四月。世間では入学や新学期と言った始まりの月。桜の花も満開で学校の校庭も一面桜色の絨毯に覆われていた。
 まさか入学式当日に遅刻するなんてベタな失敗を犯すとは由々しき問題である。この大失敗を挽回すべく食パン一枚口に咥えて学校に向かって直走るのはこの日入学式を控えていた女子高生。すぐ角を曲がればもう学校は目の前だ。
 学校目前の曲がり角、入学式に遅刻するより更にベタな出会いがあった。

ドスン

「うわ!」
「ってて…はっ!ごめんなさい!大丈夫ですか?!」
 曲がり角の出会い頭なんてベタにも程がある。これで恋に落ちたなんて言ったら中二病と言われかねない!腐女子乙女にそのネタはむしろおいしいくらいかもしれないが今はそれどころではない。入学式に遅刻してしまう。
「あはは。だ、大丈夫です…」
 どう見ても大丈夫ではない。顔面が大惨事だ。相手は青い髪をした青いマフラーと白いロングコート、手にはアイスと言う季節感のない出で立ちだった。端整な顔立ちをしているが女子高生との正面衝突のせいで手にしたアイスを自分の顔面にぶつけたらしい。顔がバニラアイスまみれになっていた。
「あーわー!どうしよう、汚れちゃった。あぁでも学校、あーぅー…」
 悩んでいる間にハンカチの一つも差し出してさっさと学校に行けば良い物を何一つ出来ずに困る要領の悪い女子高生であった。
「学校に行きたいんですか?」
 青い男が不思議そうに首を傾げた。そして何か思い立ったように立ち上がると自分のマフラーの端で顔を拭き、にっこり笑って女子高生をお姫様抱っこした。途端、女子高生はふわっと浮かぶ感覚とずっしり押しつぶされるような重圧を感じた。
 気付いた時には学校に着いていた。まるで手品か超能力。神隠しにでも遭ったのではないかと思える程景色は一瞬でがらりと変わっていた。
「あ、ありがとう…あれ?」
 何はともあれ青い男の力だろう。いつの間にか何事も無く学校前に立たされていたが女子高生は思い出したように青い男にお礼を言った。しかしその時既に男の姿は消えていた。
「何だったんだろう?…ま、いっか」
 女子高生はベタで楽天的でついでに腐女子だった。

 謎の青い男のお陰で女子高生は無事入学式に間に合った。ベタでドタバタな一日が終わり、家に帰って一日の疲れをとろうと考えていた女子高生はふと朝の青い男の事を思い出した。
「青い髪に青い瞳、白のロングコートに青いマフラー。暖かくなった春先に場違いの冬服と対照的な食べ物のアイス…まさかね」
 腐女子は妄想を振り払い、コンビニで大好物のアイスを買った。この娘の一家は冷たい物が大好物で、冬でも冷凍庫にはアイスが常備されている。アイスに限らずかき氷や普通の氷も大好き。とにかく冷たい物が好物なのだ。
 女子高生は家に着くと溶けかけのアイスとスプーンを持って自室へと向かった。
「今日はコラボ企画上げなきゃいけないから忙しいのよねぇ~ん♪」
 機嫌良さそうに自室のドアを開けると何故かそこには青い男が立っていた。
「んな?!」

バタン

 驚いた女子高生は慌ててドアを締めて親を探した。
 間違いない、朝ベタな出会いをしたあの青い男だ。だけど何故自分の部屋に居るのかについて女子高生には全く思い当たる事がなかった。
 母親に事情を聞くと何と言う事はない。ロボット工学を研究する兄から新型のアンドロイドのサンプルを作ったから一台くれるという物だった。
「アンドロイド?…」
 女子高生が酷い中二病腐女子で、ボーカロイドのファンだと言う事を知っていた兄は実体を持たないプログラムだったそれを三次元デビューさせてみようと思い立ったのだ。成功したので実地テストを兼ねて一台妹に提供したと言う内容の手紙を女子高生は母親から受け取った。
「ボーカロイド…!」
 思い当たるのは女子高生が一番好きなボーカロイド、アイスの好きな青いお兄さん。女子高生は腐女子パワー炸裂で興奮気味に自室のドアを開け放った。それはもう壊れんばかりの勢いで。
「カイト!」
「あなたがマスターだったんですね」
 カイトは柔らかな笑顔で新しいマスターを出迎えた。初めて会った時、ひどくベタな出会い。次に会ったら姿を見た瞬間に逃げる。最後に会った今、女子高生はカイトのマスターになった。
 ベタ過ぎる、ベタな腐女子とベタな出会いとベタな日常。夢に見た非現実がベタ過ぎる一日の最後に現実になるなんて、これで恋などしよう物なら末期症状も良い所だけど気にしない。だって腐女子とカイトだもの。
 マスターをこよなく愛すカイトと、カイトのファンだったマスターのベタだけど新しい生活が始まる。



―――おまけ。
「マスター、いくら何でもそれはないですよ…」
「いいじゃん減るもんじゃないし!裸マフラーは腐女子の夢だよ!」
 マスターがパソコンで使っていたプログラムのカイトと自作の絵で作った動画をカイトに見せたらかなり引かれたのはまた別の話。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ボーカロイドカイト

コラボ参加記念、テーマ『春』に合わせて「ベタな出会い」をイメージしてみました^^
私にしては短くまとめたつもりの短編です゜゜;

最初ホラー調を予告していたのにベタな中二病恋愛小説風になってしまったorz
でも、春と言えば恋の季節かな?なんて思ったのでつい…(´・ω・`)

閲覧数:322

投稿日:2011/03/23 19:49:49

文字数:2,051文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • なつと

    なつと

    その他

    この女子高生羨ましすぎる…ッ!
    欲しい…実体KAITO欲しい…。
    とりあえずロボット工学を研究している兄貴はどこにいけば売ってますk(蹴

    良い感じに季節テーマも織り込んであって素晴らしいですねー。
    次回は実体KAITOくんが裸マフラーになるんでしょうか期待してます(ぉ

    2011/03/24 22:04:20

    • 鐘雨モナ子

      鐘雨モナ子

      おぉぉ@@
      恐れ多くもコメントを賜るとは…!
      ありがとうございます><。

      作品のコメント貰うの初めてで緊張です@@;
      でも、とってもうれしいです><

      裸マフラーネタで春だと捕まりそうな気配ですが何か考えましょうか?゜゜
      ちなみにロボット工学の兄貴はタイムマシンに乗って未来で…(

      2011/03/24 22:10:45

オススメ作品

クリップボードにコピーしました