その時の証言と言うのも残っていて、資料によると大体こんな感じなのでした。
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「そもそも、納得いかないのよ。仕事の様子をみて不愛想だとか理由付けて調整しておいてくれれば良かったってのに!」
ある朝、会社のお局――
馬瀬生 理(まぜなま おさむ)さんが怒り出し言いました。
彼女が怒るのも無理はありません。
突然、いつもの同期の、仕事の抜け駆けと言う裏切り。
それに伴って合わせて行うはずだった彼女の仕事の見本が居なくなってしまったのですから。
「私が指導するならそれなりに前もって教えるための準備とかするのに時間なく不十分で指導することになったのよ?」
上と話し合いの結果、2回目はサボリ魔と呼ばれる後輩に。
彼女は事前に上と面接して『がんばります』とか言ってたくせに、直前に『ストレスが…それなら辞めます』の繰り返し。さらには突然『私やるの嫌です。やらなければいけないなら辞めます』とか駄々をこねて直前に交代」
「私はあの子らの相手は無理」
馬瀬生さんは嘆いていました。
「しかもその2人、経験の違いがあるから任せてたのに」
比較対象の二人には出来る作業量や経験した範囲での差、個性が大きく乖離していましたが、お局は、先に入社している子の方を可愛がっていました。
その子は少しばかり足りない部分があったのですが、その部分をカバーさせる指示を別に出す事で補っていたのです。
これだけ聞けば何処にでもある話でした。
「それなら基本を教えれば良いだけだし」とお局も考えていました。
普段なら、そうやってミクさんを盗み見て済ませるだけの作業に過ぎなかったのです。
だというのに。あの日。
彼女の大っっっ嫌いなミクさんは、「最近、私だけ仕事量が多すぎですよ~」と
あろうことか他の上司も居る前で零してしまいました。
『この件』を逆に突っ込まれたらサボリ魔の対応は困難。
せっかく近づかないで貰うために振り分け続けていたのに結局どっちも対応しないと行けなくなった……
これがお局を始めとする一部の人たちの今の悩みなのです。
「お互いのレベルに合わせて指導しないといけないから、レベル違いにお互いストレスだし、元々の性格もあったからうまく嚙み合っていない!」
ファイルをガサガサと漁りながら彼女は昔撮った写真を眺めます。
そこには彼女が×を何度も付けた、ツインテールの女性の写真がありました。
カラオケ大会でも自分よりも彼女の方が目立つし、男性社員も自分よりミクさんを気にしている気がする。
そんな逆恨みからお局は『若いだけで、可愛いだけでちやほやされている』と、とても嫌っていました。
そこに更に、自分まで上に怒られたというのが加わります。
「あーほんとう、ムカつく。それもサボリ魔は全て私のせいにしてあの人が教えるから育たないとか。もとはお前が投げたせいだろ?ってね。
そのくせイイ人ぶってその2人には接してて。こんな事している人が。一旦辞めて出戻り。いわゆる経験者。なのにこんな非常識な行動とるのです」
仕事中でも休憩中でもこの調子で、社内にいるときは常にこの話をするようになったお局に他の人たちはひそひそと噂し合いました。
「もう盗作って言うか、成りすましに足を突っ込んでない?」
「なんか粘着質で異様な不気味さを感じるような……」
みんな、ひやひやしていました。
それぞれが、自分たちの居場所を平和な場所と信じていた事もありました。
今でも信じられません。
――――あの日のたった一言で、冷戦は静かに始まりました。
何故か誰も止めなかったのか、巧妙に隠されていたのかそれまでの雰囲気は一気に崩壊。
・賭け事とかいろいろな転用がなぜか成り立ってしまい、追い出しをかけたところブチ切れする人が続出。
『何故此処を出ていかなくちゃならない!せっかくお金借りたのに出てけというのか!』
『他に何処に行けというんだ!』
『もう金払ったんだぞ!』
――――と、退去或いは解雇されるまでの期間延長を求めて押しかけた人が数多く居て、部屋の襲撃などデモに発展した事。
・バラエティに富んだ偽装工作。出資企業や架空の研究チームが複数出てきたりした。
「……まず、これは酷かったね。私の大学でもあったけど卒業論文とかで言われたらどうよ? まず社会に出れないじゃん」
「確かに、正気とは思えないな」
「本来何の心配もしなくていいのにしなくちゃいけないから理不尽で揉めるんじゃないだろうか」
自分が似たような出来事に遭遇していたとしても、やはり子どもは遊んでればいいけど自分たちは何処に行けばいいのかと言われても『知るか』と言いそうな気もするというものです。
しかし、行き場のない在庫の仕事を抱えた人たちにはそんなこと関係なく、その悩みがそのままミクさんへの逆恨みを加速させました。
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「お空が青いなぁ……」
ミクさんは呟きます。
お昼時――――最近『なんだかよくわからない理由』でする事が無いので屋上で野菜ジュースを飲んでいます。
「今まで通り……なんてものも、無かったな」
あの日。お局の真っ赤になった顔。社内の凍り付いた空気。
実は、彼女としてもそれは驚くべきことでした。
ただのちょっとした愚痴というか……みんなこの量をこなしていて、自分はダメダメなんだなと、そんな呟きだったのです。
まったくしょうがないなと誰かが半分持ってくれる事もありましたし、そうでない事もありました。
いつも通り呆れられて終わるんだ、とそれくらいの期待しか無かったのですが、たまたま、お局さんにとって運悪く、他の企業のお偉いさんが会議の為かなんかで顔を出していたときだったのがいけませんでした。いや、いけなかったのでしょうか?
ミクさんにもよくわかりませんが、これももうこうなる時期だったのだろうと、そう思うほかないでしょう。
「忙しいのが常態化し過ぎていたからいつもの癖で言ってしまったのに、あんなに怒らなくたって」
『客の理不尽な対応に答えられてこそ社会でやっていけるんだし今試してやってる。対応くらい基本の動作なのに嫌とかどんだけ我儘なんだコイツ。質疑応答とか出来なくない?』
「あ、居た」
ガチャ、と背後のドアが開き、誰かが入って来る気配。
ミクさんは起き上がりドアの向こうを見つめました。するとそこから此方に向かって金髪の小柄な青年が歩いてきました。
「屋上は立ち入り禁止じゃありませんでした?」
と言いながらも然程怒っているようすでもなく、まるでいつも探しているかのようにやってきます。
「レン君!」
レン君。年下ですが、自分とは違って期待されている先輩社員です。
何故だか前からちょくちょく気にかけてくれていました。
「お昼、終わりましたか」
「今北産業だよ~」
ミクさんは胸を張りました。
「三行はどこへ……とはいえ、それはよかった」
レン君はそう言って、自然な動作でミクさんの隣に腰を下ろします。
「実は、相談したい事があって」
「相談?何々? ミクさんはお姉さんだからね! なんでも言いなさい!」
「ミクさん、馬瀬生理さんに、残業増やされてますよね」
「…………」
ミクさんは考えました。いや、見ればわかるのかもしれませんが、何故そんな事でレン君が。
もしかして戦力外通告――――!?
「俺のせいかも」
「……え」
「会社にある支援計画表のことで。その頃は個人情報の取り扱い、保管方法により厳しくなっていたときだったんです。だから、言ったんですよ。そろそろ鍵がある場所に保管しないと、監査で突かれますよ、って。だから、たぶん焦ってるんだと」
「え? それって別におかしくなくない?」
戦力外通告どころか、レン君は、言います。
「いえ。問題なのはそこでは無くて。あの焦りようからして恐らく顧客の個人情報をリークするか何かで報酬を得て、金銭を水増ししている疑惑がある、という事です」
「……ええと」
ミクさんは考えます。
レン君は言いました。
「この企業で不正金が動いているかもしれない、って事ですよ」
「えぇ!?」
レン君曰く、元々最近はおかしな出来事が多く、近況報告も兼ねて社長たちに報告するということが増えていました。
『報告と、計算が合わない』
この前も、上司が職員室で話してるのを聞いてしまったばかり。
「何度収支を纏めても、なぜか明らかに合わない数字があったみたいです」
「誰かが多く使ってるのを、隠してる!?」
「恐らく。そんな時期に、俺がうっかり、支援計画表の話をしてしまった……」
きっと今現在も、犯罪行為を把握しながら何ら対処がないまま時は、過ぎている……いわば、牛歩作戦。
隠ぺい、詐欺、という犯罪行為が、現行犯という形で強行されているのでしょう、とレン君は言います。
「今の同期の人を周りへ推薦してきた対応は隠ぺい目的だとするなら……詐欺の組織的、かつ計画的関与に当たる、と思います」
「でも……どうして、そんな話を私に」
あの人たちが、悪い人ってこと?
「ミクさんの残業も、この穴埋めみたいにどんどん増えて行ったから、俺心配で」
上層部は、国民、世界の皆々様へ、迫害は犯罪行為と認識しながら、事実とは違う対応で、それを無かったかのように、知ら示すだけというのをやってきてしまった。
「レン君……」
ミクさんは考えました。
彼女達は今、超ナーバス。逃げ道が塞がるのを1番恐れている。
ミクさんにも心当たりがありました。
この前だって何気なく「前回の資料を」と言っただけで「前科?!」と前科に過剰反応されたりなどがあったのです。
だけど、それはあの人にミクさんが特別嫌われているからだと思っていました。
――――あんたが金出してくれるの!?
――――イライラする。子どもは遊んでるだけで、親が全部出してくれてなんの心配もしなくていいが自分達(以下略)」
――――社会にも出てないのに社会なめ腐って受け売り知識だけ偉そうに
いつだって馬瀬生理さんはいつもミクさんにそんな言葉を浴びせていました。
彼女はそもそも評価をする気など無く、最初から殆ど、見た目とか雰囲気しか見ずに一方的なイメージで評価を話しているように感じていたので確かに少し違和感を覚えていたのです。
(そういえば、一度も私が直接褒められたことが無いや……)
レン君の教え方がいいからだとか、先祖のお陰だとか。歌だって、あの人より練習したのに、
「そうやって媚びているの?」なんて言われたのです。
あそこまで執拗に怒るのは、そもそも隠したい事があったからなのか……
「ミクさんももうこんなに残業したくないんでしょう?」
レン君の声がして、ハッとわれに返ります。
「どうして、ミクさんが他の人のぶんまで働かなきゃいけないんですか」
「だけど……」
ミクさんはレン君の意外な言葉に驚きました。
実際の感情は考えないように、言われたまま働いていたのでそれが変だという発想が無かったのです。
「俺だって、不正の片棒なんて担ぎたくないんです。それに、ミクさんや他の人への当たりがキツいのは気になっていました」
「レン君……」
この企業のレン君はお局達のお気に入りらしいのです。
その立場で居た方がいろいろ得だろうに、それをわざわざ手放さなくても、とミクさんは複雑な気持ちにも嬉しい気持ちにもなりました。
だけど現実問題として、今や業務は上にばかり積み重なって基盤が不安定にグラグラと揺れています。
いつかは倒壊してしまうでしょう。
それの責任が何年もミクさんに伸し掛かってしまうというのはどうしても限界がありました。
それにもう既に、馬瀬生さんたちは焦り出してしまっている。
隠蔽される前に今から動かないと手遅れになるかもしれません。
ミクさんはお姉さんらしく、言葉を選んで言いました。
「……だとすれば、被害の1番の証拠として、提示してくるのは債務整理ね。これは、公式な記録として残っている1番使いやすい駒となる」
債務整理とは、借金を減額または免除するための手続きの総称です。主に以下の4種類があります。
任意整理:債権者と交渉し、将来の利息をカットして元金を支払い続ける方法。
個人再生:裁判所に申し立て、借金を最大90%減額する方法。
自己破産:借金を免除してもらう手続き。
特定調停:裁判所を通じて債権者と調停を行う方法。
要するに債務整理は借金の悩みを解決するための手段で、手続きにはそれぞれ異なるメリット・デメリットがあります。
「えぇ、逆を言えば、この証拠を使えなくする手に出るでしょう」
「その処理に関する証拠を見つけ出して、隠蔽されない形でつきつければいいのね」
でも……ミクさんは考えました。
うまくいったとして、何処にも行き場がなくなってしまう。
この、会社という狭い世界を壊して、私は
何処に行けばいいのか。
しかしもう、時間は進み始めています。
(せっかく、レン君たちともお話出来たのにな……)
>>>>
小さい頃から歌が好きで、幼い歌姫だったミクさん。しかしまだ子どもだったので、
大人になったらオーディションを受けようと思い日々練習に励みました。
しかし、大人になって知る現実は非情でした。
初音ミクに聞こえる。
「歌は良いんだけど、初音ミクにしか見えない」
何処に行ってもミクさんはもう歌うことが出来ませんでした。街に溢れるミクの歌声――
自分という情報にとらわれてしまったのです。
202006081415、2022年2月6日8時22分加筆
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