「何ため息ついてんの?」
流華は後ろを振り向いた。
「・・・がくぽ」
そして、今度はさっきより深いため息をついた。
「めずらしいじゃん。流華がため息なんて・・・」
この、少しふざけたような名前のがくぽ、という少年。
背は流華より何十センチも高く、長い紫色の髪を後ろで一本に束ね、制服を着て、髪色と同じ紫色の瞳と唇がが優しく笑っている。
「私だって、ため息をつくことぐらいありますのよ?がくぽ様」
流華はがくぽに妖艶に微笑して見せた。
「様、なんて似合わないね~流華」
がくぽは流華をヘラヘラと笑った。
「・・・もー!調子狂う!」
流華は頬をぷくっと小さく膨らませた。
そう、普段は冷静沈着な流華だが、彼の前ではまるで仮面が剥がれ落ちたかのように素直な表情を見せる。
それも無理は無い。
がくぽは、流華の恋人だったからだ。
流華とがくぽは、親同士が古くからの友人であり、自然と二人は仲が良くなっていった。
時が流れ、二人の仲はより親密になっていく。
やがて二人は互いに気持ちが惹かれあい、交際を始めた。
学校では、『美男美女カップル』、等と騒がれていた。
そんな時、事故は起こった。
両親が亡くなり泣きじゃくる流華を、がくぽは一晩中抱きしめていた。
いじめに合い、流華の性格が変わり自分に冷めても、がくぽは流華を愛し続けた。
がくぽは、流華が学校を辞めさせられ、遠くに行ってしまうということを聞きつけ、流華の家に押しかけた。
「何で、もっと早く言ってくれなかったんだよ!!」
がくぽは息を切らしながら、流華の肩を大きく揺さぶった。
「・・・あなたに言った所で、何かが変わるとでも言うの?」
流華は冷静に言った。
「・・・ッ!」
何も言い返せなかった。
流華の言うとおりだ。無力な自分に何が出来る?
「・・・私を絶望の淵から這い上がらせてくれる、とでも言うの?・・・・」
流華は眉を下げ、大きな青い瞳を細めて悲しげに、そして妖艶に笑った。
その顔にがくぽの心臓はどくん、と跳ねる。
こんなに美しい顔は、見たことが無い。
流華は自分に何を求めているのだろうか。
それに分かってやれない自分が悔しかった。
何も言えなかった。
「私は今日でここを発つわ。さようなら、がくぽ」
流華は大きなスーツケースを引きずりながらがくぽの横を通っていった。
がくぽが後ろを振り向いたときには、流華はもう居なくなっていた。
がくぽは何日も考えた。
流華のために自分が出来ることは?
流華のために・・・
がくぽは決めた。
それは、今まで反抗することなど無かった家族の反対を押し切ってまで決めた決断だった。
一方、流華は学園でメイドとして雇われて一ヶ月が経とうとしているころだった。
ようやく仕事にも慣れ、学園の決まりや生徒の事、色々なことが分かってきた。
そんな時、流華はふと、バケツをひっくり返したような雨が降り続いている窓の外に目をやった。
「・・・!?」
思わず窓を開ける。
見覚えのある人影が、大きな荷物を抱えて流華を見ていた。
「流華!!」
「がくぽ!?」
二人は異口同音に互いの名前を発した。
「あんた、どうしてこんなところに・・・!」
「俺は今、流華と同じなんだ!!あの頃の流華と・・・!」
がくぽの声は、大雨にかき消されずに流華の耳にしっかりと届いた。
「同じって・・・?」
「俺は、何もかも捨ててここへ来た!家族も、家も、金も、友達も・・・俺は何も無い!今、何も無い人間なんだ!あの頃の流華と同じなんだ!」
大雨で定かではなかったものの、がくぽの目からは大粒の涙が流れているような気がした。
流華の目も、涙で滲んでいた。
「どうして、そんなことッ・・・!」
「お前、言っただろ!?絶望の淵から這い上がらせてくれるのかって・・・這い上がらせてやる!むしろ、今までよりずっと幸せにしてやる!だから・・・」
がくぽは微笑んだ。
「俺がこの何も無い状態から、一人前の大人になれたら結婚しよう」
「・・・っ!」
流華の目から、大粒の涙が溢れ出した。
あの日から、がくぽは流華の返事を待ち続けている。
がくぽはその後バイトで金を稼ぎ、流華のいるこの学園に転校してきた。
「流華?さっきなんでため息ついてたん?」
「え?・・・大したことじゃないわ」
ついさっきの事を思い出し、少し吐き気がした。
「大丈夫か?顔色悪いぞ」
「・・・大丈夫。じゃあね」
そう言うと、流華はがくぽの横を通り過ぎていった。
「流華!」
廊下を歩いていると、後ろから幼い少女の声がした。
「ユキ様」
「あんた、災難だったね!トイレでのこと、あたし全部知ってるのよ!」
黒い髪を二つに束ね、大きな目をぱちくりさせている。
流華は驚いた。
「なぜ知っているのですか?ユキ様、化粧室に姿は見られませんでしたが」
ユキはいたずらっぽく笑った。
「だって、トイレに入ろうと思ったら変な声が聞こえるんだもん。それで、あの男の人と女の人が慌てて出てきたのを見たの。あたしは勘付いたワケ。鏡音双子の後姿も少し見えたし、あんたの顔も少し見えたわ!」
ユキは、まるで推理ドラマに出てくる探偵のように言った。
この少女、歌愛ユキは、大人に囲まれて育ったせいか、妙にませている。
とにかく秘密を詮索したがる、という困った性格だ。
「さようにございますか、ユキ様」
流華は妖艶に笑った。
ユキはその顔を見て、一瞬ぽかんと口を開けたが、またすぐに戻り
「あの男女も怪しいけど、鏡音双子はもっ~と危険!あの双子がどうしてこの学園に来たか、知ってる?」
得意げに言って見せた。
本当は興味が湧かなかったが、
「分からないです。教えてくださいますか?」
「でしょ!?教えてあげるー!」
聞いて損はないだろうと思い、流華は聞いた。
ユキはこほん、と咳払いをした。
「鏡音双子は、まぁ当然のように双子なわけ。双子で、ずぅーっと一緒だったの」
「はぁ」
適当に相槌をつく。
「ご飯食べるのも、遊ぶのも、お風呂に入るのも、寝るのもぜぇんぶ一緒」
「へぇ・・・」
「姉弟は大抵そんなもんでしょ。小さい頃、はね。だんだん大きくなっていた鏡音双子だったけど、元から仲が良かったけど、それが異常に仲がいいわけ!大きくなっても、部屋は一緒だわ手は繋ぐわおまけに風呂も一緒だわ・・・おかしいでしょ!?普通」
「えぇ」
流華は眉をひそめた。
「そんな中、ある日鏡音家の人が目撃しちゃったの。鏡音双子がぁ・・・」
ユキがにやりと笑う。流華はごくん、と唾を飲んだ。
「ユ、キ、ちゃん・・・?」
曲がり角からひょっこりと、方目をこすりながら小さな少女が出てきた。
「あ、アイちゃん!」
「な、に、してるお?」
呂律が回っていないことに気づいたのか、アイ、という少女は首をかしげた。
「月読アイ様、ごきげんよう。お昼寝は満喫できましたか?」
「るか・・・?うん。・・・まんきつ」
アイはにっこりと微笑んだ。
寝癖のついたアイの亜麻色の髪を、ユキはてぐしでとかした。
「もー!髪の毛ぐちゃぐちゃ!」
「・・・う~ん」
ユキは、さっきまで流華と話していたことを忘れたかのようにアイから髪を結ぶゴムを受け取り、髪を結んでいた。
「アイ!勝手に行ったら・・・」
駆け足で、一人の少年がこちらへ駆けてきた。
「ちゃんと手繋いでなきゃだめだろッ!はぐれたら・・・る、流華!!」
「ごきげんよう、月読ショウタ様」
ショウタは流華の妖艶な笑みを見ると、恥ずかしそうに横を向いた。
「おに、ちゃん?かってにいって、ごめんなさい・・・」
「そ、そうだぞ!お兄ちゃんの手は繋いでなきゃだめっていつも言ってるのに!」
ショウタはアイの額を指でぴんっと弾いた。
アイは、ひゃうっと高い声をあげた。
「ショウタ様、あまり妹のアイ様をいじめると、お父様とお母様からお叱りを受けますよ」
流華はくすっと笑った。
「わ・・・分かってるよ、そんな事!」
ショウタは顔を真っ赤にして言った。
「ふーん、ショウタ、年上が好きなんだぁ?」
ユキは腰に手をあてて、上から目線でショウタに言った。
「は、はぁっ!?そんなわけ・・・」
ショウタはますます顔を赤くした。
「嘘!ほんとじゃなかったら、何でそんなに赤くなるのー?ショウタのおばかさん!あはははは!!みんなに言いふらしてやろー!!」
ユキは楽しそうに笑いながら、自分の教室へ向かって行った。
「ま、待て!このやろー!!」
ショウタはぼーっとしているアイの手を引きながら、ユキを追いかけた。
『鏡音双子がぁ・・・』
一人残った流華は、ユキの話の続きが少し気になっていた。
最初は興味が無かったものの、そこまで言われたなら気にせずには居られない。
それに、あの化粧室でのこととユキの話を繋げると・・・
(・・・やめよう)
また少し、吐き気が襲ってきた。
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ご意見・ご感想
華龍
ご意見・ご感想
こんばんは!!
続き待ってました!!
ルカとがくぽカップルはいつ見ても?良いですよね^^
それにルカのために全てを失うなんて…潔い!!!
カッコョス★がくぽ最高!!!!
それにしても、今回はロリショタ度高いですねwww
次の作品も、待ってま~す!!
2010/10/13 02:48:20
どーぱみんチキン
こんばんは(´▽`*)
ほんとにがくルカだいすきです^p^
がくぽみたいな潔い男子、この世にいるのでしょうか・・・
ロwwリwwwwシwwwョwwwタwww度wwwwww高いですよねww
今度はどうようかな(´・ω・`)
2010/10/16 19:50:46