大人になってから過ごす時間(とき)というものはあっという間に過ぎ去るものだけれど、楽しみにしていることがあったりすると、時間の流れはゆっくりゆっくりと感じるから不思議なものだ。
――待ってるよ、海斗(カイト)――。
彼女との遠距離恋愛を始めてまだ約1カ月の月日しか流れていない。遅い、遅すぎるぞ時間の流れよ。お願いだからもう少し早くなってもらえないものか。そんなことを思いながら、仕事の内容がびっしりと詰まっているノートパソコンに目を移す。
「今日も残業……か……」
入社してまず与えられた仕事のノルマ、それは俺の予想を遥かに超えるもので、残業続きの毎日。それは俺以外にも一緒に入社した奴らも同じで、おれはまだほかの奴らに比べて進んでいるくらいだ。少し舐めすぎていたようだ。未来(ミク)に対してあんな大口を吐いてきたのはいいが、ここ1カ月ですでに心が折れそうなほど忙しい。彼女に対してまともに連絡すら取れないほどだ。いったいどれだけ寂しい思いをさせてしまっているだろうか……。
仕事に集中できずに頭を悩ましていると、ふいに首筋に冷たいものを押しつけられ、思わず小さな声で奇声をあげてしまった。
「よう、何悩んでるんだ?」
首を少しひねりその犯人を睨みつけると、そいつは少し怯んだような態度をとったが、悪びれた様子もなくニヤリと笑って見せた。
「何の用だ、レオン」
そいつは俺と同期の男、レオン。名前からわかるとおり、彼は日本人ではない。見事なまでの金髪に少し老けた顔――おっと失礼、ダンディーな顔立ちをしており、とても俺と同い年とは思えない。中学に上がると同時に日本にやってきたらしく、日本語も英語もペラペラのようだ。
「ははっ、あまりに悩みこんでる表情(かお)してるもんだからついな。そんなに何に悩んでるか知らないが、そんなに悩みこんでると、幸せが逃げちまうぞ?」
俺だって、悩まなければいいのならば悩んでなんかいない。これは俺が仕事をなめていた報いなのか、これからのことも考えていない俺はこうやって悩むことしかできない。
「能天気なお前にはわからないさ……」
未来……会いたいよ。君の笑顔と歌声に癒されたい。早く君のもとに帰りたい。
「冷たいな。せっかく同期になったんだぜ?これも何かの縁だ、仲良くしようぜ」
正直こいつとは気が合わないような気がする。それに、仲良くしようといわれてそう簡単に仲良くできるハズもない。おれ以外にも同期の奴はいくらでもいるというのに、何故こいつは俺ばかりにつきまとってくるのだろうか。
「海斗は真面目な奴だな。たまには気晴らしをしないか?」
そろそろ鬱陶しくなってきたので、俺はレオンの無視を決行して仕事を再開する。無視をしているのにも構わず、レオンは淡々と話し続ける。そして、とある一言が俺の耳に届いた。
「――桜を見に行かないか?」
桜、俺はその言葉に反応した。桜……未来に桜が咲く頃に戻ると誓ったあの日も、綺麗な桜が咲いていた。
「いいよ」
突然無視していた俺が答えたことに驚いたのか、レオンは目を見開いて俺を見る。
「行こうじゃないか、花見にな」
ちょうどいいことにこの支部があるのは東北だ。桜が咲くのも東よりも遅い。今なら満開の桜が見れるだろう。
「ノってくるとは思わなかったよ。だけどさすがに男2人では寂しすぎるじゃないか。かわいい女の子でも誘おうぜ」
かわいい女の子なんていらない。俺には未来がいる。もしも誰かに好意を抱かれたら厄介だ。プライベートで女性と関わるのは遠慮したいものだ。
「悪いが――……」
「その話、私も混ぜてくれないかしら?」
俺の言葉を遮るように、澄んだ女性の声が聞こえた。声が聞こえた方を向くと、ショートヘアーでスレンダーな体形の女性が立っていた。
「やあ、芽衣子(メイコ)。君も参加したいのかい?」
芽衣子、先ほど言った通りショートヘアーに体系はスレンダー。今にもばタンをはじいてしまいそうな巨乳が誰もの目を引く。しかも割と美人で性格も良しとくる。俺たち同期の中でも特に目立つ存在だ。……性格が男っぽくなく、喧嘩が強くなければ、個人的にいいのだが、こいつは新人いびりすら跳ね返してしまうやつだ。俺は正直なところ苦手だ。
「ええ、楽しそうだもの。それに花見と言ったらお酒でしょ!」
……止めに、かなりの酒豪ときた。彼女の飲みっぷりは、新歓で嫌というほど思い知らされた。
「いいよ、じゃあかわいい女の子も参加することだし、メンツはこれでいいかな?」
気がノらなくなってしまったが、今更断るのもバツが悪く、俺はいいと返事をしてしまった。花見は今週の日曜日。ああ、今から憂鬱だ。
そして、仕事の疲れと未来と離れていることの不安と、更にはメンツによる憂鬱感を背負いながら、当日を迎えるのであった。
桜の季節・桜の季節-separation-・白の季節を小説化してみた。-第1章・separation 1 -(※カイミク注意)
プロローグ
http://piapro.jp/content/jj60e2nkjj4rtlul
この小説はゆうゆP制作の
桜の季節 - Full.ver 【初音ミク】(オリジナル)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1427306
桜の季節 -Separation-【初音ミク】(オリジナル)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4913436
白の季節 【初音ミク】(オリジナル)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1646686
上記三つの作品を自己解釈で小説化したものです。あくまで自己解釈になりますので、自分のイメージを壊したくない方、自己解釈小説が嫌いな方は、申し訳ありませんがお戻りください。
こちらの小説は桜の季節がメインになりますので、白の季節の内容は少なくなります。
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そんなことを言って本心は欲しかったのは共感だけ。
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苦しいから歌った。
悲しいから歌った。
生きたいから歌った。ただのエゴの塊だった。
こんな...君の神様になりたい。
kurogaki
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