「裁判長。次の裁判の資料です。」
「ああ、そこに置いておいてくれ。」
「失礼します。」
秘書官が1つにまとめられた紙の束を置いて事務所から出て行く。近衛団長の息子が起こした事件も一区切りがつき、私は次の裁判の公判前手続きに入っていた。
え~なになに、
________________________________________
被告:トニー=オースディン
役職:将軍
罪状:殺人
状況:USEレヴィアンタ地方首都内にある酒場にて、酒に酔った勢いで居合わせた市民十数人の首を刎ねた疑い。
________________________________________
あのオースディン将軍か…
私はため息を吐く。
トニー=オースディンは軍人としての腕は一流なのだが祖業が悪く、酒を飲んでは常に騒動を引き起こす厄介な男であった。これまでも数回別の裁判官の裁判にかかっていたが今回程の大騒動は初めてだった。
死刑だな。…普通なら。瞬時にそう思った自分に苦笑する。オースディン家はトニーこそ出来が悪いが、代々国からの信頼の厚い名家だ。トニーが将軍になれたのもその為であり、貯めている金の量も破格のものであった。
私は裁判所に併設されている留置所へと向かった。トニーは厄介な男だが馬鹿だ。これはオースディン家の金を手に入れる絶好の機会ではないか?
「オースディン将軍の所まで頼む。」
「はっ!」
私は看守に金を握らせ留置所の面会室でオースディンに会った。
「将軍殿、明日の裁判ですが…」
「マーロン!俺はまだ死にたくないんだ!お前は裁判長なんだろうが!なんとかしろ!!」
髭もじゃの顔を振りたくり、トニー=オースディンはいかにも頭の悪そうなことを言った。
「しかし将軍殿。あれだけの市民を虐殺しておきながら、それはいささか傲慢かと…」
私はわざともったいぶって言う。
「うるさい!うるさい!うるさーい!!あいつらが我が誇り高きオースディン家を馬鹿にしたんだ!当然の報いだ!!」
私は心の中で、それはオースディン家をではなくトニー=オースディン個人を馬鹿にしたのでは?と思う。しかし、そんなことは微塵も感じさせない笑顔でオースディンに向き直る。
「落ち着いてください将軍殿。私でしたら将軍殿を無罪にすることも出来ます。」
「なに!本当か?」
オースディンは直ぐに食いついてくる。
「ええ。しかしこれを払っていただければ…」
そう言って私は右手の親指と人差し指をくっつける。
「な、金を取るのか…このトニー=オースディンからか!?」
一体この男は自分が一体何者だと思っているのだろう?再び騒ぎ出すオースディンを遮って私は冷ややかに言う。
「お静かに、将軍殿。ご自分のお立場がまだお分かりでないようで…」
私は椅子から立ち上がり、オースディンを見下ろす。
「お前の人生は私次第、救いが欲しけりゃ金を出せ!」
オースディンは突然変わった私の態度に口をパクつかせ固まっている。
「その代わり、極悪人でも金さえ払えば救ってやるさ。」
そう言い残し私は留置所を去った。
そして、裁判の前日までにはトニー=オースディンから多額の金が私へと渡された。
________________________________________
「被告人を無罪とする。」
私はオースディンに向かってそう告げた。ざわめく法廷。それは私が担当する裁判ではいつものことだから気にならない。しかし、唯一違ったのはそのざわめきが判決理由を私が読み上げている最中にも続いたことと、それが法廷の外でも続いていたこと…
即日釈放されたオースディンはご機嫌で自宅へと帰っていった。しかし、彼は自宅に入る前に惨殺されたらしい。その一報を持ってきたのは私の秘書官だった。自宅の庭で昇り始めた月に照らされ、息を切らした秘書官から話しを聞く。
「オ、オースディン将軍が、自宅の庭で…遺体で発見されました!どうやら今日の判決に不満を持った民衆が反乱を起こしたようです。現在、将軍邸から裁判長のお宅まで民衆が群れをなして向かってきています。裁判長も、早く、早くお逃げください…」
それだけ言うと秘書官は我先にと逃げていってしまった。しかし、私は一目散に家の中に入った。秘書官の様子から見ると怒り狂った民衆はもうすぐそこまで来ているようだが、私はそれでも捨てられないものがあった。娘と『大罪の器』だ!
バンッ
私は勢いよく部屋へと飛び込む。
「る~り~ら~、…お父様どうされたんですか?」
いつものように歌を歌っていた娘は、いつもの笑顔で私を迎える。しかし、私は焦っていた。詳しく説明が出来なくて、ただ戦争が始まったと娘に告げた。
私は器をかき集めると娘の椅子を押し出した。しかし、時は既に遅かった。私の家の周りは民衆に取り囲まれ、今出て行けばすぐに嬲り殺されてしまうだろう。私は、扉という扉に鍵を掛け、娘を強く抱きしめた。程なく、おそらく民衆が放ったであろう火が回ってきた。
私は熱くなった空気に負けないほど愛しい娘を抱きしめた。愛しい『娘』よ二人一緒なら恐怖などない。焼け落ちた屋敷から見つかるだろう孤独な『親子』の亡骸が。
E.C.983年8月のある日、ガレリアン=マーロン邸は一晩中燃え続けたという。
master of the court―第三話 内戦の始まりと終わる裁判―
mothy_悪ノPさん(http://piapro.jp/mothy)の悪徳のジャッジメント(http://www.nicovideo.jp/watch/sm14731092)を自己解釈満点で小説にさせて頂きました。
今回でガレリアンの悪行は終わりを告げましたね。もう次回のサビが書きたくて!書きたくて!今回は完全に勇み足でしたね(笑)
続きはこちら(http://piapro.jp/t/wDIW)
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