その日の蒼く澄み渡った空に比べて少女は憂鬱だった。
ほんの数週間とはいえ療養の地として行く場所が父親の仕事場に近い事が。
お金さえ稼いでいれば何をしてもいいと思っている人。
何の気まぐれかは知らないけれど此処に母親と自分を呼び寄せた自分勝手な人。
「遠くにいると顔が見えないから」「家族だから」
今まで家庭を放っておいた人が何を言うのか。
この地での療養は元々いた病院でも然程変わらなかったろうにと思うものだった。
別段空気が綺麗なわけでも、医療が発達しているわけでもない。
病魔に蝕まれつつあるこの身体で、ある程度の長距離を移動することがどれだけ負担になるか、
まさか考えられなかったわけでもないだろうに。
家庭を顧みない事で嫌いだった父親がますます嫌いになっていた。
毎日様子を見に来てくれる。花を持ってきて、ぬいぐるみを持ってきて、
帰り際には必ず頭を撫でて「愛してる」と額にキスをくれる父親が
金に物を言わせているようにしか見えなくて、嫌悪した。
つまらない反発心だった。反抗期と言えばそうだった。
此処へ来た時と同じワンピースに帽子をかぶり、ある日少女は病院を抜け出した。
見ず知らずの土地を一人歩くのは、幼い頃から外出を制限されていた少女にとっては冒険そのものであったろう。
綺麗な服を、高価なおもちゃを、美味しい料理を、
当たり前のように与えられ育った少女は世間を知らずに育ち、
当然、今の国の状況など知る由も無かった。
戦争なんて、一部の民族の迫害なんて、何も知らなかった。
だからその有刺鉄線に囲まれた場所が何であるか、想像もつかなかったであろう。
その向こう側に佇む自分と同じくらいの年の少年が死ぬ運命にある事だって。
(誰かしら?あの中に住んでいるのかしら?)
厳重に監視され、数メートルおきに配置される銃を持った軍人。
少女はその中にはきっと高貴な人が住んでいるのかと考えた。
ならばこの半端ではない数の軍人も納得がいく。
…だがしかし、少年が纏うそれは決して服とは言えない粗末なものだった。
(では軍人がいるのだし基地か何かかしら?)
それでも少年の存在は何か違和感をもたらす。
何か悪い事をしたのか。自分と同い年くらいの少年が?まさか、そんな事が。
何も知らない少女は好奇心からその有刺鉄線に近付いて行く。
段々少年の姿がはっきり見えてきた。
少年は泥だらけであちこち擦り切れた服を着て少し頬がこけている。
その瞳は少し虚ろな気がしたが、その焦点は合っていて、しっかりとこっちを見ていた。
疑う事を知らない少女は少年に微笑みかけた。
挨拶は笑顔から。それは小さい頃から教えられている礼儀のようなものだったから。
虚ろだった瞳に生気が宿り、困惑するような表情を見せる少年。
その頬に流れる一筋の涙は、少女の脳裏に焼きついて離れることはなかった。
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