同窓会当日の夕方。
とは言っても、あと1、2月ほどたてば、日が沈んで暗くなっているような時間だ。
「まずいな…完全に遅刻だ」
「マスターがぐずぐずしてるからですよ、もう…」
駅のホームで時計を見て唸ると、呆れたようなめーちゃんの声が飛んできた。
行くと宣言したものの、やはり自分には、行きたくないという気持ちを誤魔化しきれずに、出かける直前まで迷っていたのだ。
おかげで、もうどう頑張っても間に合わない。
それでも、迷っていた理由を訊いてこないめーちゃんとカイトに、俺は内心感謝した。
気付いていないのか、気付いていないふりをしているだけなのかは、解らないが。
―Drop―
第二話
その後も、電車に乗って最寄り駅まで行くまでは良かったものの、道に迷ってさらに時間を使ってしまった。
ようやくハガキに記されていた店にたどり着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
「もうみんな集まってるよなぁ…」
「まぁ…そうでしょうね」
苦笑まじりに応えたカイトを、めーちゃんが横目で軽く睨む。
「そうでしょうね、じゃないわよ、カイト。遅刻してるのよ?マスターも、もう少ししっかりして下さい。社会人なんですから」
「解った、解ったからもうその辺にしてくれ。俺はそこまでガキじゃないぞ」
めーちゃんは、こういうところは結構厳しい。
彼女の視線が背中にちくちくと刺さるのを感じつつ、俺は緊張しながら店の戸を開けた。
予想通り、懐かしい面々が既にそろっている。
それを認識するのとどちらが早かったか、どこからか小さく声が上がって、その直後、同窓生の1人が立ち上がっていた。
「やっと来たな、悠!」
「ああ、悪い、ちょっと道に迷ってさ」
「それだけじゃないくせに」
背後でめーちゃんが小声で呟くのが聞こえたが、無視した。
ざっと店内を見渡してみたが…俺が会うのを恐れていた人間の顔はなかった。
あいつも遅刻か…はたまた都合があって来れないのか。
どちらかは定かでないが、俺は少し気が楽になって、声をかけてきた彼に歩み寄った。
「久しぶりだな、隼人。元気そうで何より」
名を呼ばれた彼は、にへらっと笑った。
…顔が少し赤い。
「お前こそ、元気にしてたか?おい」
「隼人…お前、もう酔ってんのか。飲みすぎだろ」
「いーじゃんかよ、こういう時くらい」
「良くねーよ、寄んな、酒臭い」
「んな事言って、どうせお前も飲むんだろ?」
「…まぁな」
隼人の言葉に、俺は思わずにやりとした。
めーちゃんもカイト君も、困惑気味にそんな俺を見つめてくる。
「あの…マスター、この人は…?」
「ん?ああ、悪い、忘れてた。こいつ、赤城隼人。簡単に言えば、俺の親友ってやつだな」
「ちょ、紹介終わりかよ?早くねえ?」
「うるさい、黙れ、酔っ払いが」
軽くあしらってやるが、彼は気を悪くした風もなく笑って、またビールのジョッキを傾けた。
親友とは言ったが、どちらかといえば悪友と言った方が近い仲だ、これくらいのやりとりは挨拶みたいなものだ。
…って、おいおい、まだ飲む気なのか。
ほどほどにしとかないと、翌日辛いぞ。
言ったところで聞かないだろうけどな。
「へー、VOCALOIDか。私服とかついてんのか?」
「んなわけないだろ。買ってるんだよ。人混みを歩かせるのにデフォルトの服じゃ目立つし、本人もあまりいい気はしないだろうからな」
「マジかよ?!くそー…いつから金持ちになったんだよ、ハルちゃんのくせに」
「ハルちゃん言うな!節約してどうにかしてるんだよ!…っと、悪い悪い」
会話の尽きない俺たちに、おいてきぼりにされたVOCALOID2人が、戸惑うように目を見合わせたのに気付いて、慌てて謝る。
「何か飲むか?今なら隼人がおごってくれるらしいから」
「え、いいんですか?」
「待っ、悠、おま…ちっ、しょうがないな…加減はしてくれよ、えっと…」
「メイコです。こっちはカイト」
「あ、カイトには飲ませんなよ。こいつ、すぐ酔うから。連れて帰るのが大変になる」
俺がそう言うと、カイトは明らかにほっとしたような顔をした。
彼は、酒は嫌いじゃないようなのだが、すぐに酔って記憶が飛ぶのが好きではないのだ。
そうでなくとも、彼には素面でいてもらわなければ。
もし俺が調子に乗って潰れたら、彼が頼りだ。
いくら人間より力があるとはいえ、女性型のめーちゃんに任せるのは気が引ける。
「で?相変わらず独り身か?」
「うるせーな、悠だって人の事言えないだろ」
ふと思い付いて、ふざけて訊いてみると、渋い顔をされた。
図星だったらしいが…俺の事まで言ってくるとは、隼人のくせに生意気な。
「なあ悠、お前のねーちゃん紹介してくれよ」
「夜道に背後から刺されてもいいならな。それにあいつは姉貴じゃない、従姉妹だ」
実際にはそんな事はないだろうが、可能性としてはあり得るだろうな、なんて考えながらそう答えると、隼人はわざとらしく肩を竦めて、めーちゃんを見た。
「あーあ…俺も頑張ってVOCALOID買おうかな…」
「やめとけ。お前、音楽どころかPCの知識もないだろ。…それと、念のために言っとくが、うちのめーちゃんはやらんぞ」
カイトに目配せしながらそう言うと、彼の顔に僅かに朱が差したが、照れ臭そうに少し笑った。
がっかりしたふりをしてみせる隼人を軽く小突いてやりながら、俺も、自然と笑みを浮かべていた。
やはり、友達はいいものだ。
こうして話しているだけで、時間を忘れるようで…。
「…ごめんなさい、遅れちゃって…!」
そう思った時に、店の入口から聞こえてきた声に、凍り付く。
自分の意に反して、視線がそちらへと向いた。
真っ先に目に入ったのは、雨に濡れた赤い傘。
ああ、天気予報、当たったのか。傘、持ってきておいて良かったな。
そんな事を、どこか遠くで考えていた。
…戸口に立つ彼女。名前は、藍沢南海。
俺の記憶に、一番残っていて、そして同時に、一番会いたくなかった女だ。
【自作マスターで】―Drop― 二話目【捏造注意】
またキャラが増えてしまった…。
「南海」と書いて「みなみ」と読みます。
隼人と南海がこの一発だけで終わるのか、それとも今後も登場するようになるのか、それは私の技量次第ですが…(汗
さて、南海と再会した悠さんがどうするのか…。
今回モチーフとさせていただいている曲は、こちらです。
『37℃の雨』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4103304
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ブクマつながり
もっと見る先に帰れと言ったのに、めーちゃんもカイトも、美憂の住むマンションの前までついてきた。
家に帰るなら、遠回りになるというのに…そんなに俺が気がかりなのか?少しばかり落ち込む。
「もういいだろ。ちゃんと自分で帰ってくるし、もしそれが無理でも、何とかするから」
「…本当にですか?」
そう問うてくるめーちゃ...【自作マスターで】―Drop― 四話目【捏造注意】
桜宮 小春
彼女と目が合ったのは、ほんの一瞬だけ。
だが俺には、その一瞬が何十分にも、何時間にも感じられて…やっとの事で目を逸らした。
そんな俺へと、足音がゆっくりと近付いてくる。
来ないでくれと強く思いながらも、はっきりと拒む事はできないまま、隣に南海が立ったの気配を感じ取っていた。
「白瀬君…ちょっとだけ...【自作マスターで】―Drop― 三話目【捏造注意】
桜宮 小春
!注意!
この先、KAITOの亜種がいます。
嫌悪感を感じる方は、見ないことをお勧めします。【レンリン注意】―Crush― 第四話
桜宮 小春
1度しか、それも前を通った事しかなかったのだが、俺はちゃんと覚えていたらしい。
だけど…彼女の家の前まで来て、躊躇う。
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第六話
きっつい、という事は、特...【レンリン注意】―Crush― 第六話
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このまま今日を終えるのは、な...【レンリン注意】―Crush― 第八話
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散々脅されたわりには、2人の説教は厳しくなかった。
黙って出ていって夕方になっても戻らなかったんだから、その事は怒られたけど、俺が無事だった事に対する安堵の方が大きかったらしい。
もっとも、俺にとっては、リンに泣かれてしまった事が、一番辛かったけど。
―Crush―
最終話
次の日。
俺は夜の間にも...【レンリン注意】―Crush― 最終話
桜宮 小春
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