オレンジ色の光が街並みを照らし、遠くでは烏の鳴き声が響き渡っていた。
伸びる影を背に、テトとマスターは並んで歩を進める。
「結構、遅くなっちゃったね」
「マスターが、物一つ買うのに悩みすぎなんです」
そう言って、テトは呆れた顔をマスターに向けた。
彼女の両手には、大きめのビニール袋が一つずつある。
マスターの手にも同じ大きさの袋が同じ数だけあり、その量だけでも買い物に掛かった時間を物語っていた。
「その分お得な買い物が出来たから、良しとしてよ」
「まあ、別にいいですけどね…」
そうやって話しながら歩いている内に、目的地の我が家へとたどり着いた。
マスターは鍵を解いて扉を開き、家の中へと入る。
「ただいまー」
マスターとテトがそのままリビングに向かうと、レンが「おかえり」と出迎えてくれた。
そしてソファーには、顔を赤くして怒っている様子のリンが座っていた。
「…リン、なんか怒ってる?」
「………」
マスターはリンに尋ねるが、返ってくるのは鋭い視線。
たじろぐマスターをよそに状況をどことなく察したテトは、レンに視線を向ける。
それに気付いたレンは誤魔化すように、目線をあさっての方向に逸らした。
「…マスター、これ冷蔵庫に入れててもらえますか?」
「ん?あぁ、了解。レン、ちょっと手伝って」
マスターがレンを呼び、二人で買ったものを冷蔵庫に入れる作業に取り掛かる。
袋を手渡したテトはソファーに近寄って、リンの隣に座りこんだ。
リンはただ黙って、僅かに赤く染まった顔を下に向けている。
そんな少女を見ながら、テトが口を開いた。
「何を何処までされたのかは、知らないし聞かないけど…嫌じゃなかったんでしょう?」
「っ!?」
見透かしたような言葉に、リンは驚いた顔をテトに向けた。
顔を向けられた彼女は、目の前の少女に微笑みながら言う。
「分かるよ。だってリンちゃん、どこか嬉しそうだもん」
「………テトさんの意地悪」
リンの顔に赤みが増すが、その表情に怒りの色は消え失せていた。
テトはテーブルに置かれた飴玉の袋を手に取り、中を探る。
そうして取り出した小袋には、紫色の飴玉が入っていた。
「リンちゃんも食べる?…オレンジ味はないみたいだけど」
「………ううん、いらない」
苦笑いを浮かべながら、リンは目線を横にずらす。
その目には、かすかに疲労の色が見えた気がした。
(…地雷っぽかったかな?)
リンの反応に疑問を持ちつつも、テトは小袋を開けて飴玉を口に放る。
途端に口内に、グレープの味と香りが広がった。
「…嫌じゃ、なかったの」
ふと、リンが静かに口を開いた。
テトは飴玉を口の中で転がしつつ、その声に耳を傾ける。
「むしろ…う、嬉しかったし、本気で怒ってる訳でもないの。ただ…」
「悔しかった…、とか?良いようにされたのが」
そう言葉を挟むテトに、リンは再び顔を向けた。
飴玉を堪能する目の前の彼女に、疑いの視線を向けながら言う。
「………テトさん、実は見てたとか言わないよね?」
「言わない言わない。でも、大体の事情は見えてきたかもね」
「リンちゃん、分かりやすいから」と付け加え、テトは笑った。
そう言われたリンは、納得のいかない表情をする。
テトが暫く考え何かを思い付いたらしく、リンの耳元に口をやった。
「じゃあさ………」
「うん…?」
テトは後ろで作業をしているマスターとレンには聞こえないように、小さな声でリンに語りかけた。
それを頷きながら聞いてたリンは、突然驚きの声を上げる。
「えぇーーっ、むぐっ…!?」
「リンちゃん、声が大きいよ」
それの叫び声を、即座にリンの口を手で押さえて阻止するテト。
リンの声を耳にしてこちらに目をやるマスター達に、テトは笑顔を向けて誤魔化した。
疑問の色を残しながらも、二人は作業を再開する。
それを確認して、リンの口から手を離した。
「ぷはっ…。テ、テトさん…それ、ホントにしなきゃダメ?」
「しなきゃダメっていうか…この位じゃないと、仕返しにならないと思うよ?」
戸惑うリンに対し、テトは当然のように答えた。
言われた少女は頭を抱え何かを想像してか、赤くなったり青くなったりと表情をころころと変化させる。
そんな様子を見ていた彼女は、また小さく笑い声を漏らした。
「もし何かあれば、私が助けに入るし大丈夫だよ。…もちろん必要なら、だけどね?」
「むぅ~………」
リンは暫く考え、そして意を決したような顔で勢いよく立ち上がった。
そのまま足を進めて、レンの背後まで歩み寄る。
マスターと作業をしていたレンが、そのの気配に気付いて後ろを振り向いた。
目の前の少女は仁王立ちでいて、表情はどこか強張っている様に見えた。
「…リン?」
「………来て」
リンは静かな声で、そう一言だけ言った。
レンはマスターに顔を向けて、何か言いたげな目をする。
「…いいよ。こっちはもう、一人で片付けられるから」
「ありがとう、マスター」
微笑みながらそう言ったマスターに、レンがお礼の言葉を返す。
レンは立ち上がって目の前のリンに言葉を掛けようとしたが、それはリンがレンの腕を掴む事で中断される。
「ちょ、リン!?そ、そんな引っ張ったら転ぶって!!」
無言のリンに力強く腕を引っ張られたながら、レンは強制的に二階へと連れていかれた。
二人の姿が見えなくなったのを確認して、テトは小さく呟く。
「まったく…、仲良すぎて妬けちゃうな」
「ん?テトさん、何か言った?」
マスターの問いにテトは「いいえ」と一言だけ返し、口に含んだ飴玉を噛み砕いてマスターの側まで歩み寄る。
作業の状況を確認しながら、テトは笑顔でマスターに尋ねた。
「それが終わったら、紅茶でも淹れましょうか?」
「…じゃあ、お願いしようかな。もう終わるから、準備してていいよ」
そう言われた彼女は食器棚からティーカップを取り出して、手際よく準備を進めていった。
【飴玉】仕返し【後日談】
こちら(http://piapro.jp/t/OXMK)の後日談になります。自重は全くしておりません←
今回はやたら長くなり過ぎたので、前バージョンから続きをお読みくださいm(_ _)m
ピクシブの方ではorizaさん(http://piapro.jp/oriza)のイラストを、表紙として使わせていただいてます(・ω・*)
良ければ、そちらの方でもごらんください♪
ピクシブver.→(http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=97874)
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