『いい、ルカ?これはもう決定事項だからね!絶対だよ絶対!約束!』
愛しい愛しい人のそんな真剣な言葉に、頷かずにいられる筈がなかった。
私は巡音ルカ。大学一年生、コーラス部所属。
成績は…まあ悪くないんじゃないかな、と思う。多分中の上とかそんな所のはず。
大学は思っていたよりずっと解放的で、年齢も出身地も色々な人がいて楽しい。
勿論魅力的な人だっていないわけじゃない。その、恋愛の意味で。
まあこんな事言ったら『大学行くの禁止』なんて真顔で言われかねないけど…もう少し自信持っても良いのに。私にとってあなたが一番で唯一なの、なんて何度言ったか分からないのに。
そうやって嫉妬丸出しにされるのも嬉しかったりするのだけど。だって、愛されてるって思うし、正直怖いっていうより遥かに可愛くて。
溜息を一つついて携帯を鞄から取り出す。一時間目と二時間目の間の休み、多分送り先はまだ授業中…もしかしたら休み時間かもしれない。高校と大学の授業時間の被り方はあまり良く把握していないから曖昧。
実は見た目よりもいろいろ要領の良いあの人の事、授業中でも着信音を鳴らしちゃうような事はないと思うけれど。
「ルカ殿」
「きゃっ!?」
背中からいきなり声を掛けられて、思わず携帯を取り落としそうになる。
「が、がっくん…!?」
「あ、いや、すまぬ、驚かせるつもりでは」
「…えーと、いいの。私も過剰反応だったわ」
同じサークル所属の男子生徒、神威がくぽ。現代っ子に有り得ないくらいアナログで、喋りが芝居がかってて、名前が変で、…そのくせ頭は良いし声も良いし顔も良い。
―――そう、顔、良いのよね。
携帯電話の画面には、既に送り先の指定されたメール画面が表示されている。
そこでちょっとしたいたずら心が芽生えた。
「ねえ、がっくん」
「む?」
「はいチーズ!」
ぴろりん、と気の抜けた音でシャッターが押されたことが通知される。
撮れた写真をフォルダに保存して、出来を見てみる。
なかなかいい。斜め後ろの席のがっくんと私が身を寄せ合う形になっていて、友達とも恋人とも取れそうな感じの出来だった。
「る、ルカ殿!?」
真っ赤になって慌てふためくがっくんにちょっと悪戯っぽく笑ってみせる。
「ごめんね、ちょっと一役買ってもらうわ」
「一役?」
私の言葉に、一転首を傾げたがっくん。
私は添付ファイルにその写真を選んで送信しながら、今から返事が楽しみで堪え切れない笑みを浮かべた。
「あのね、私今付き合ってる人がいるんだけど」
「ほうカレカノというやつか」
「その人に妬いてもらおうかなあ、なんて」
「ほ…ちょ、ルカ殿、まさか」
「という訳で今の写真送らせてもらったから」
「ちょ、いやそういうのは断ってから」
がっくんのことばを遮るように携帯電話がメールの着信を告げる。バイブだけど意識を引くには十分な音量を出してくれるからすぐに取ることが出来る。
画面には『初音』。なんで名前で登録してくれないの、って何度も言われたけど、これだけは譲れないの。だってまだまだ私達の関係はイケナイ部類に属するみたいだから。
内緒にしているからこそ良い関係だってあるでしょう?
わくわくして画面を開くと、そこには一言。
『となりのだれ、まさか』
漢字変換も出来てない…!
か、かわいい、です…!
思わず机に突っ伏した私を、がっくんが心配そうに後ろからつつく。
「る、ルカ殿、お相手からはどのように」
「うう、計画通り…!」
「ひぃ!すぐ誤解を解いてくだされ!恋愛の縺れは時に刃傷沙汰にも」
「大、丈、夫」
すぐに私もメールを返す。
『サークルの同級生。格好良いでしょう』
次のメールは早かった。
『ルカのバカ――――――――!!浮気ダメ、絶対!ルカには私がいるでしょ!?それともやっぱり狼どもの方が良いって言うの!?』
『そんなことない、私にはミクだけだよ』
『じゃあ今のやつとのツーショットこれから禁止!』
『え、…頑張る。っていうか、今授業中じゃないの?』
『もうすぐ終わるからへいき』
授業中にメールなんて不良になっちゃうよ、そう打ち返そうとしてやっぱり止める。
結局授業だとか進路だとか、大切だとは分かっていても今の私達にとっては余り優先順位は高くない。一番はやっぱりお互い。
恋は盲目、なんていう言葉、この恋をしてから初めて実感した。
なにをやっても可愛くて愛しくて、私だけの人なんだって自慢したくなる。
正にバカップル、って言うのかも。
ただ一般のカップルと違うのは、二人共女だって事。
私は別にそれが悪いともおかしいとも思ってない。だって、好きなんだもの。自然な事だとさえ思う。
でも、周りを見るとどうもマイノリティみたいで…だから一応隠している。変に目立つのは、あんまり好きじゃないから。
他愛ないメールのやり取りは私の授業の始まりで終わりになる。私が陣取るのは前の方の席だから(実はあんまり目が良くなくて)携帯を弄っていたらすぐに気付かれてしまう。
でも授業が始まっても、先生の言葉は私の意識を素通りしていく。
聞いているけど聞いていない。私の頭の半分は可愛い恋人の事で一杯だった。
告白は、ミクからだった。
顔を真っ赤にして、どもりながら。
『おかしいってわかってます』
女の私でも、思わず可愛いと思ってしまうほどにその表情は真剣で。
『でも、ルカさんの事が、本当に好きなんです…!』
告白なんて、何度もされた事はあった。
でもそのどれも私の心には大して響きはしなくて、だからOKするような事はなかった。
だけど、その時だけは、そう言われた瞬間に世界の色が変わった気がして。
―――ああ、もしかしてこの子が私の運命の相手なのかもしれない。
全然女の子と付き合うなんて考えた事のなかった私。
でも、その想いは私の頭の中に一瞬で差し込んできて、結果私はこう答えた。
『…私も、好きかもしれないわ』
授業の合間にメールして。授業が終わったら早く終わった方がもう一人の方の学校に行く事。休みの日には出来るだけ会おう。朝と夜には電話をしよう。
絶対ね。約束だからね。
ミクが要求して来たのは、彼女が求められる最大限の束縛。私もミクも自分の家住まいだから、その位が限度。ぎりぎりまで私を束縛したがるミク。可愛すぎる。一般的に見ればちょっとおかしいのかもしれないけど。
でもそんな、ちょっとおかしいくらい過剰な愛情を貰えることがとっても嬉しい私。うん、私も多分ちょっとおかしいのね。
まあ、だからミクの絡めてくる蜘蛛の糸みたいな繊細な束縛を引きちぎるつもりなんてこれっぽっちもないの。むしろ、自分から網に掛かりにいく位。
ミクはたまに私に聞く。自分でも不安だから聞くんじゃないかって思ったこともあるけど、不意に思い出したみたいに聞く。
『いいの』
『ルカ、ほんとにいいの』
『帰れなくなっちゃうかもしれないんだよ』
いいの。帰れなくなろう、ミク。
私の帰る場所は貴女の元だけ。
他の帰り場所なんて、いらないの。
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