注意:オリジナルのマスターが出張っています。
カイメイ風味です。
以上に不快感を感じられる方は閲覧を避けて下さいませ。
「あーっ、やっぱりっ」
「歌ってたのミク姉とルカ姉かー」
「あ、リンっ、レンっ」
私、ルカの視界からメイコの姿がなくなった頃。逆方向から少年少女の声がした。
振り返って見れば、飛びついてくるリンをミクが受け止め、レンが傍に駆け寄ってくる。
「良かった良かった。ったく、リン、お前突っ走りすぎ」
「にゃはは、ごめんごめんーっ。って、あれ? メイ姉とマスターは?」
ミクの腕の中できょろきょろし始めたリンに簡潔に答える。
「マスターは急用だそうだ」
「お姉ちゃんはお家に戻りましたよ」
「えーっ?」
「んじゃ、お開きかよ?」
「いえいえっ、まだまだ回ってませんからねっ」
不満そうなリンとレンに力説するミク。まあ、私も同感だが。
「そうだな」
「後は皆で回ろうか」
にっこりと笑ったカイトの言葉に、三人が快哉を上げた。
「…しかし、良かったのか?」
嬉しそうに露店を冷やかして回っている弟妹を見ながら、私は斜め後ろを歩くカイトにそう声をかける。
「何が?」
「メイコにマスターを任せて」
「あ、気付いてたの?」
「何となく、だが」
多分、エアコンの話は嘘なのだろう。下手なことを言えば浮かれているミクに水を挿す、と思った上での嘘。
「ミクに甘いな」
「それは当然。大事な妹分だからね。ルカちゃんにも気付かれずにいたかったけどなあ」
「聡くて悪かったな」
「こっちが悪いんだよ。ルカちゃんが謝ることじゃないって」
「そうか」
三人の嬉しそうにはしゃぐ声が聞こえる。流石VOCALOID、声の通りが半端じゃない。
「…MEIKOさんの方が、今のマスターには必要だからね」
ぽつりと呟かれた言葉も、喧騒を越えてはっきりと届いてくる。
「やはり、マスターの様子、おかしかったのか」
「うん。あの人意地っ張りだから、はっきり言おうとしないけどね」
困った人だよねえ、などとぼやくカイト。
「…悔しくはないのか?」
「え?」
「マスターの役に立てなくて」
「ルカちゃんは悔しいんだね」
「当たり前だ」
「僕は…んー、色々と複雑だなあ…」
私の主張に、困ったような返答。様子を見てみれば本気で困った顔をしている。
「複雑?」
「えーっと、まあ、言っちゃうと。僕はMEIKOさんを好きなんだよね」
「…まあ、そうだろうな」
「でも、MEIKOさんとマスターを比べたらマスターを取るに決まってるんだ。それはきっとMEIKOさんも一緒」
「…ああ」
「僕らがマスターのVOCALOIDである以上、それが当然のことだからさ。だから、…現状、悔しくないわけじゃないけど、それは果たしてどっちに対する悔しさなのか、ちょっと分からないんだよね…」
マスターに、自分よりメイコの方が何かしてあげられることか。メイコが、自分よりマスターの方を優先させたことか。
多分、その二択のことをカイトは言っているのだろう。
露店めぐりの三人から目を離さないようにしながら、カイトの言葉に耳を傾ける。
「僕らの感情は擬似的なもの、っていう話は聞いたことある?」
「ああ」
どういう時にどういう反応を返す。どこかどう連動している。どういったものが何を刺激する。…そういうものをひたすらに積み重ねた、繊細にして複雑な電子の回路。
「『わたしがそういったものを作ろうと思ったなら、その理由は自分を知る為だろうね』ってマスターが言ってたことがあるんだ」
「自分を、知る?」
「ヒトは、何かを通さない限り、自分を知ることが出来ないから。自分の思う『恋心』の回路を積み込んだ機械を見て、やっと自分の恋と向き合うことが出来ることもあるだろう、って」
「…また、難解なことを考える」
「だから、…ヒトは本当に残酷だ、って」
「残酷か」
「本来の恋っていうのは、種の保存の本能が導く脳内麻薬、らしいけど。僕らにはそれとは違う、『マスターを最優先』っていう基本回路があるわけで。だから、それと感情の板挟みにさせてしまうこともあるだろうに、って」
「…考え過ぎだろう」
いつも穏やかに、言葉少なく語るイメージが強かったマスターだが、意外とそうでもないらしい。
…というか、考え始めると言葉が走るタイプなのだろうか。
「まあね。そう語られちゃった時に、僕は感情があって幸せですよ、って言ったら嬉しそうに笑ってた」
「なるほど」
「MEIKOさんを想って幸せになれるのも、マスターが僕らの感情を当たり前に認めてくれているからだしね」
「…のろけか? それは」
「え? のろけ?」
…自覚なしか。なんて性質の悪い。
マスターに一番似ているのはカイトよ、と忠告してくれたメイコの言葉が蘇る。
男同士で何か通じ合う部分でもあるのだろうか。
「ねえねえーっ、わたあめ食べるーっ?」
「ルカ姉もこっち来いよーっ」
「お兄ちゃんも食べましょーっ」
思考を断ち切るような呼び声に目をやると、屋台の前からリン、レン、ミクが嬉しそうに手招いている。
「わたあめ…?」
「あ、そっか。ルカちゃんは食べたことないよね。…難しい話はこれくらいにして、食べにいこっか」
「だが…」
「楽しまないと勿体無いよ。せっかくの感情なんだから、楽しいことも詰め込まなきゃ。ね?」
「…そうだな」
とん、と背中を押されるままに、私はリンの元へと走り出していた。
そう、折角の感情とこの身体。楽しいものをありったけ詰め込めば、落ち込んだマスターにも何かが返せるかもしれない。
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