オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボで書けることになった。
オリジナルマスターがメイン、というか、マスター(♂)×マスター(♀)です、新ジャンル!
そして、ところによりカイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手は、かの純情物語師(つんばる命名)、桜宮小春さんです!
(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)



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 悠サンとおとうとくんが出て行って、部屋に取り残されたのは、私とメイコさん、そしてパソコン他機材だけ。メイコさんと顔を合わせるが、お互い苦笑しかでてこない。
 ……ほんとうに、いったいどうしたというんだ。
 メイコさんも困惑げなので、よくわかっていないのは私だけじゃないようだが。



―Grasp―
アキラ編 第三話



 なにかしたろうか、と、ここに来てからの行動を思い出してみるが、とくになにかした覚えはないし、特になにかされた覚えもない。とりあえず、おとうとくんから作業続行のゆるしは出ているから、機材は好きに使っていいものとして解釈して、パソコンに向き直る。
 きっと聴こえてくる音声だけでなにかあったことを悟ったのだろう、めーこさんとかいとくんも不安げな顔をしている。

「ハルカさん、どうかしたんですか?」
「わからない。いったいなんなんだろうね」
「すみません、うちのマスターが」
「いや、メイコさんが謝ることじゃないよ」

 せめてひとこと理由をいわない悠サンがわるいよね、と冗談めかして言うと、メイコさんはすこしだけ表情を和らげた。
 悠サンがいなくなった理由はどうあれ、都合のいいように考えれば、他人の家の機材を勝手に弄れる絶好の機会ともいえる。操作方法はメイコさんに教えてもらえばいいし、むやみに壊すこともないだろう。インスト制作に悠サンの意見が反映されないのは少々気が引けるが、そもそもここにいないのだから何を言う権利もないのだ。機材を使って、色々遊ばせてもらおう。
 それにしても――と、私は人間がひとりしかいない練習室を眺める。普段一人暮らしの狭いワンルームで楽曲制作している身としては、このがらんとした風景は居心地がわるい。なにか家主のいない家に勝手に上がりこんでいるようなきぶんになる。溜め息をつこうとして、すこしこらえた。あまりメイコさんに気を遣わせては申し訳ない。


 メイコさんに使い方を教えてもらいながら、いくつか機材をつないでみたりしたのだが、結局、私には使いこなせないという手ごたえがあっただけだった。慣れればそうでもないのだろうが、俄かでどうにかできるとも思えない。でも、せっかく家にない機材があるのに、という貧乏根性が勝って、美憂先輩のものだったという例のキーボードをつなぎ直して、適当なフレーズを弾いてみることにする。

「……しかし、難だな。こういうときに、まじめにピアノやっておけばよかったと思うんだよね」
「アキラさん、ピアノやってたんですか?」
「いちおう小学校の時にね。もう弾けないよ。いまだって適当さ」
「でも、適当にといいながら、きちんと形になっているのはセンスがいい証拠ですよね」
「褒めてもなにもでないよ、メイコさん。でも、たしかに音楽歴は無駄に長いからね、いつの間にかなにかの曲に似てきたりするからこまる」

 適当に雑談をしながら、ふと時計を見た。機材で遊びはじめてから、時計の針が、90度ほど動いている。
 ……さすがに遅くないか?

「ねえ、メイコさん。悠サンのアレは二日酔いかなにかかい?」
「え? 昨日は飲んでないはずですけど……」

 それにしては、ひどく具合が悪そうだった。頬が赤くてぼんやりしている。……風邪で熱が出始めるときの症状に似ているなあ。

「じゃあなにか疲れがたまっているんじゃないかい、仕事で夜遅かったとか」
「ああ、そういえば……ここ最近、残業続きみたいで。昨日は早く帰ってきたんですけどね」
「具合がわるいなら無理しなくていいのになあ。そんなに急ぐ話じゃないんだから」
「うちのマスター、少しぐらい無理をしてても黙ってますからね……私も心配です」

 そうだ、たとえば具合がわるいのに、約束だからと無理しているのなら、それはちょっと個人的に許せない。音楽は、演奏する者の体調や精神状態におおいに左右される。それが音楽的によしとされるときもあれば、おおいに悪影響になることもあり、また聴く者にとっても印象は様々だが、私はできるだけ体調は万全な状態で音楽には臨みたい一人だ。プロだからアマチュアだからとか関係なく、聴いてくれる人がひとりでもいるなら、その人には敬意を払って演奏しなければいけないと思っている。
 作曲も同じだ。以前、すこし落ち込んでいたときにむりして曲を作ってみたときなど、気持ちのわるいつくりの曲になっていた。後から聴いてみれば、聴けたものではないほどに。抑揚のない音の並びに、不協和音だらけのコードで構成されたその曲は、他の人に聴かせられないもののひとつだ(それでもいちおうデータは残してある。自分へのいましめだ)。
 音楽には、万全の態勢で真摯に臨むべきだ、という主張は、趣味音楽家にしてみれば、ずいぶんかたくなな主張かもしれないけれど、これだけは譲れない一線なのだ。それだというのに、一緒に曲作りする相手がそんな腑抜けた(というのもしつれいだけれど)きもちでやっているのなら、いいものができるとは思えない。
 あ、なんだかイライラしてきた。

「……メイコさん、ちょっとお手洗い借りるよ」
「あ、はい」

 気を落ち着けるための休憩のつもりで、部屋を出た。メイコさんが場所の案内をしないのは、お互い勝手がわかっているからだろう。廊下を渡って、洗面所を覗くと、悠サンとおとうとくんがいた。なにか話しているのか、こちらには気づいていないみたいだ。鏡越しに、悠サンの顔から色がなくなっているのが見える。
 やっぱりなんか具合わるいんじゃないか!

「……トイレにしては長すぎますよ、ハルちゃん先輩」
「あ、アキラ……!」

 声をかけると、ふたりが驚いたようにこちらを振り向く。見られたくないところを見られた、と、ふたりの表情が語っている。そのすこし怯えたような顔に、かちんときた。
 なんだ、なんなのだ、ほんとうに。このわけのわからない不愉快さは――!

「やっぱりどっか具合わるいんじゃないですか、なんで素直に言わないんです」
「わ、悪かった……治まったから平気だ、すぐ戻る」

 治まった、ということは、やっぱりなにかあったのか、と、思わず視線が厳しくなる。今回の曲作りだって、具合がわるいのを隠してまでやらなきゃいけないことでもないだろう。無理して身体をこわすなんてばかげていると思わないのか。そこまでして――そこまでする理由なんて、このひとにはないはずだ。
 わざと相手にわかるようについた溜め息には、先ほどのメイコさんへの気遣いみたいなものは全部こそげ落ちていた。

「……ハルちゃん先輩の具合がわるそうなので、今日はもう切り上げます」
「いや、もう大丈夫だから……!」
「もうきめました。今日はこれでお暇しますよ」
「そんな、アキラさんっ……!」

 必死にくらいつく悠サンを一蹴して踵を返す。その後ろから、おとうとくんが戸惑いがちに、それでも強い声で私の名前を呼んだ。一度だけ振り返って、すこしだけ笑顔を作ってみる。

「体調が万全じゃないひとと一緒に音楽やっても、いいものが生まれるとは思えませんよ、悠サン。……ごめんねおとうとくん、また来るよ」

 きっと皮肉気な顔にしかなっていないだろうけれど。


 今度こそきちんと背を向けて、練習室に戻り、メイコさんに事情を告げて、機材を片づけた。メイコさんはやっぱり戸惑ったような顔でなにか言いたげだったが、わがままでごめんよ、と、卑怯な謝り方をして、作りかけのインストデータだけメイコさんに渡して帰ってきた。家に帰ってきて落ち着くと、なぜ自分があれほどイライラしたのか、皆目わからなくなっていた。

「……しつれいなことをしたと思っているよ」
「ほんとですか、マスター、ちゃんと反省してます?」
「してるよ、めーこさん。だからあんまり責めないでくれるかな」

 めーこさんとかいとくんにも申し訳ないことをした。せっかく連れて行ったのに、筐体と一緒に歌わせるどころか、インスト制作するだけで帰ってきてしまったのだから(尤も、めーこさんは筐体のミク・リン・レンに会えなかった私怨も入っているような口ぶりだが)。
 かいとくんも、いつもより口数はすくないものの、非難がましい目でこちらを見ている。

「だいたい、マスターは気が短いんですよ、それに言い方がきついんです!」
「めーこさん、キミ、私がこれでも気が長くなった方だとわかってて言ってるかい?」
「まだまだ短気の部類ですよ! うちのカイトや白瀬さんちのカイトさんを見習ってください!」

 うーん、たしかに、かいとくんもおとうとくんも温厚の粋をきわめたような人柄だけれど、今更そこまで丸くなることはできないんじゃないかなあ、なんて思いながらめーこさんの小言を聞き流していると、携帯の着信音が鳴った。
 聞いてますかマスター、と、めーこさんから声がかかったのに、ごめん電話がきたみたいだと短く返して、かぱりとフリップを開くと、見慣れた名前が浮かんでいた。

「はい、もしもし」
『やっほー、アキラちゃん、曲の進行状況どおー?』
「どうもなにも、悠サンが使い物になりません」
『相変わらず言うね~』

 テンション高めに電話をしてきたのは、コラボの主犯というか、企画主というか、いいだしっぺの美憂先輩だ。時間的に、仕事の休憩時間にでもかけてきているのだろう。

『まあいいや。あ、そうだ。仕事、ちょっと早く上がれそうだから、ハルちゃんち遊びに行くよ! 休日出勤の鬱憤晴らしにお酒も持っていくからね! 何かリクエストある?』
「酒には惹かれますけど、私は行きませんよ。というか、今私家です」
『あれっ、ハルちゃんちに集まるの、今日じゃないっけ?』
「もう帰ってきました」
『ええっ、どういうこと!』

 まあ、順当に考えたらまだ悠サンちにいておかしくない時間帯だからなあ、と、他人事のように考えながら、悠サンの家でのことを話すと、美憂先輩の声のトーンがだんだん落ち着いてきた。

『そう、それで』
「正直、体調わるいひととは一緒にできないです」
『アキラちゃんのそういうストイックなとこ、いいと思うけど……』
「わかってます、私もしつれいなことをしました。でも、そんな風に隠されたりされると、さすがに腹が立ってしまって」

 電話の向こうから沈黙が聞こえる。叱られても仕方ないことをして帰ってきた自覚はある。だけど、譲れない一点というのはあるもので。

「……このまま一緒にやってて、大丈夫ですかね?」

 そう問うた言葉は、はたして誰に向けた言葉だろう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第三話 【アキラ編】

マスターの設定で異様に盛り上がり、自作マスターの人気に作者が嫉妬し出す頃、
なんとコラボで書きませんかとお誘いが。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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アキラ、挙動不審な悠サンに、さらにイライラするの巻。

体調と精神状態はものすごく音楽に影響します。それはもう昨日まで出せていた
音色が、まったく出なくなる(出せなくなる)位に変貌します。
悲しい時には悲しそうな音が、嬉しい時には嬉しそうな音が、怒っている時には
怒っているような音が、意図せずどうしても出てしまうということは多分にあります。
だからこそ、きちんとコントロールしているプロの演奏家はすごいと思うのです。

上昇志向の高いひとは、自分の信念をもつあまりに、その信念を他人にも押し付けて
しまいがちです。アキラも若干その気がある子なのですが、きっと本人は悠サンに
押し付け気味にしていることを気付いていません。上昇志向のあるひとの典型例です。
上昇志向があるのはわるいことではないですが、押し付けないように伝えることの方が
だいじなのじゃないかと、個人的には思います。

その点では、アキラの言い方はちょっとマズイんじゃないかなあ……なんて。
あんまりアキラみたいな風にならないように気をつけてくださいね。
言ってることが正論でも、伝え方を間違うと正論にきこえなくなってしまいます。

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――まあ、そこまで考えて書いてたわけじゃないけどn(蹴(だいなし
しかしホントに、このままだとアキラがドSキャラになっちゃうんじゃないかと
いらない心配してます。だれかこいつの暴走をとめてくれ!

悠編では、なにやら先輩が具合悪そうなので心配です、こちらも是非!

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白瀬悠さんの生みの親で、悠編を担当している桜宮小春さんのページはこちら!
http://piapro.jp/haru_nemu_202

閲覧数:361

投稿日:2009/09/21 11:01:51

文字数:4,531文字

カテゴリ:小説

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