私のマスターはいい人でした。
私はいつでも歌えると思っていました。

いい人でも幸せな道を歩んでいるとは限りませんでした。

マスターは私を不安にさせないようにと、一生懸命に働いていました。

深夜まで働きだした時には、私も止めました。
でも、マスターは聞いてくれずに働いていました。


とても楽しかった日々でした。

マスターが倒れないように支えていました。

マスターも倒れないように頑張っていました。



いつも通りの日の事です。

警察の人がマスターをつれていきました。
私のために、やってはいけないことまでしていたのです。

連れていかれる時マスターは、こう言いました。



ルカ、お前の所有権を捨てる。必要な書類を持って出ていけ。さっさとしろ。



私を捨てること、最後にマスターに言われたことでした。


最後までマスターについていきたかった。
でも、所有されていない私に、そんな権利はなかったのです。



私は孤独の身。

どこにも行くあてはなく、ただ道に座っているだけでした。

声を掛けるような人はいませんでした。

でも、気にとめた人が一人いました。


大丈夫?何かあった?
                捨てられているの。
僕は話しかできないけど頑張って。
                ありがとうね。


茶の髪をしてマフラーをつけた人でした。


あれからその人はよく来てくれました。



こんにちは。
いい天気だね。
                外にいても寒くないわ。
でも、大変でしょ?
                もう慣れたわ。


いつも優しい言葉を届けてくれました。
来てくれれば嬉しい。
来なかったら寂しい。


そんな日々でした。




ある時、こんな言葉を耳にしました。道行く人のたわいない話です。



そういえば、ボーカロイドの為に犯罪した奴、死んだんだってな。
あー、聞いた聞いた。過労だってね。




耳を疑いました。

いつかあるかもしれないとは思っていました。



この日は泣いていました。


どうしたの?
                私を捨てた人死んだんだって。
そう......。
                私のために捨てたのよ。
                わかっていたけど、それでもっ...。
...チョコ食べる?
                えっ?
一回落ち着こう。
ビターだけどいい?
                大丈夫だけど。
性格変わるけど
驚かないでね?
                えっ?どういうこと?
先に食べて。
僕、ビターチョコで
性格変わるんだ。
                ……いただきます。


あの人がくれたチョコは甘くて苦い、マスターとの思い出のようでした。



                あの......。
なんだ?
                ありがとう。
それはアイツに言え。
お前はマスターに
捨てられたんだよな。
                そう、でもマスターは…
そいつがどんな考えでも、
捨てられたんだ。
                えぇ、わかってるわ。
人なんて信用できねぇだろ
                そんなこと...。
一人で生きれば楽だろ。
お前にマスター何て要らねぇんだ。


その言葉に何も言えず、あの人は帰っていきました。

マスターがいなければ、ボーカロイドは意味がないと思っていました。

でも、あの人に言われて、自分で生きていけるかもしれないと思いました。


その為に、いろいろな所へ行きました。
ボーカロイドを助けてくれる場所や、マスターがいなくなった時、支援してくれる場所に。


それでも、一人で生きるのは難しいことでした。




雨の日でも、ずっと同じ場所に座っていました。


傘を差し出してくれた人がいました。
あの人でした。


大変だねぇ。
                一人じゃ無理なのよ。
何が?
                マスターがいなきゃ。
諦めたら、何もないよ。
それに、ボーカロイドを
助けてくれるのは、施設だけじゃないよ。
                えっ?どういうこと?
こう言うことだよ。
この書類を見てみて。
                何の書類なの?
僕からのプレゼント。
チョコも入ってるよ。



私が今居る町からの通達でした。
内容には、とても驚きました。


貴女がそこに座っていることによって、周りの景観が損なわれているので、早急に退去をしてください。


もう一つの書類は権利書でした。

ある土地の権利書、住宅の権利書。そして、住民権。

ボーカロイドが得るにはマスターがいなければならないのに...。



そこに向かってみました。

すると、あの人ともう一人、60過ぎくらいの男性がいました。



こんにちは、君がブライト君の言っていたボーカロイドだね。
                こんにちは、あなたは?
申し遅れた、私は町内会長だ。
                そうなんですか。
彼に頼まれてね、昔の友人に頼んで用意したよ。
                ...これを?
そうだ、ではそろそろ帰る
家にも待っている奴が居るからな。



                ブライトさんありがとう。
いいよ、ブライトで。
                私の為にこんなにしてくれて。
たいしたことじゃ...。
                野宿していたから、家が嬉しいわ。
そう?それはよかった。
                応援してくれたから、頑張ろうと思ったの。
そんな...君は強いよ。
あそこにずっといたんだから
                自分でも分からなかったの、どうしようかって。
けれど、頑張ったじゃん。
あ、そろそろ帰らないと。
                さようなら。
さようなら。
                またいつか会いましょう。
うん、またいつか。




私を捨てたマスターが、真に思っていたこと。
今私は、幸せに生きようとしています。
どうかゆっくり休んでください。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

マスターが捨てた私

町内会長
がくぽマスター、洋風な人



タイトルが合ってない気がしますが...。

皆と違うに出てきたルカにはこんな事情がありました。
自作品2に出てくるルカも同じです。



その後ルカさんは、魚屋での就職に成功しました。

ボーカロイドが一人で生活する数少ない例という感じです。

閲覧数:824

投稿日:2009/09/03 23:04:24

文字数:2,662文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • ku-yu

    ku-yu

    ご意見・ご感想

    魚屋は自重すればよかったかもです。orz

    読んでくれてありがとうです。

    このルカさんには幸せになって欲しいです。


    ルカに私の王子様って言わせたかったのに、出来ませんでした。

    2009/09/04 18:44:05

  • 氷雨=*Fortuna†

    氷雨=*Fortuna†

    ご意見・ご感想

    る、涙腺がっ……!!><。。
    不謹慎だけど、こういう話好きです←

    ……って、読み進めて説明文の『魚屋での就職に成功』に吹いてしまった(汗)。

    そしてブライトを使って頂いてありがとうございました!><

    2009/09/04 09:03:52

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