俺の名はTurndog。理系のしがない物書きだ。


世の様々な苦しみに抗いながら、一つの町の物語を描いている。





……………なんてかっこよくいってみたけど、そんなすごいもんでもない。

正確にはまぁ、『勉強が大変で死にそうなんだけどヴォカロ町の話をいろんな人に読んでもらいたいから頑張るしかないぜとほほ』っていうレベルなんだけどな。


そう、そのヴォカロ町なんだが。


物語というのは不思議だ。書いているうちに、キャラクターが自分で物語を作り始める。

自由にちょろちょろ動き回って、勝手に物語を紡いでゆく。





そう、例えば――――――――――





「やっほ、Turndog!!」





そうそう、こんな風にルカさんが遊びに来たりとか……………。





いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!!　普通それないからね!!!?


「ルカさん!! いつも言ってんだろー!! 俺が合図するまで来んなっつーの!!」

「いいじゃない、別に。それに『あの子』が『来なさいよ』って誘ってきたんだもの」

「またか……あんにゃろ今日の鰹節は抜きだ!」





一体何が起きたのか?　簡単に説明すると、俺が書き上げたヴォカロ町の世界の住人―――一般人からボーカロイドまで―――が自由自在に動き始めた結果、ある『ツンデレ少女』と『猫又』の出入りがきっかけで、俺の世界に入り込んでくるようになってしまったわけだ。


もちろん俺としては文句があるわけじゃない。むしろボーカロイドに関してはCome on Baby!　なわけだが。


問題はその先だ―――――。



「それにしても相変わらず凄まじい部屋ねー。家具の一つもないじゃない」

「しょーがないだろー……まだ家賃いっぺんも収めてないんだから……」

「うわぁ……家賃滞納!?　おまわりさんこいつでーす!」

「おまわりさんはあんただろーがっ!!!!」


『ピアプロ界のトキワ荘(予定)』と呼ばれるこのアパート『かなりあ荘』の一室、201号室―――――俺は今この部屋に住んでいるわけだが、この部屋を俺が普段ルカたちと戯れて(?)いた『Turndogの世界』と結合させた結果、ボーカロイドたちがこの部屋にも現れるようになり(特にミクとルカさんが)、いろいろと騒ぎ散らしていくようになったのだ。

その度に大家のしるるさんに笑いながら説教を喰らっているのだが、そろそろ『フルボッコだドン!!』みたいなテンションで家賃十倍とかされんじゃないかな。


「いっそ家賃十倍やられちゃえばいいじゃない。あんたしるるさんのファーストフォロワーなんでしょ?　一番『フルボッコだドン!!』を喰らいやすいんじゃない?」

「やかましい!!　つーか読むな心を!!」


特にルカさんの場合、心を読む音波術『心透視(こころみ)』があるため、やたらめったら俺の心を読んでくる。

これが厄介だ。考えていることが筒抜けだから、いろいろとおちょくられる。

こないだなんかは部屋の窓から大声で内容を叫ばれそうになって大慌てしたものだ。


「大体ルカさんさぁ、仲間の心は読まないとか言ってるくせになんで俺の心ばっかり読んでいじくろうとすんだよ……」

「あ、それなんだけど―――――」


不意にルカさんが俺の耳に顔を近づけてきた。

やばい、これは不覚にも萌え―――――





「あんた私の誕生日小説の存在すっかり忘れてたんでしょ?　あんたが初めて注目入りしたやつ」





――――――――――あ。





『ホントだったら蛸足滅砕陣叩き込んだうえで身も骨も血も魂も粉々のグッチャグチャの滅茶苦茶になるまで潰してやりたいところなんだけどね……!!!!』

「ひいいいいいいいいいいいいい…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」



そうだ。すっかり忘れていた。このかなりあ荘の前身コラボ「とにかく皆で小説書こう！」時に書いたルカさんの誕生日小説―――――リニューアル時にバックアップもとらないまま、しるるさんに『消してもOKサイン』を出してしまったのだ。

もちろんそれは3周年の時の奴だから、とっておく理由なんてほぼない―――――唯一つ、あれがこのTurndog初の注目の作品であることを除いては。


「つ……次の誕生日、必ず良いの書くから!!　注目入りして見せるから!!」

「本気ね!!!?」

「はい本気ですううううううう!!!!」


必死で謝ると、ルカさんはパッと手を放してくれた―――――代わりに股間に強烈な蹴りが打ち込まれたが。


「アッ―――――――――――――――――――――――――!!!!」

「その言葉忘れたら承知しないわよ!!!　ついでに注目入りもできなかったら本気でぶっ殺す!!!」


そう言い残して、ルカさんはパソコンの向こう―――――ヴォカロ町の世界へと帰っていった。

股間を抑えて悶絶したままの俺が取り残された。



――――――――――が。





「ほんっと馬鹿ねー、Turndogも。ルカさんも結構ツンデレっぽいけど♪」

「……お前が……いうなよ……どっぐちゃん」





パソコンの影から現れた、犬耳少女―――――つんでれ☆どっぐちゃんは、まるでからかうように嗤った。