「・・・めぐさん?」
ユキちゃんが震えながら、そう口を開いた。
その声は時間の止まった空間にぼんやりと響き、しかし、はっきりと聞こえた。ユキちゃんが不安そうに服の裾にしがみついてくる。
残響がゆっくりと響き渡った後、相手はにんまりと、先程と幾分も変わらぬ笑みで笑いかけてきた。元気そうな暖かい笑みのはずなのに、どこか狂気を感じる。彼女はかけていた眼鏡を片手で額まで持ち上げ、ゆっくりと、口を開いた。
「そうよ。正確にはグミだけど」
「なん・・・」
何か言いかけようとユキちゃんが声を上げる。しかし、その声はすぐに止まった。
恐怖で声が出なくなったのだろうか。ユキちゃんはひゅう、と声にならない息を漏らすと、ふらふらと俺の足元に倒れこんでしまった。
「ユキちゃん!」
「あはは、気絶しちゃった?かわいいねェ!」
眼前の女はそう笑うと、一歩、こちらに歩み寄ってきた。
「・・・来るな」
反射的に声が漏れる。何故だかわからないが、とにかくアイツは敵だ。そんな気がした。
「なんで?」
「・・・」
問いかけにあえて返事はせず、ゆっくりと一歩後ずさりをする。眼前の女に特に目立った動きはなく、じっと俺をみつめていた。その女に目を向けたまま、そっとしゃがみこんでユキちゃんを抱きかかえる。
「大丈夫よ、邪魔なんてしないから」
「・・・黙れ」
「おお、怖い怖い!」
女は相変わらずケラケラと笑っていた。何がそんなにおかしいのか、俺には理解に苦しむ。
女に警戒の意識を向けたまま、ユキちゃんをそっとみやる。彼女は女の言った通り、気絶しているだけのようであった。ひゅう、なんて声を漏らすから、ショックで死んだりでもしていないかと心配だったのだ。自分でも行き過ぎた心配ではないかと思っているが、何分この状況だ。有り得なくはないだろう。ホッ、と息をつき、また女の方に向き直る。
「ホラ、何もしなかったでしょ?」
そう言って女はくるくると回った。まるで魔法によって美しいドレスを手に入れた時のシンデレラのように・・・。その顔は、子供のような印象深い笑みだった。
「・・・」
「それで、何も聞かないの?」
「何をだ」
「この状況とか?」
この状況。確かにいい状況ではない。それだけはなんとなく、ぼんやりとわかっていた。俺自身、これから何が起こるかわからない恐怖に、膝が静かに震えているのだからだ。動物の体というのは、恐怖に対しては実に素直に出来ているように思う。本能的な感情なのだろうか、きっとそうであろう。
ユキちゃんこ細い体を強く抱きしめ、中腰のまま、また一歩後ろに下がった。
「じゃあ聞くぞ。なんだこの状況は。お前はなんなんだ?」
「なんなんだ、はひどくない?アタシね、一応人間なのよ?む。・・・あれ、でも違うかな・・・?」
女は自分の発言に自分で疑問符を打ち出し、顎に手を当てて考えこみだした。あーでもない、こーでもない、とブツブツ呟きながら、またくるくると回る。相変わらず少女のような動きに、何故か頭がふらつく感覚を覚えた。
「まあいいや。で、この状況は、アタシのマジック」
「・・・はァ?」
「アタシの指パッチンで、今この病院の中は時間が止まった状態なのよん。アタシとアンタ達だけ動いてる。ゆーあんだーすたん?」
にわかには信じがたい話だ。しかし、今現在、確かに辺りは真っ青になって時間が止まっているように思える。ここは大人しく、信じるしかないだろう。俺は黙って、首を縦に振った。
「よーし、物分りのいい子ね。お姉さんそういう子好きよー。・・・まあ、冗談はこのへんで」
女は両の手をぱん、と打ち合わせると、今までとは違う、どこか狂気を感じる暗い瞳で、ゆっくりと微笑んだ。
「ねえ、レン君」
「・・・なんだ」
「とりあえずさ」
「死んでみようよ」
体中に、嫌な鳥肌が走っていった、そんな気がした。
--続く--
鬼さん此方、手の鳴る方へ。 -壱拾弐-
だらだらと続きます。
お久しぶりです。明けましておめでとう御座います。遅いけど。
のんびりやっていきますんで、今年もぼんやり見てやってくださいませ。
コメント1
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ご意見・ご感想
たぴおか。
ご意見・ご感想
怖いGUMIも好きだ!!
構わん!!!ww
AKIRAさんの文才能力は、スゴイ・・・
ブクマさせていただきました!
2011/03/28 18:53:31
AKIRA@更新停止
>>写楽屋さん
ブクマ、メッセージ有難う御座います!
ウチのグミさんは基本こんなヘラヘラした感じです。(笑)
なるべくカッコカワイイ悪役にできたらいいなー、と思ってます。
だらだら続きますが、付き合っていただけたら幸いです。orz。
自分に文才なんてありませんよorz。でも褒めていただいて有難う御座います。励みになります!
ブクマもメッセも本当に有難う御座いました!
では長文失礼しました。
2011/03/29 00:03:51