妹は、歌う事が大好きだった。
 しかし、人前では決して歌わなかった。
 自分の歌を聞いた人は不幸になる…それが、妹の口癖だった。

 妹はいつも人のいない所で歌っていた。
 彼女の歌を聴くのはいつも鳥や獣。
 それでもいいと彼女は言った。

 私は、そんな妹が大嫌いだった。
 しかし、両親に嫌われるのが怖くて言えなかった。
 仲のいい姉妹を演じるしかない自分が許せなかった。

 妹はいつも話していた。

「あたしが歌うと鳥や獣が寄って来るの。
 皆、幸せそうな顔で聴いているわ。
 この時がいつまでも続けばいいのに」

 鳥や獣に幸せを与え、その事に幸せを感じる彼女。
 適当に相槌を打つ自分。
 そんな関係が続いた。

 …あの日までは。

 8月の暑い日、家族で旅行に出かけた。
 生まれて初めての船旅。
 妹ははしゃいでいた。
 嬉しいのは見てすぐに判った。

 …そして、事件は起こる…

 嬉しさのあまり、周りに人がいるにもかかわらず妹が歌い出した。
 彼女の歌は嵐を呼び、船を破壊した。
 私を含む十数名は船の残骸に掴まった為、無事だったが…

 …妹を含む数十名は海の底に沈んでしまった。
 文字通り、海の藻屑になったのだ。

 あれから数年…

 事故が起こった海では少女の歌声が聞こえるという。
 その歌を聞いた人は皆、海の底に沈んでしまうそうだ。
 今では近付く者もいない。

 歌っているのは妹だろう。
 自分の死に気付いていないのか、生者を恨んでいるのか…知る術はない。
 私が知っているのは…

 …歌声の主がセイレーンと呼ばれている事。

イメージ:
私-ミクかルカ
妹-リン

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

歌姫が海魔女になった理由

 歌は聴く者の心を揺り動かします。
 勿論、不快に思う歌があるという人もいるでしょう。
 けれど、聴く者が何も感じないのであればそれは歌ではない…そう思います。
 もし、その歌が災いとなったなら…そう考えました。
 歌と音楽について考えてくれたら嬉しいです。

閲覧数:157

投稿日:2011/12/04 14:37:57

文字数:705文字

カテゴリ:その他

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