誰が悪いわけじゃなくて、きっとより良いものを望んだだけなんだと思う。
 僕は、どうやっても僕の目線からしか世界を見られなくて、それと同じように、皆が皆の心からそれぞれにいろんなことを感じているんだろう。
 笑っているのに悲しんでいて、泣いているのに喜んでいる。
 心はとても複雑過ぎて、自分自身でも分からないときがある。
 僕は、今、何を思ってる?

 またあの青い花が咲く季節が来た。
 何度目なのか忘れてしまいそうだけど、頭の片隅できちんと十四回目だと数えてしまう。
 りんが消えてからもう六年になる。
 僕はまだその場所に留まっていた。
 動く気力もなくなっていた。
 自分の無力さを感じて、後悔して、自分勝手な欲望ばかりが出てくる。
 大切なものばかりが、手から滑り落ちていく。
 これ以上、僕はわがままになりたくなかった。
 何かを奪ってまで、自分を守りたくなかった。
 流れる風は、少し温かくて、だけど冷たくもあった。
 青い花の近くに座り込んで、遠くに見える町を眺める。
 春を迎えつつある町は、活気に溢れ、賑わい、風に乗って楽しそうな声が聞こえてくる。
「あなたの優しさに、僅かでも目を瞑っていられたら良かったのに」
 ふと、そんなことを呟いた。
 『鬼の子』じゃない僕を知っているのは、お母さんだけ。きっとお母さんだけが僕を憶えているから、まだ消えてないのだろう。
 僕を生んだお母さん。
 『鬼の子』を生んでしまったお母さん。
 僕を山に連れてきたお母さん。
 いつも泣いてた。
 僕を置いていく時だって。
「わがままだ…」
 青い花をひとつ手折る。
 今どんな顔をしているのか、自分でも分からない。
 きっと、お母さんの気持ちを聞ける日は来ないけど、伝えたい言葉はいっぱいあるんだよ。
 お母さんが与えてくれたものを、ちゃんと知っているんだ。
 どんなに僕に辛く当たったように見せても、その心の奥で思っていたことを知っている。
 僕を捨てていった事実は変わらないけど、そのときのお母さんの気持ちが分かるから、恨めないし憎むこともない。
 僕のことが嫌いだと言わんばかりの暴挙の数々だと世間は言うだろうけど、それは違うと信じてる。
 確かに人間は汚いことをする。誰かを傷つける。虐げて、ボロボロに踏みにじる。そうしている事にすら気付かない無知な人間だって居る。
「僕は嫌いになれない…」
 りんを消してしまった人間。
 だけど、りんと会わせてくれたのも人間。
 りんを利用したのも人間。
 りんを連れ出したのも人間。
 僕を捨てていったお母さんも、人間。
「ずるいよ…りん」
 りんは、お母さんが僕に教えなかった知識をくれた。
 りんが僕の世界を広げた。
 りんが、僕の心の希望を大きくしてくれた。
 それは辛苦を伴っているのに、どうしてこんなに愛しいんだろう。
「大丈夫…」
 ポツリと呟いた。
 僕の世界は優しさで溢れている。
 それなのに、なぜこんなに僕は空虚なんだろう。
「大丈夫…」
 お母さんの子供でよかった。
 精一杯僕を守ってくれた。
 家の奥の部屋に閉じこめて、出来るだけ他者の言葉に傷付かないようにしてくれた。
 退屈しないように、部屋には本も玩具もたくさんあった。
 生きるために必要な知識は、全部その中においてくれた。
 ふすま越しだけど、一緒にご飯も食べてくれた。とても、温かかったよ。
 僕を安全な場所に連れてきてくれた。
 突き飛ばされたときの一瞬の触れ合いでもうれしかった。
 今、この手にある花と同じものを、持って行ってくれた。
 僕が、あのときにも手折った青い花。
 りんの頭にも飾ったけど、きっともう見えてなかっただろうな。
 お母さんは泣きながら、僕が生きることを願ってくれた。
 泣いて、泣いて、本当は生きてと叫んでいたんでしょう?
「大丈夫…」
 ずるいのは僕の方。
 りんはそれを許してくれた。
 人間を憎む事ができない僕をわかってくれた。
 一生懸命笑ってくれた。
 元々、笑い方なんて知らなかったから、とても歪なものにしかならなかったけど、精一杯笑い合った。
 僕に、生き続ける理由を残してくれた。
 今も愛されているんだと教えてくれた。
 手をずっと握ってくれた。
 僕を見てくれた。
 それだけで、十分なんだ。
「大丈夫…」
 もうこれ以上、奪いたくないんだ。
 わがままになりたくない。
「大丈夫…」
 繰り返す言葉はいつも自分の為に言い聞かせているようだった。
 手に握っている青い花が風に揺れる。
 同時にさらりと髪もなびいて、角が姿をさらす。
 その下にある表情は、どんな感情を潜めていると思いますか?
「大丈夫…」
 呟くその言葉には、どんな願いが込められていると思いますか?


 あなたの目にはどんな真実が映りますか?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

鬼の子-その7-

ここまで読んでくださってありがとうございます。
長くて申し訳ありません。
今回は説明編みたいな感じです。
まだ続きます。しかし、終わりは見えてきましたね…
どうなるんでしょうねえ←オイ

私にとっては異例の速さでの更新です(笑
いつもこれくらいのペースであげれたらいいんですがねぇorz
そして、文章が疑問系という初の試みをしてみました。
うーん…評判が悪かったらすぐに書き換えます。
質問に全部答えられたら、鈍痛から素敵なプレゼントが届くかもしれないよ!!
↑ウザかったらすみません。
毎度のことながら、本文よりもテンションが高いです。

ご意見・ご感想などございましたら是非お待ちしております。
メッセージを頂くたびに、PCの前で歓喜しております。

素晴らしい原曲様=http://piapro.jp/content/371rlchbw857ki6g

閲覧数:236

投稿日:2009/02/03 17:58:07

文字数:2,006文字

カテゴリ:小説

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    痛覚

    ご意見・ご感想

    逆さ蝶様、読んで下さってありがとうございます!!
    そうですね、起こっていることとしては今そのあたりです。
    れん君十四歳です。
    が、心情の部分はいろんなところと平行させて書いているので、もう少し先の部分も含んでいます。

    私にもれん君の感情が分からないです!!笑……orz
    ただ言えるのは、聖人君子みたいな子じゃないことくらいですかねえ。

    わわわ!!質問に全部答えていただいてる!!嬉
    正解とかなんだかんだ言うつもりはないです。
    なぜなら、答えていただいて時点で、それがあなたの真実なのです。
    最後の質問を答えていただければ、自然と残りの答えも出てくるはずです(多分←オイ
    そういう感じで書いてます。
    他力本願で申し訳ないのですが、私が書く文章の意味をどう受け取るかは、どうやっても私ではわからないのです。
    何も受け取らないという選択肢もあります。すべて自由です。
    ただ、勝手にプレゼントはさせていただきます(笑
    思ったことをたくさん書いていただいて嬉しかったので(*´∇`*)

    それでは、これからも頑張ります!!

    2009/02/04 12:42:54

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