この物語は、一人の少年と手違い(?)で届いたVOCALOIDの物語である。

               *
「それで、あなたは何で初音ミクを…いや、VOCALOIDを欲しいと思ったんですか?」

仕方なくラーメンを食べながらカイトはつぶやいた。
カイトが来る時曇っていた空は今泣いている。
このマンションの部屋はその影響か、湿っているようだ。

「え」

何故か驚くクオに、カイトはちょっとだけ呆れた。
「…俺たちに歌を歌わせるためじゃないんですか?」
「あ、ああ!そのとおりだよ!」

クオは慌ててラーメンを口の中に入れて噛んだ。



二人三脚~Part2~

ちょっと呆れながらも、この人は自分のマスターなんだ。
そう自分に言い聞かせながら、カイトは続けた。

「じゃあ聞きたいんですけど」
「はいはい」

クオは適当な返事を返す。

「俺、今歌うたってないし、ラーメン食ってますよね?」
「……別にいいじゃねぇか。」
「しかも、楽器どころかマイクすらない状況ですよねコレ」

と、いいつつカイトは再び辺りを見る。
質素という言葉が似合うくらい、基本的な生活用品とパソコンくらいしか置いてない。
それを見る限りVOCALOIDに歌を歌わせるという感じがしない部屋だった。

「別に、楽器やマイクがないと歌えないって事はないだろ?」
「それはそうですけど…」
「それにお前はさっき来たばっかりなんだしいいじゃねえか」

なんだかなぁ、と、うまく言いくるめられた感を拭えないまま
カイトはラーメンを食べた。


ピンポーン

部屋に単調な音が響いた。

「はーい、誰だ?」

クオが返事すると、
外から青年の声がかえってきた。

「俺だっつうの」
「ああ、お前か」

クオの知り合いだったようでクオは席を立って玄関に向かう。
そして、クオが居間にいるカイトのところに戻ってきたときには、
外から二人の人間―――いや、一人の人間と、一機のVOCALOIDが家に入ってきていた。

「あれ?お前もVOCALOID買った訳?」
クオの隣の青年がカイトをみて口を開いた。

「え、ああ。まぁな」
「へぇ。でもお前が欲しがっていたのは「初音ミク」じゃなかったっけ?」
「…聞かないでくれ」

と、青年の後ろにいたVOCALOIDが顔を出した。
カイトより少し背の低いくらいの、小柄の女性。
短い茶髪に、赤い服が印象的だ。

「マスター、彼は?」
「ああ、メイコ、彼もVOCALOIDなんだよ。名前は――」
「俺はKAITOです」
「そうそうカイト。」
「…」

あえて訂正はしない。
クオの友達ならまたクオと同じようなことを言って反論するだろうから。

「で、用件は?」

クオがイラついているような思わせ振りを見せる。

「ああ、そうだった。明日からちょっと合宿だからさ、その間メイコを預かってほしいんだけど」
「あー、それくらいなら大丈夫だ。」
「そっか。じゃあメイコをヨロシク!じゃ!」

カイトの意見など一言も聞かずに、クオの友達はメイコを置いて帰っていった。
唖然とするカイトを置いて、クオはうれしそうに口を開いた。

「…ってことだ」
「……」
「今日から数日このめーちゃんがこの狭い家のお世話になる!」

後ろでメイコが苦笑している。
自分で狭い家って言うかなぁ、とカイトも苦笑した。

「と、いうことでお世話になります、MEIKOです」
「うん、宜しく…」
「カイト、」

クオがカイトに視線を投げかける。

「めーちゃんに手を出そうとするなよ。」
「なっ…なんですかそれ!俺が手ぇだす見たいに言わないでください!」

カイトが慌ててそう告げる。
初対面の人への誤解を解かなければ、という気持ちも働いてか、
ほぼ叫んだような感じになった。

「どうだか。お前の事まだ全然知らないしな。」
「…」
それはクオに対する俺の知識も一緒です、という顔をクオに向けるが
クオはそれをスルーした。

「…?…KAITOがこの家に来たのは最近なのですか?」
「最近…ていうか、今日!今朝!」
「………」
「…へぇ」

メイコはカイトに何故か冷やかな視線を向けた。
それにカイトは何故かわからないが、動揺した。

「じゃあ、俺はちょっと出かけるわ」
「え?マ…クオさん、どこへ?」
「内緒」

そう言うと、上着を羽織ってクオは外に出た。
カイトは家にメイコと二人っきりにされて、しばし沈黙した。
沈黙を破ったのは、メイコのどこか冷たい声だった。

「………」
「ねぇ、アンタ、歌を歌ったことはあるの?」
「歌?…まだだよ」

今日きたばっかりなんだから、歌どころか、アイスすらまだ食べさせて貰ってない。
そう答えると、メイコはさらに冷やかな視線を向けた。

「へぇ…」
「……」

アイスより冷たい視線にカイトはメイコから逃げるように視線をそらした。
だが視線は本当に冷えてゆくばかりだった。

「アンタ、本当に私と同じVOCALOID?」
「ええ…一応」

だってしょうがないじゃないか、
さっきこの家に来たばかりなんだから。

カイトはそれを心の中でつぶやいた。
と、メイコは立ち上がって、どこか別の場所へ行こうとしている。

「…?」

カイトがこっそり後を追いかけると、


がちゃがちゃ

「あー、あったあった」

メイコは冷蔵庫の中を物色していた。
メイコはとりあえず
相変わらず何もないわねーと、つぶやきつつ焼酎を取り出した。

「…ひ、人の家の冷蔵庫を勝手に物色しないでくださいっ」
「何?アンタは何にも知らないでしょう?
私は以前から預けられること多くてね、暇なときやっていいことがあるっていう
特権をクオに貰ってるのよ」
「と…っ?でも!駄目だと思います!」

カイトはメイコを止めようとして、腕を取る。

「ちょ…っ、やめないさいよ!」

メイコは抵抗する。
だがカイトは腕を放さない。

「クオさんが帰ってくるまで待てばいいじゃないですか!」
「だから私には特権が―――っ、」
「あっ!」

メイコがバランスを崩して、後ろにいたカイトに倒れ掛かる。
それを受け止めようとしたカイトも、倒れてしまった。

「…痛…っ、」
「…なんなのよ…っ、」

カイトは目がチカチカしている中如何にか立ち上がろうと、
そのために上に乗っているメイコを如何にかしようと手を動かすと、
なにか柔らかい物に当たった。

「―――どこ触ってんのよっ!」

次の瞬間、メイコの拳と蹴りが同時にカイトに襲い掛かった。
訳が分からず、それをまともに食らったカイトは、痛みを感じながら、
再びこう思った。


―――自分は、本当にこの家で無事に生活できるのだろうか。…と。




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイト宅に】二人三脚-2-【メイコ参上!】

MEIKOさん登場。
KAITOが触ってしまったものが何かはお察しください。
まだまだ登場する予定です。

前のver.はタイトル変更or誤字訂正です。

閲覧数:288

投稿日:2008/12/22 11:47:40

文字数:2,786文字

カテゴリ:小説

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