※※百合注意※※
ルカリン。ハッピーバースデー、ルカ。というわけでルカ誕生日ネタでルカリンです。
++++ 枕元には…… ++++
「えっと、これは……」
ベッドから身を起こしたルカから思わず戸惑いの声が漏れた。というのも無理もない。床に着いたときにはいなかった人物が、同じベッドで伏していたのだから。
人のベッドで安らかな寝息を立てて、気持ち良さそうにリンが眠っている。その頭にはトレードマークの白いリボンが踊っており、もしやと思いルカが上掛けをめくってみれば、着ているものはパジャマではなく、いつものノースリーブにハーフパンツといったいでたちが現れた。
「ふむ……」
これはつまり、とルカは考える。つまり、リンの服装から見るに、彼女がやって来たのは夜中ではなく、朝起きてからだろうと。
しかし、そこまでは分かったものの、そこから先が分からない。なぜ彼女がこの部屋にやって来たのか、そしてなぜここでこうして寝ているのかも。
それを知るにはリンを起こさねばならないのだが、ここでルカの手が止まった。あまりに気持ち良さそうに寝ているその顔に起こすのがためらわれたのだ。だがそれも一瞬。ルカ本来の性質であるサドッ気が彼女の中で頭をもたげ、その面には悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
ルカはゆっくりとリンの耳元へ近づくとそこへ囁き声を落す。
「リン、早く起きないと食べちゃうわよ」
そして今口にした言葉を証明するように、リンの耳朶をそっと甘噛みした。
「ヒャッぁぁ! なっ、なっ、なっ、何!?」
ボーカロイドという特性上、人間より性能が良い聴力を持っているリンはルカの囁き声だけで覚醒していた。そこに加えてルカのこの仕打ちである。何事かと慌ててリンが飛び起きた。
「おはよう、リン」
「おは、おはよう……」
愉快そうに微笑むルカに対し、リンは気まずそうな表情を浮かべる。そこに付けこむようにルカが追求を始めた。
「リンはなんで人のベッドで寝てたのかしら」
「それはー、えっと……」
「言えないようなことなの?」
「ちっ、違っ! 違うんだけど……」
「じゃあ、何」
なかなか口を割ろうとしないリンにルカはジッと視線を合わせる。そして軽く首を傾げてリンを見つめ続ければ、すぐにリンが音を上げた。
「あーっ、もうっ! こんなはずじゃなかったのに!」
「リン?」
「ルカちゃんっ!」
「はっ、ハイ!」
開き直ったのか、逆切れなのか、リンが大きな声を上げてルカを逆に睨み返す。その勢いにのまれたルカが姿勢を正した瞬間、リンが口を開いた。
「誕生日おめでとう!」
「はっ?」
「だ か ら、誕生日おめでとう、ルカちゃん!」
「あ、ありがとう」
突然飛び出した誕生日を祝う言葉に、ルカは戸惑いを隠せない。リンがこの部屋で寝ていた理由を問うていたはずなのに、返ってきたのは予想外の言葉。それも嬉しい言葉だったから。
何とかお礼は口にしたものの、それ以上なんと返せばいいのか分からないまま、ルカがリンを見つめていると、彼女が何事かをつぶやいていた。いや、これこそがルカの問いに対する答えそのもの。
「あああ、こんなはずじゃなかったのにぃ! ルカちゃんが目を覚ましたら真っ先におめでとうを言おうと思って待機してたのに。まさかお布団の魔力に負けてあたしが寝ちゃうなんて。不覚……」
言うだけ言うとガックリという擬音が聞こえそうなほど、オーバーにリンがうなだれた。
そうなのだ。リンがルカの部屋に来たのも、そのベッドに入ったのも全ては誕生日を祝うため。そこに少しだけルカを驚かせようという思惑があったのも事実だが。
しかし、今となってはそれも水の泡。誰よりも先に誕生日を祝えたには違いないのだが、サプライズは失敗したと言っていいだろう。寝起きのルカを驚かせるどころか、自身が起こされる側に回ってしまったのだから。それもあんな方法で。思い出した瞬間、リンの顔に朱が差した。
「うううー」
「ふふっ」
「ルカちゃん?」
「ふふっ、ありがとう、リン」
理由が分かってしまえばなんてことない。リンの思惑が嬉しくて、それ以上に今、それが上手くいかずに悔しがってるリンが可愛くて、ルカにいつもの調子が戻った。
その口元に妖しげな笑みが浮かべると、そっとリンを抱き寄せた。
「るっ、ルカちゃん!? と、突然何!?」
「リンは私の誕生日をお祝いしてくれるんでしょう?」
「う、うん……」
「だから誕生日プレゼントを貰おうと思って」
「へ!? そ、それでなんで、だっ抱きつくのー?」
突然のルカの行動が読めないと、その腕の中でバタバタとリンが暴れる。ルカは少しだけ腕の力を緩めると、リンへとっておきの笑みを向けた。ただし、その色は相変わらず妖しい。
「だってプレゼントは枕元にあるものでしょう? そして、枕元にはリン貴女がいたわ、ね」
「そっ、それはクリスマスでしょうー!」
「どちらでも変わらないと思うけど」
「変わるよっ!」
リンが思いっきり反論をしようともルカには通じない。相変わらず妖し気な瞳でリンを見つめ続けるだけ。だってルカは知っているのだ。リンが結局折れてくれることを。それだけ自分を想ってくれていることを。事実――
「きょ、今日だけだかんね」
拗ねた表情を見せながらもリンがギュッとルカに抱きついてきた。それに応えるようにルカが抱きしめ返せば、リンが顔を上げた。そこに浮かぶのは先ほどまで拗ねてたのを忘れたかのような満面の笑みで。
そして。
「ルカちゃん、誕生日おめでとう! ……大好き」
最高のプレゼントがルカに贈られたのだった。
ちなみにそれを受け取ったルカにも満面の笑みが浮かんだことは言うまでも無い。
END
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