運命の悪戯か、はたまたタチの悪い冗談だろうか。
あの日居なくなった年長組、昏睡状態に陥った長男カイトと長女メイコが居なくなってから早一年。
悪夢のクリスマスイブ。もうどれほどイブなんて無くなれば良いと考えた事だろう。
史上最悪のクリスマスプレゼントを貰ったあの日、大切な人を同時に二人も失って途方に暮れたあの日。もうプレゼントなんていらないと思った。
もし叶うなら、二人を返してほしい。どうせ叶いはしない願いなら、もう願いはしない。
史上最悪だった。もうこれ以上悪いプレゼントなんてないだろう。去年のイブにそう思った。
それなのに―――
ミクはやっと大嫌いなクリスマスの一日を乗り越えたと伸びをしていた。今日と言う日が終わるまで後一時間。
もうリンもレンも寝てしまった。良い子はこんな時間まで起きていてはいけないのだ。
仕事もして、家事の一切もこなして、すっかり母子家庭の母親状態になったミクは嫌いな一日と言う事もあって普段の疲労に加え気疲れでダウン。戸締まりも完璧にはしていない状態で意識を失うように寝入ってしまった。
「いい?だから…」
「いちいちうっせーなぁ。言われねーでもわかるってーの」
男女の話し声にミクは目を覚ました。リンやレンではない。
驚いて飛び起きるとミクは謎の侵入者が自分のすぐ目の前に居る事に気がついた。
「あら、起こしちゃったかしら?ただいまミク」
「こんな所で寝たら風邪引くぜ?戸締まり確かめてから自分の寝床へ行って寝るんだな。今日は締めてやったから今後気をつけろよ?」
ミクが目にした侵入者はとても懐かしい人物達だった。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!!」
お帰りなさいとミクは待ち望んだ兄姉の帰還に喜び、二人に飛びついた。
「心配かけてごめんなさいね。事情は明日説明するから今日はもう寝なさい」
これが夢なんかではありませんようにと願いながら、メイコに言われるがままミクは自室へ帰って眠りに就いた。疲れていたせいで気付かなかった異変を見過ごしたまま。
イブが明け、翌朝。
妹弟達は目覚めた。ここ一年程慣れた閑散とした生活は終わりを迎え、また以前のような明るさが一家に戻っていた。
ミクはここ一年間で慣れた家事を手際よくこなして行く。入院前の長兄の手際の良さには劣るが料理だってレパートリーも増えたし上手になったものだ。
「ねぇ、レン?何かお兄ちゃんちょっと様子変じゃない?何かこう、前と違うと言うか…」
「あぁ、それ俺も思った。兄貴はあんな喋り方しねぇよなぁ?何か前よりファンキーになった気がするよ」
ヒソヒソと話し合う双子。言われた本人はあまり気に留める様子もなく横になって音楽を聴いていた。控えめで遠慮がちのカイトだったが、今回は珍しく大音量で音楽を聴いているらしくシャカシャカと音漏れしていた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃんが帰ってきたお祝いに、お兄ちゃんの大好きなダッツのバニラ買ってきたんだよ!はいっ!」
目を閉じて音楽を聴いていたカイトはミクの大声で片目を開いてミクを見た。忌々しげな表情で青い瞳が鬱陶しいと告げている。
「お前が食えよ。俺いらないから」
カイトはそう言うとごろりと寝返りを打った。
普段ならいつどんな時どんなアイスだろうとアイスと聞けば飛びつくカイトなのだが病院から帰ったカイトはアイスと聞いても見向きもしなかった。
「…お兄ちゃん、体調まだ良くないの?…」
「何で?」
「だって、お兄ちゃんが大好物のダッツいらないなんて…」
心配そうに見つめるミクを横目にカイトは聞いた。答えたミクは今にも泣きそうだった。
「おいおい、その程度で泣くなよ…別に俺がアイス食わなくたって世の中がどうにかなるわけじゃねぇんだからよ。それに、そんな女子供のお菓子なんざ俺は好かん」
ミクから視線を外し、またごろりと寝返りを打つカイト。もう話す事も無いと言う様子だ。
「…嘘だよ…こんなのお兄ちゃんじゃないもん!お兄ちゃんを返して!返してよ!!」
「馬鹿、よせ…!」
カイトは横になったまま、殴りかかってくるミクの両腕を捕らえて暴走を封じた。
「離してよ!」
「離したらお前俺の事殴るだろ?少しは落ち着けよ」
見た目はいつもの青い兄。だけどアイスが大好きで三度の飯よりアイスだった兄が今アイスを完全否定し、ケンカの際は無抵抗だったはずなのに今ミクの振り上げた拳を不安定な状態で受け止め拘束した。
昔とは違う。殴られるなら黙って殴られていたカイトが今は自己防衛のためとは言えミクの腕を捻り上げている。
カイトはミクの腕を拘束したまま器用に上体を起こし、ミクに向き直って拘束していたミクの腕をゆっくり下ろしてやった。
「落ち着け。認めたくないならそれで良い。だが、俺が俺である事実は変わらない。嘘だとか言われても俺だって困る。お前が認めなくても俺は俺だ」
「っ…!」
ミクはカイトの言葉を聞いて反論もできず家を飛び出した。
「チッ…」
バツが悪そうにカイトは舌打ちした。
「カイト!」
「出かけてくる。お前らも俺が居ない方が良いだろ?お前らにとって俺は邪魔な偽物さ!」
カイトの気持ちが分からないメイコではない。メイコはカイトを叱る事ができなかった。
カイトは病院で生死を彷徨った。生還しても後遺症に苦しんだ。厳しいリハビリを乗り越え、やっと帰ってきたのに家族からは冷たい仕打ち。性格の変化は後遺症の一つなのに誰もその事を理解しない。記憶は確かなのに考え方が正反対になってしまう。
事情を思えばメイコは余計にカイトを叱る事ができなかった。
「あいつは、たぶん公園にいるぜ…小さくてちょっとわかりにくい公園だが、近所の奴に聞けばわかるはずだ」
ぼそっと小さな声でメイコに告げるとカイトはそのまま外へ出て行ってしまった。
メイコは心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じながらミクを迎えにカイトの言った公園を目指した。
公園は確かにわかりにくい所にひっそりと存在した。小さいながらも近所ではよく知られた公園である。
公園からはキィキィと言う金属のこすれる音がした。ブランコである。ブランコからは長い緑のツインテールが生え、地面を擦るように引きずられている。
「…お姉ちゃん!」
メイコの気配に気付いたミクがブランコから飛び降りてメイコに抱きついた。
「カイトが教えてくれたの。さぁ、もう帰りましょう。みんな心配しているわ」
不思議そうなミクにメイコがネタばらしするとミクは困惑した表情でメイコを見つめた。メイコは何も言わずミクを抱きしめ、二人仲良く家に帰った。
帰り着くと調理場からおいしそうな香りがした。みんな出て行ってしまったからもしかしたらリンが頑張って料理しているのかもしれない。それにしても普段料理しない子がよく失敗せずに調理できたものである。
メイコが感心していると、レンがリビングから調理場に走って行く所が見えた。
「兄貴、夕飯まだ~?リンももう待ちきれないってさ」
「いつでも食えるぞ。五人分の食器並べとけよ」
言い方は荒っぽいが清涼感のあるカイトの声だ。レンに指示を出すとカイトは鍋を手にリビングへ向かった。玄関先に立っていたミクとメイコは目の前に居るカイトらしき人物を見て思わずわぁっ声を上げた。
「ちょっと、一体何があったの?!」
メイコが驚いて駆け寄ると呆れ顔のカイトがため息をついて答えた。
「お前ら俺の一挙手一投足にいちいち反応し過ぎだろ?俺がイメチェンしちゃいけないわけ?」
カイトは確かにカイトだった。けれどその見た目はあの鮮やかな青から燃えるような赤に変わっている。髪色も、目の色も、服の色も全てだ。髪型もさらさらストレートから少しつんつんとはねたような形になっている。
「思い出話くらいならしてやるよ。でも、俺はお前らの知るカイトじゃねぇんだろ?それじゃぁ別人って事で良くねぇ?その方が分かりやすいだろ。まぁ、新参者って事でこれから頼むわ」
カイトは爽快に笑った。ぎこちなさも吹っ飛んで生まれ変わったように。
昔も今も変わらない料理上手なカイトが、今まで一度として出した事のなかった激辛のチゲ鍋を振る舞って、今日は赤いカイトの歓迎会。
クリスマス、サンタがくれた最低で最高のプレゼント。
バッドエンドと呼ばれた奇跡
『もう一つのエンディング』の続編?です。
KAITOがAKAITOになりました(´・ω・`)個人的にAKAITO好きなのでやっちまいました。
しっとりとした感じが伝われば幸いです…。
出来ればチラ見だけでもして頂き、感想などを寄せて頂ければより一層創作意欲にry
11/3/17追記:
ブクマ頂けたようで嬉しいです!><
こんな駄作でも読んでくれる人が居ると思うだけでやる気出ます;;←泣いて喜んでる図
このシリーズ?は曲聞きながら書いた物ですが、他にも何か良い物あったら教えて頂けると作品の幅も広がるのでは?と思います^^
これ書いて!って話題振りも私に出来るならチャレンジしたい所ではありますが…
良ければ他の作品も見て下さいねー^^ノ
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