~~~~~ルカさん視点~~~~~





―――――驚いた。



Turndogの意外なまでの足裁きの良さにも驚いたけど。



もっと驚いたのは――――――――――――――――





わずか開始1秒。相討ちにも近い状態ながら―――――Turndogの面がイズミ草さんの面金に触れるよりも速く―――――イズミ草さんの胴が決まっていたこと。


「ど……胴ありっ!!!」


余りの瞬殺劇に、どっぐちゃんも一瞬宣言を忘れかけるほどだった。紅の旗がばっと上がる。


「え……ちょ、今の何が起きたの!?」

「い、イズミ草さんが勝ったの? よくわかんない……!」


しるるさんやゆるりーさんは目を白黒させている。そりゃそうね、戦いに慣れていない者にゃ一瞬過ぎてわかんないよね。


「今のはね……」

『Turndogとイズミ草さんが同時に踏み切って、Turndogは面を、イズミ草さんは胴を撃った。しかし踏み切りの強さ、腕をしっかり伸ばしているかどうかなどの基礎の差で、イズミ草さんがわずかにあらゆる『速さ』を上回り、先に胴を決めた』


「そういうことだろ? ルカさん」
「そういうことでしょ? ルカさん」


リンとレンの一字一句違わぬ見事な説明。出足を挫かれちゃった。


「そ、そうね。そーゆーことね」

「へーっ……イズミさんすごーい!!」


見事に息のあったリンとレンのことも褒めてあげてほしいなーとか妙な家族愛を発動してしまいながら、二人のほうに向きなおる。

Turndogはさぞショックを受けているかと思いきや……妙に清々しい顔をしている。

試しに音波術『心透視』で心を読んでみると………


(……やっぱり、か。若干想定以上ではあるけど、こうなることは目に見えてはいた……『殺る気』全開で行かないと1分持たずに負けるな)


げ。こいつかなりあ荘の仲間相手に凄まじいこと考えてやがる。

イズミ草さんの方はというと、何かを確信したような顔をしている。

自分とはTurndog以上のつながりのない人だから心を読む気にはなれなかったが、読まずとも大体わかる。

――――――確信したのは、自分とTurndogの実力差。基礎における実力差ぐらいしかないだろうけど、確実にTurndogの上を言ったことを確信している。

その証拠が―――――さっきの激突。踏み切りは私の目から見てもほぼ同時だった。だけどTurndogの竹刀は確かにイズミ草さんの面金に届いてなかった。イズミ草さんの竹刀はTurndogの胴を凪いでいたのに―――――である。

基礎ができているからこその速さが、基礎のできていないちんちくりんTurndogの速さを上回ったのだ。


これはあっさり勝負つくかな―――――そう思ったその時だ。




―――――ピリッ―――――




「……!?」


開始線に戻ったTurndogの空気が―――――変わった。

これまでただブッ倒そうとするだけの意気込みしか伝わってこなかったのに。


今はまるで―――――あの『紫色の武士』が私たちを殺そうとしてきたときの空気に似たようなものを放っている。


(これは……!)


そうこうしているうちに、どっぐちゃんが中央に立って二人をすっと見据えた。



「……二本目ッ!!!」



号令と共に、イズミ草さんが再び踏み込もうとしたその瞬間―――――



『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』



その場でTurndogが、凄まじい気合いと共に大声を放った。

道場にいる者全員が突然の大声に身を縮ませる。

それは―――――イズミ草さんも例外じゃなかった。踏み切って飛び込んだものの、一瞬萎縮した右足の踏み込みは完全ではない。


『面―――――』

『胴ゥ!!!』


今度はTurndogの胴が先に入った。……が、形が崩れている。どっぐちゃんも旗を交叉に振って有効打突を認めない。

やはり基礎の差は大きい。打突の正確さはイズミ草さんの方が圧倒的に高い。

だけどあの負けず嫌いのTurndogがマジの『殺る気』を出した以上、このまま終わるとも思えない……!


『面ッ!!』


先に仕掛けたのはイズミ草さん。綺麗な姿勢のお手本みたいな面! 鋭くTurndogの面を狙っていく。

Turndogはまだ動かない。これは決まるか―――――



『ハッ!!!!』



が。

Turndogの声と、竹刀同士のぶつかる音が響くと同時に、イズミ草さんの竹刀がかちあげられた。

Turndogが竹刀を振りかぶる動作でイズミ草さんの竹刀を弾いた―――――すり上げ面!! Turndogの―――――十八番だ。


『面ッ!!!』


鋭い一撃がイズミ草さんを襲う。それを擦れ擦れで躱し、距離をとった。Turndogは中段に構えなおし、今度は自分から仕掛けようと竹刀を振り上げているが―――――……。

―――――いけない。あれじゃやられる!!


『胴ォ!!!!』


ダン!! と床を踏み切る音が響いて、イズミ草さんの飛び込み胴が決まろうとしていた。


……ところが。今度はその竹刀が、激しい音を立てて地面に叩き付けられていた。

Turndogが上から竹刀を叩き付け、撃ち落としたのだ。―――――打ち落し面!!


再び面がイズミ草さんに襲い掛かるが、とっさに頭を振り打点をずらした。どっぐちゃんの持つ旗が交叉する。

またもイズミ草さんが距離をとると、そこには大きく肩で息をするTurndogがいた。荒い息遣いも聞こえてくる。

無理もない。Turndogの動きは基礎ができてないせいか無駄が多いんだ。無駄な動きを重ねていれば、体力の消耗は激しい。例え男女差でTurndogのほうが体力があったとしても、これではイズミ草さんよりもあっさりと力尽きてしまう。

しかもそのせいか、胴ががら空きだ。ここまでの技のキレや、一本目を見る限りイズミ草さんの得意技は胴―――――それも相手の攻撃を躱しながら打つ抜き胴が得意そうだ。

これではもう、Turndogの負けは決定的か……!!


数秒の静寂の後。先に動いたのはTurndogだった。一瞬振りかぶる動作を見せた。わずかに腕が上がった瞬間―――――胴が顔を見せる。

隙は―――――逃されなかった。


『胴ッ!!!!』


一瞬にして間合いを詰め、イズミ草さんが胴を打ち込んだ――――――――――





『小手ェ!!!!』





――――――――――一瞬何が起きたのかわからなかった。

抜き胴がきれいに決まると思った瞬間。


いつの間にか構えを中段に戻していたTurndogの右手が、軽いスナップを利かせながら竹刀を撃ち出し、鮮やかにイズミ草さんの右手―――――『小手』を打ち据えた。

そしてそのまま後ろに猛スピードで下がっていく。胴はぎりぎり―――――触れていなかった。



「小手ありぃっ!!!!!」



どっぐちゃんの宣言で、白い旗が掲げられた。どことなく嬉しそうなのは……うん、仕方ないね。

またもやしるるさんたちは目を白黒させている。


「え、何!? 何が起きたの!?」

「白の旗ってことは……ターンドッグさんが決めたってこと!?」

「ええ!? でも今確かにイズミさんが……!」



「出端小手……」



思わずつぶやいてしまい、皆が私の方に振り返った。



そう。今のは『出端小手』。

相手が攻勢に転じようとしたその瞬間、高速の小手で打ち据えるそれなりに難しい技。

少なくとも、相手の動きにより的が上下する分だけ、面や胴よりも打ちにくい技だ。

だけど今のは……明らかにやり慣れていた。

間違いなく、Turndogはこれを得意としている……!!



『……ターンドッグさん』



開始線に戻ろうとして、不意にイズミ草さんがTurndogに声をかけた。


『……ターンドッグさんって、好きなことはとことん追求できるけど興味の沸かないことはからっきしダメなタイプでしょ』

『ははっ、よくわかりましたねぇイズミさん。出端小手って、かっこいいじゃないですか!』


少し納得したように笑って、彼女は開始線に戻った。

Turndogも開始線に戻る。



(やっぱりターンドッグさん、侮れない……ただの基礎不足と見せかけて、あんな切り札を持っているなんて! あの精度からして、高速で竹刀を撃ち出すだけの一瞬の爆発力を生める体力が残っていれば、この距離でも面小手胴を初動の時点で封じ込めることができる……それを危惧するならば狙うはただ一つ……!!)


(やはりイズミさんは強いな……あと一瞬でも反応が遅けりゃ、無様に抜き胴を喰らってた……だが同じ技がそうそう通用するとは思えない。体力も乏しいし、もう出端小手で一本を狙うのは厳しいか……ならばやはり……あれに頼るしかないか……!!)



二人の心は、どうも一致しているようだ。偶然にも……剣道の技の中でもかなり危険な部類の、あの技で。


どっぐちゃんがすっと二人を見据えて――――――――――――――――





「……勝負っ!!!!!」





三本目が始まると同時に―――――――――――――――





『『突ぃぃっ!!!!!』』





二人の声が重なって、竹刀がお互いの喉当てを狙う!!


奇遇にも剣先がぶつかり合い、共に僅かに軌道をずらして―――――お互いの面の横をかすめた。

そしてそのまま―――――ガチィン!! と音を立てて面金どうしがぶつかり合った。


静寂が、訪れる。





《ビィィィィィ―――――――――――ッ!!!!!》





その静寂をぶち破る、奇怪な音がネルのカバンから響いた。

思わず一斉に全員が―――――試合中の二人も―――――ネルに怪訝な顔を向けた。


が。カバンから何かの計測器を取り出したネルの表情は、そんな一同よりも深刻そうな顔をしていた。





「Turndog!! 侵入者よ!!!! かなりあ荘関係者以外の人間が時空転移用PCに触れた……空き巣かもしれないわ!!!!」





その瞬間。咄嗟に駈け出したのは私とリンとレンとネル―――――そしてTurndog。しゅるりと紐を解いて、面を優しく、しかしすばやく置いて竹刀を持ったまま階段を駆け上がっていく。


「あ、ちょ、待って!! 私も行きますよ!! かなりあ荘の管理人なんだから!!」

「しるるさん!? 危険ですよ、私も行きます!!!」





そういいながら、しるるさんやほかのメンバー、そしてイズミ草さんも、かなりあ荘の危機に走り出していた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町! Part8-3~TurndogVSイズミ草!!②殺意とテクの激突!!~

決・闘!!!
こんにちはTurndogです。

イズミさんがマジで強いですw
インタビューやコメントで『そんなに強くない』と言っているイズミさんですが、彼女に限らず日本人の『そんなに強くない』ほどあてにならんもんはないですからね。それに実際にやってみなけりゃ弱いかどうかはわからないので実質確かめようがない。
ということで私の知っている剣道初段の強さをイメージしましたw
ただいい勝負にならないと盛り上がりに欠けるので、私も若干パワーインフレ起こしてます←
竹刀を払うタイプの技と小手系は大得意なのはホントだけどね。

最後の突きの相討ちは一度でいいからやってみたいんだよねぇww
恐ろしく危ないだろうけど。
竹刀の剣先同士が真正面から激突したらそれはもうすごくない?

次回の話はリビングの201~300を見てくれば想像がつくかも?

閲覧数:160

投稿日:2013/09/26 22:21:58

文字数:4,427文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    臨場感がもんもんでドキドキしました!!!
    私がっ私がとっても強い感じに……!!!
    ありがとうございます!!!

    2013/10/03 20:30:43

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      ふふ、バトルシーンだきゃあ(ry
      私の中の初段イメージこんな感じですからねぇww
      知り合い脳震盪ものの面を凄まじい精度で連射してくるし、小手で2本とるしw

      2013/10/03 21:35:53

  • Tea Cat

    Tea Cat

    ご意見・ご感想

    うちの母、剣道二級です!
    中学時代、学年の誰よりも早く二級をとったのに、怪我してできなくなったという。
    で、私は剣道部じゃないのに、親から「剣道はいいぞ!」と技を語られたせいで説明の前に名前が全部わかってしまった人がここにいる!

    えーっと、前文長くてすみません、茶猫です☆にゃぁ
    バトルシーンがめっちゃリアルだったので、脳内アニメーションが再生されていました!
    それと同時に、体育の授業でしか剣道をやったことが無いんですが、最初の授業で竹刀のささくれが指にささって保健室にGO!した記憶がフラッシュバックしました…。
    でも、すごく面白かったので、ブクマ、もらいます☆にゃぁ

    2013/09/28 20:40:35

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      おぅふ……怪我はきついですねぇ……
      私は一級を小6(一級をとれる年齢の下限)でとりながらも才能と根性がなかったために初段を諦めた←

      ふふふ、バトルシーンだきゃあかなりあ荘の誰にも負けはしませんからな!www
      あう!それは痛い!!
      俺はささくれを紙やすりで削っているときざっくり刺さった記憶があるねww

      ブクマありがとです!
      でもごめん……茶猫さんの出番がなくなってもうた……(´・ω・`)
      代わりにPart9でゆるりんてぃあの三人で話作るから!

      2013/09/28 22:22:47

オススメ作品

クリップボードにコピーしました