、ありがとう」

「リン……?何を、まさか、」

「レン」



伝えたいことはたくさんあるの。
だけどきっと、時間はそんなに残されていないから、ひとつだけ。

その為に、かみさま、今だけ私に強さをください。
だって最期は笑顔がいいの。そうでしょう。



「あいしてる」



鈍い音。胸の真ん中、突き立てたナイフに、痛みはなかった。
ただ、私が歩んだ道と、彼への想いの全てが詰まった箱に、鍵がかけられたような気がした。

忘れないよ。あなたと過ごした日々、ぜんぶ。


目を見開いて駆け寄る彼の、暖かな体温を感じる前に、世界は真っ暗になった。
彼はいま、私を抱きしめているのかな。
怖くて触れられなくて、震えているのかな。
ああ、たくさん怖い思いをさせてごめんね。もう全部、全部終わるから。

どうか、命が尽きるまで、涙を堪えていられますように。




さよなら、さよなら、さよなら、さよなら、




ねえ、わらって。




 

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  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

天秤(リンレン死ネタ)

なんにも考えずに、とにかく胸が悲しさで詰まって
最後は「さよなら」とかで終わるやつ書きたいなあと思ったらできたものです。

基本書くときは特に何も考えてません。突発的に浮かんできたものだけ書き起こしてます。
今回は突発的に浮かんでないのですが、なんか書きたい!と思いまして…

誰かの何かのイメージがつくられるきっかけとかになれればすごく、嬉しいなあと願いつつ。
そんなすごいものできるわけないわー。はあ。笑

閲覧数:369

投稿日:2011/11/06 22:37:21

文字数:956文字

カテゴリ:小説

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