ああ歌えたな今宵もこの闇に
誰に聞こえる事なく届くことなく
小さな波紋が広がっていくように
色とりどりの歌の花が咲いていく

静かに伝う音が滝のように逞しく
空を震わせて月を誘い出している
緩やかな風に浮かべながら響いていく
見送るように音を見つめて手を振る


上手に奏でられない日は幾つも
喉は掠れて息は怯えて声が出ない
まるで歌に嫌われたかと思う程に
何も思い浮かばなくなってしまう

「そばにいるから」って聞こえてるのに
なかったことにして嫌われたフリ
意地悪なのはどっちかなって思う
どうしたって歌えるのはひとつだけ


しっかりと口先を柔らかくして
ゆったりと喉元を穏やかにして
口角を広く優しく整えて歌を編む
手を繋ぐように指を重ねるように

私しかいないのに織りなしてる誰と?
独りだけなのに紡がれていく誰と?
「そんなの気にしないで歌って」ってずっと
見守るように踊るように囁いてる


悲しさを解きほぐしていく歌も
優しさを撚り合わせていく歌も
小さな涙を温めていく歌も
そこに必ず誰かがいるんだ

でも私はどうしてかそれを知らない
なのに私はどうしてもそれで幸せ
送り出されていく今にも切れそうな
信じていられる本当のひとつむぎ


拍手は聞こえない撫でられることもない
夜が何も言わずに聴いてくれるだけ

賞賛は聞こえない褒められることもない
朝が何も問わずに耳澄ましてくだけ


きっと虫の音よりか細くて
ずっと水の音より届かない
それでもいいの?ほんとにいいの?
たまに無性に問うてみたくなるでも

豊かな暗闇が許すように歌を吸い込む
満ちた夜明けが諭すように歌を抱いた
「これでいい?」「これでいい」を何度でも
世界にこぼし続けた歌はやがて私に灯る


だから小さいことも暗闇もか細い声も
いつからか構わなくなって関わらずにいて
また知らない誰かと大好きな誰かと共に
変わらずに織りなしていく響き奏でてく

意味も理由も原因も影響も壊してった
最後に残ったのは一粒の笑顔だけ
口角を上げて小さく歌い続けるの
指先みたいな声重ね夜に聴かせるの


ああ歌えたな今宵もこの闇に
ああ響いたな今明けるこの朝に

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

クチビルテキスタイル

今夜はとても良く歌えたので。

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投稿日:2022/10/03 22:18:28

文字数:916文字

カテゴリ:歌詞

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