日が落ち、外の様子はすっかり暗くなっていた。
レンは鍋の前で窓の外を眺め、そろそろ帰ってくるかなと考えながら、今日のおかずの味見をする。
「うん、こんなもんかな」
仕上がりの確認を終えたレンは、火を止めて鍋に蓋をした。
時計の指す時間を見て、食器棚から皿を取り出しテーブルに並べる。
「よし、後は盛り付ければ…」
そう言いながら鍋に向かおうとした時、玄関の鍵を開ける音が家主の帰宅を告げた。
レンは玄関に向かい、そこで靴を脱いでいる人物に声をかける。
「おかえりなさい、マスター」
そう言われた人物は、笑顔でそれに答えた。
「今日はマスターの好物の肉じゃがです。すぐ用意できるんで、その間に着替えて来てください」
それに了承したマスターは、自分の部屋に入っていった。
レンはそれを見届け、テーブルに並べた食器に盛り付ける作業を開始した。
*
数分が経ち盛り付けを終えたレンは、いまだに戻って来ないマスターにしびれをきらし、直接呼びにマスターの部屋に向かった。
部屋の扉の前に立ち軽くノックをして、部屋の中の人物に声をかけた。
「マスター、ご飯冷めちゃいますよ?」
だが返事が返ってくる事はなく、静寂だけがそこの空間に満ちていた。
「マスター?…入りますよ」
レンはそう言って、部屋のドアを開いた。
部屋に明かりは付いてなく、ベッドには服も着替えずに倒れ込んでいるマスターがいた。
レンは静かにベッドに歩み寄り、横になっているマスターの側に座った。
「…何かあったんですか?」
そう聞いても、マスターから答えはなかった。
レンは手を伸ばし、マスターの頭に手を置いた。
初めは髪を軽く撫で、指先で摘まんだり絡ませたりして反応を待ったが、マスターは顔を伏せたまま起きようともしなかった。
「マスター…」
小さくて呟いて、レンは手を離した。が―
「…わっ!?」
突然離した腕を掴まれ、引っ張られてしまった。
気が付いた時には、レンはマスターの腕の中にいた。
抜けようと動くとマスターは、腕の力をより強くしてくる。
レンからはマスターの顔は見えないが、その行動が何を訴えてるかは察しがついた。
レンは溜め息を吐いて、この状況を受け入れる事にした。
「仕事で何かあったんですか?」
レンが聞くと、マスターは軽く頷いて肯定した。
「…僕に話して、少しは楽になれますか?」
今度は首を軽く横にふって、否定の意を示した。
レンは自分を抱き締める腕に手をやり、静かに口を開いた。
「僕は…僕が、マスターにしてあげれる事はありますか?」
マスターは何も言わず改めてレンを抱き締める腕にしっかりと、しかしレンが苦しくないように加減して力をこめた。
レンもそれで理解したのか、そのまま身を任せた。
「―♪、♪~♪、♪」
おもむろに、レンは歌を歌い始めた。
その歌はとても静かで、とても優しい歌だった。
暗い部屋の中に、ただその歌だけが響いていた。
(せめて見る夢は、幸せであって欲しいから)
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ご意見・ご感想
ちょっき
ご意見・ご感想
マスターに何があったんでしょうか。レン君がちょっと寂しげでどうしたらいいんだろうなどと考えました。
また、メッセージありがとうございました。私が書いた小説に反応が来ることって滅多に無かったので嬉しかったです。
今日は私情ですごく凹んでいたので、言葉に出来ないほどの温かい何かが出てきました。
ありがとうございました。
需要は1番低いし見てもらえることも少ないですが頑張っていきたいですよね。
2010/07/05 19:09:20
欠陥品
マスターに何があったかは明言していないので、色々と想像してもらえると嬉しいです。レン君の心情も同じ事が言えますが、その辺は新たに書いてみたいと思ってますのでまた読んで頂けたら光栄です。
つたない感想ではありましたが、そう思っていただけたなら幸いです。自分の作品に何らかの反応があるのは、やっぱり嬉しいですよね♪ちょっきさんの作品の続き、楽しみにしてますよ。
需要は少なくても、やっぱり好きな分野ですもんね。これからも色々書いていきたいですね。
2010/07/05 21:28:47