★マスミク
『♪世界で一番お姫様
そういう扱い心得て……よね!』
ハードなロック。
ジャズの利いたピアノ。
(わーるどいずまいん……かぁ。すごい歌声だわ)
マスターお気に入りの動画サイトで見つけた"私じゃない"ミクの曲。
このマスターの作った曲は他にも聞いたことがある。
どれも等身大の女の子って感じで、
同じ声のはずなのに、すごく迫力があって圧倒される。
このマスターのところにいる"私"は、とても幸せだろうなぁ と思う。
(まぁ、私も……幸せだけど)
私のマスターは音楽関係のプロデューサーをしている、曲作りのプロだ。
私に作ってくれる曲も、アマチュアの歌手が歌っても
絶対に売れるくらい素敵なものばかり。
でもマスターは忙しいから、私に構ってばかりはいられない。
それはマスターが担当しているヒトの歌手だって同じだけれど、
一緒に暮らしている分、とてもさみしくて。
『♪ぜったいキミはわかってない! わかってないわ…』
(……そうだ)
『ワールドイズマイン』だって"私"の曲だもの。
"私"にとって、"キミ"はマスター。
(マスターが私のこと、どう思ってるかわかるよね)
次の日の朝、早速実行に移してみることにした。
(こうかな? ……よし!)
鏡とにらめっこして、ツインテールの根っこにみつあみを巻いてみた。
髪飾りをつけたらちょっと見えにくいけど、
マスターが私のことを『世界で一番おひめさま』って思ってくれてるなら、
絶対わかるはず!
『♪その一 いつもと違う髪型に気
「おはよ、ミク。
……どしたの? 今日はオシャレさんにして」
マスターの節張った手が、私の頭をくるりと撫でた。
起き抜けでパジャマのままで、眼鏡もコンタクトもまだなのに。
(で、でも! これは最初だもん)
見知らぬ誰かに言い訳してみるけれど、胸のドキドキは止まらなくて。
マスターはそんな私を知ってか知らずか、家用の黒縁眼鏡をかけて、
コーヒーをすすりながら朝刊を眺めていた。
「……ね、ミク、今日ヒマ?」
「え? は、はいっ」
「じゃあ、どっか行こっか。
せっかくのオフだしさ」
「本当ですか!? 着替えてきます!!」
見なくても、マスターが笑っているのがわかった。
行き先は特に決まることもなく、マスターの愛車で少し走ると、
とあるところで車は停止した。
独特の匂いをセンサーが感知する。
「どうぶつえん?」
「いつだったか、ミク、来たいって言ってただろ?」
「覚えてたんですか?」
「ま、ね。ほら」
マスターが私に手を差し出す。
意図が理解できずに首を傾げると、笑いながら手を取られた。
『♪わかったら右手がお留守なのを なんとかして!』
(……別に、ワガママなんて言ってないのに)
やっぱり、マスターはすごい。
私はそっとマスターの手を握り返した。
「知ってる? キリンって鳴くんだよ」
「ホントですか!? 見れると思いますか?」
「うーん……どうだろう? ちなみに、パンダも鳴くよ」
「マスターって物知りですね」
「雑学だけどね」
そんな話をしながら、マスターと並んで歩く。
もしかして、これってデート? と気付いてちょっと恥ずかしくなったけれど、
手はつないだままでいた。
(きっと、マスターがプロデュースしている歌手のひとだって、
こんなことはしてもらえないよね)
きっと、他の人はマスターの寝起きの姿なんて知らない。
うちでは、少しダサい黒縁眼鏡をかけているなんて、きっと知らない。
(……何をあせってたんだろう)
私はマスターとずっと一緒にいられるのに。
それは、すごく幸せなこと。
閉園時間ぎりぎりになって、マスターと私は車に戻った。
「今日は楽しかった?」
「はい! とっても!」
「よかった。……ここんとこミクといられなくて、ごめん」
「えっ!? そ、そんなこと気にしないでください! マスターは忙しいんだし……」
「でも、お前のマスターは俺だけだから。他はどうとだってなるけど……」
「そんな風に言っちゃダメです! お仕事なんですから!」
「仕事だからいいんだよ。ミクのことは…… その、……好きでやってるのに。
だから、さ」
たまには怒ったっていいんだぞ?
「……知ってたんですか? 私が『ワールドイズマイン』を聞いてたこと」
「だいたいの人は知ってるよ。有名な曲だし」
「は、早く言ってくださいよ!」
「? 何で?」
「だって、そんなの…… 恥ずかしいじゃないですか……」
と、突然、マスターは私を抱き締めた。
最後はこうなんだろ? と笑いを含んだ声で、けれども優しく。
――あぁ、
世界は私のものかもしれないけれど、
……きっと、貴方色に染まっている。
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悲しいから歌った。
生きたいから歌った。ただのエゴの塊だった。
こんな...君の神様になりたい。
kurogaki
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