カイくんは、さっきから、お店に入ってきたあるお客が気になっていた。
サングラスのような、ファッション・ゴーグルを目にかけて、あたりを探るようにウロウロ、キョロキョロと売場をながめている。
そして時々立ち止まっては、「うんうん」とひとりでうなずいている。
その人が、若い女の子だけに、妙に気味が悪い。
「なんだろう、あの人。よっぽど玩具がめずらしいのかな」
カイくんは声をかけようとしたが、やめておいた。

●変装でバッチリ!

「ただいま」
「あ、店長さん、おかえりなさい」
お店のスタッフが声をかける。
ここは、この間オープンしたばかりの、トーイパーク羽田空港店。羽田空港にあるショッピング・ゾーンにある。
店長のメグさんは、おでこの上にかけたゴーグルの位置を直しながら、店に戻ってきたのだ。

映画館やミニシアターなどを経営する会社が運営する玩具店、「トーイパーク」が、ここに2店舗目を出店したのがこの6月。
それまで会社の企画室で、映画や演劇のスケジュールを立てたり、広報の仕事をしてきたメグさん。
このたび、ここの店長に抜擢され、毎日はりきっている。

彼女は、店のスタッフに説明をする。
「さっき、原宿のキディディ・ランドの売場の視察をしてきたのよ」
「キディディ・ランドに?」
「そう。人気があるお店の、売場の品ぞろえを見ようと思ってね」
「あやしまれませんでした?」
「大丈夫」メグさんは、おでこのゴーグルを両手の2本の指で指さして答えた。
「コレで変装してたから。バッチリよ」

●地球にやさしい店

店の営業も終わった、その日の夜の8時半。
店のスタッフが、ロッカーから荷物を取り出して帰ろうとすると、スタッフ・ルームの中で何やら物音がする。
あやしい気配に、おそるおそる扉を開けると...。
中で、メグ店長が一人で机に向って何かを食べている。しかも、かなり苦しそうに、ムリにほおばっているのだ。
彼女はスタッフに気づいて、
「あら、もう終わり?お疲れさま」と言った。
「はい。...店長、何を食べてるんですか」
「これ?今日の売れ残りの、おまんじゅうよ」
メグさんは、空になった箱を見せる。しかも、2箱の空き箱だ。
「これ、店長が全部食べたんですか」
「そうよ」
「よっぽど、お腹がすいてたんですね」
「ううん、お腹はもうイッパイよ」
彼女は箱をひっくり返して、底を見せる。
「消費期限、今日までだし。売れ残りは捨てるように、って言われてるけど、私、エコロジーが信条なのよ」
メグさんは、ぽんぽんにふくらんだお腹をさすりながら言った。
「捨てるの、モッタイないものね。ふぅ」

スタッフは思った。
「うちの店、これから大丈夫なんだろうか」( ̄ー ̄?)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌(14)メグ店長、はりきる

東京・原宿で人気の玩具店「キディディ・ランド」。
ここの店長のカイくんが、いろんな客様のお相手をします。
今日は何が売れて、誰と出会えるかな…
今回は、ライバル店のお話です。

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投稿日:2009/07/18 11:44:18

文字数:1,135文字

カテゴリ:小説

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