「どうして泣き叫ぶ?よかったじゃないか、蹴落とす敵を減らしてやったんだぞ」
違う、違う、違う…!
「これで余計な感情なく戦えるんだよ?」
違う、違う、違う…!
「まだ泣くのか、お前は一体…」
「違う!!!!」
ついにグミは叫び、顔をあげた。二人の声が聞こえていたはずだが、視界には姿は移らなかった。しかし、声はだんだん近づいてきていた。
「何が、違う」
「違うったら違う!リリィは私の…」
言いかけてグミは止まる。
私のなんだっていうの?
リリィは私の戦友だった?
それとも忠実な僕だった?
もしくは私がリリィの駒だった?
「答えられないじゃない」
嘲るようにリツが言い放った。
グミは錯乱していた。リリィがやられてどうして泣く。本当に悲しいこと?実はとっても助かったこと?でもそんな、そんな…。
「…なんかまあよくわからないけど、取りあえず一つ言っておくわ。…ありがとう」
その時、リリィの屈託ない笑顔が脳裏に浮かんだ。
…ああ、そうだった。あの時確かに私はリリィに対して、こう思ったんだ。
「…ま、よ」
「なんだって?」
「仲間、よ!」
グミは叫んだ。
いつの間にかデフォ子とリツが目の前にいた。
「…随分と面白いことを言うじゃない」
「私は正気よ?リリィは、私の大事な仲間!どんな状況下であろうと、それは変わらないわ!」
キッと、二人を睨みつける。
「…ははは、まさか本当にそんなこと言うやつがいるとはな!」
だが、デフォ子は笑った。
「なによ」
「この状況下でそんなこと、言うやつがあるか。第一、」
ここでデフォ子の声のトーンが一気に下がった。
「そんなこと考えてこのゲームに参加してる奴なんか、いないよ」
「…!」
グミは言葉に詰まる。
「おまえは甘い」
さらにきつい言葉をもらい、グミは下を向く。
「さて、これで二対一だし、あいつの脱落は私たちにとっても」
「許さないよ」
「は?」
グミは再び顔をあげた。
「ええ、私は甘いかもしれない。実際、リリィを倒すチャンスなんて、思えばいくらでもあったもの。逆も然りよ。でも私たちはそれをしてこなかった」
「…なら、訂正する?甘ちゃんはあんただけじゃなく」
「そういう事じゃない!確かにいつかは倒してやるって気持ちを持ってたわけじゃなかったけど、それでも私たちは二人でいることを選んだ!…だからね、」
グミは深呼吸をすると、続けた。
「私はあんたたちを許さない。大事な仲間を奪った、あんたたちを!」
泣き顔はいつの間にかなくなり、その視線は、二人を狂いなくとらえていた。絶対、絶対、許さない!
「決意が固まったところ悪いけど、さっそくここで消えてもらうよ!」
リツがマイクを構えた。グミもすぐに応戦しようとしたが、その前に一筋の閃光が襲ってきた。
「『命のユースティティア』!」
その光線はリツをとらえた。
「うわああ!」
「まさか…」
デフォ子が初めて動揺を見せた。
「鏡音レン…!」
「全部聞かせてもらったよ。俺としては、色々と反論したいところだね」
「いつから…」
「ずっと隠れてたよ。ホントはさっさと逃げてミク姉やリンと合流したかったけど、なんか色々話がはじまったからさ」
グミはレンを見る。なんだかいつもより落ち着いたような雰囲気だった。
…ここまで冷静なレン君、初めて見たかもしれない。
「いつつ…」
攻撃にやられたリツが戻ってきた。
「…まあ、どのみちやることに変わりはない、リツ」
「うん!」
デフォ子とリツがマイクを構えた。
「レン!」
「グミ姉!」
二人は声を掛け合った。
「『恋愛フィロソフィア・カバー』!」
「『コンビニ・カバー』!」
デフォ子とリツの攻撃、二人は左右に分かれ、マイクを構えた。
「「『ドラゴンライジング』!!」」
離れた場所からそれぞれ放たれた光線は一つにまとまり、デフォ子たちのそれを軽々と跳ね返した。
「デュエット…だと!?」
光線は二人めがけて一気に襲いかかる。
「『闇色アリス・カバー』!」
何とか勢いを殺そうとデフォ子は歌ったが、かなわない。
「ぐああああ!」
「うわあああ!」
デフォ子とリツの悲鳴が重なる。
「この…」
何とか体制を立て直そうとするが、すでに二人はとどめを刺しにかかっていた。
「「『嗚呼、素晴らしきニャン生』!!」
物凄い土煙が上がった。
「く…!」
あまりにものすごい威力だったため風圧も大きく、グミの身体は少し後ろに押された。
「…なっ!」
レンが声を上げた。
「デフォ子、どこだ!」
どうやらデフォ子がいないらしい。
ようやく煙が晴れた。そこには倒れたリツと、レンしかいなかった。
グミもあたりを見渡したが、視界には崩れた柱が時々映るのみ。先ほどみたいに声が聞こえてもこない。そして、気配もない。
「…逃がしちゃった、か」
ぽつん、とグミは呟いた。
レンも大きなため息をついた。
そして、自然と二人の視線が合った。慌ててお互いに逸らしたが、やはり何か言っておかねば、とグミは思った。
「…ありがとう」
「別に俺は何も」
レンはそう返した。
しばらく沈黙が続く。なぜだろうか、お互い戦う気は全く起こらなかった。
「…間違って、ないと思うよ」
レンが先に口を開いた。
「何が?」
「仲間がうんぬんって話、さ」
「…そう、だよね。…でも…」
グミは何かを言おうとしたが、開けた口から何も言葉を発することができなかった。
…あの時デフォ子たちに言われたこと。なんていえばいいんだろ。それと、私のこの複雑な感情、なんて言い表せばいいんだろ…。
悩んでみたもののなにも出てきそうにないので、質問をしてみることにした。
「…ねえ、もし、あなたとリンちゃんとミクだけが最後に残ってとして…その時はどうするの?」
「どうするか…か。グミ姉にはまだ話したことなかったか」
レンは一つ間を置くと、以前ミクやルカに言ったようなことを再びグミに言った。
自分はリンと一緒に勝ち抜けないなら勝ち残りたくはないこと、リンも全く同じ思いであること。
だったら、今までお世話になったミク姉に、勝ってほしいこと…。
「綺麗事に聞こえるだろうけどさ、今までそういうつもりでやってきたんだ」
「…そっか」
「うん」
グミは考える。私はどうなんだろう。
二人でいた時、そんなこと考えもしなかったから…。
頭の中で、何かがぐるぐると渦巻いている。今までただトップをめざし、人間になることを目指していたグミに、初めて生まれた疑問だった。
「じゃあ、俺…行くね」
レンはそう言って歩き出した。
グミはそれを止める気にもならなかった。
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