ひとりぼっちの天使 イラスト・著者 菊池 真咲
「言葉には不思議な力があるんだよ。心に響く言葉で未来さえ変えられる」
プロローグ 夢の中で
いつも同じ夢を見ていた。知らない大きな屋敷。西洋風の贅沢な家具や美術品の数々から、そこがどこかのお金持ちが建てたであろう洋館であることはわかる。でも、誰もいない。人の気配はないのに、ちゃんと掃除もされていて、生活の痕跡はあるのに。たった一人でいつもその洋館から夢は始まる。
もう何回目だろうか。何故こんな夢を見るのだろうか。夢?本当に夢なんだろうか。でも、なんとなくこれは夢なんだって心のどこかが感じている。
屋敷の中を彷徨いながら、人を探してみても呼びかけても返事も返ってこない。
中庭にでると、女神だろうか。とても美しい彫像があって、そこから何か不思議な力があふれているのがわかるけど、何がどうなっているのかはわからない。いつもこの中庭で、この女神の彫像を眺めながら思うのだ。
「あたしの名前は・・・思い出せない。でも何も考えたくもない。思い出してはいけないんだ」
女神はいつもと変わらず、少女に癒しを与えてくれる。ここにいれば大丈夫。何故かそんな気がするのだ。とても暖かな不思議な優しさのようなものを感じる。いつまでもここにいたい。そう思った瞬間。
突然、世界は真っ暗になった。またアレが来る。逃げないと。
少女は真っ暗な闇の中を、どこにでもなく走りだした。右も左もない後ろも前もない真っ暗な闇の中で、ただただ前に走り続ける。
「はあはあ・・・逃げないと・・・」
全速力で走り続けるどこまでも。追ってくるようなモノの気配はないけど、少女は逃げ続ける。アレに捕まったら最後もうあたしは人間ではなくなってしまう。
「嫌だ!あたしはまだ生きていたいよ。はあっはあ・・・」
転びそうになりながら、息を切らしてもまだ、全力で逃げ続ける。アレとは何だろうか。何も追ってくる気配などないが、少女は走ることをやめない。
「きゃあーーーーー」
突然少女の身体が、暗闇の中で落ちていく。そもそも地面のようなものはあったのかさえわからない。でも今はものすごい勢いで落下している。少女の髪も衣服も乱れ、手足をバタつかせても何もない。どこまでも落ちていく。
「誰か助けてーーーー」
恐怖?え?恐い?なんで?死んじゃうから?
暗闇の中落下し続ける少女は、気が付いた。これは夢なんだ・・・・
「そっか夢・・・なんだよね・・・きっとそう」
そして意識がプツンと途切れた。目が覚めたわけでもなく、ただ夢が終わったのだ。
そう、少女はちゃんとベッドで寝ていた。酷い寝汗だ。呼吸も荒い。でも寝ているだけだった。いつもの夢は終わった。今は夢は見ていない。まだ起きるには早すぎる時間。まだしばらくは睡眠は続くだろう。
少女の名前は、間宮桜(マミヤサクラ)17歳、高校2年生。でも、学校へは行ってなかった。部屋に閉じこもって生活していた。家族の誰とも会わないようにしていた。もうかなりこんな生活を続けている。
高校へ行ったのはわずか1週間。すぐに行かなくなってしまった。幼馴染が心配して迎えにきても部屋には入れなかった。もう、何もかも嫌だ。でも死にたいとも思わない。
その日、学校へ行かなくなった日、彼女の人生が終わったのだ。何があったのだろう。
時間はその日までさかのぼる。そう、あの日あった出来事まで。
荒かった少女の呼吸は落ち着きを取り戻し、今は静かに眠っている。では、時間をさかのぼってあの日まで飛んでみよう。あの悲惨な出来事まで。桜がひきこもりになったきっかけを知るために・・・
プロローグ 夢の中で完 続く
ひとりぼっちの天使 #1 夢の中で
ひとりぼっちの天使 あらすじ
高校2年生の真宮桜は、生まれつきの脳の発達障害で感受性が強く、感情表現がうまくできない精神障害からコミュニケーションが苦手で、極度の人間不信になり不安性障害やうつ病になってしまい、高校入学からわずか1週間で登校拒否、家族ともほとんど関わらずに部屋に引きこもる生活を続けていた。
何のために生きているのか、なぜこんなにも苦しまなければいけないのか。体調も悪く気持ちも沈んだまま、ほとんど寝たきりの生活を続けていた。何も楽しみを見つけることもできず、ただ彼女を救うことができたのは、パソコンで検索すればたくさん出てくる同じような苦しみを持つ精神病の人のブログだとか、精神病や心理学や宗教などを詳しく解説しているようなサイトで共感できる言葉を見つけることだった。そこには、たぶんこのような病気になってさえいなければ深く考えることもなかった哲学のような暖かい言葉がたくさんあったのだ。
桜は思う、もし神様なんてものが本当にいたとしたら何故このような残酷な世界を作ってしまったのだろう?いや、作った世界は本当は素晴らしい楽園だったのかも知れないけど、人間が愚かにも堕落してしまっただけなのかもしれない。もしかしたら本当はもう神様は悪魔にとっくに滅ぼされてしまったのかもしれない。
何故、あたしは病気になってしまったのか。夢も希望もない未来など考えたくもなかったし、だからといって命を粗末にする気持ちも今はほとんどなくなっていた。だって世界にはもっと幼くして命をなくしてしまう子供もいるのだから。自分のような精神病の人もたくさんいて、苦しみながらも生きている。
孤独の寂しさよりも、他人に関わることが怖かった。そのうち彼女は自分はもう1年も言葉を話していなかったことに気が付いて、「誰かあたしを助けてください」と話そうとしたけど、言葉は出てこなかった。失語症になってしまっていたのだ。そしてもう一つ気が付いた。最近は泣くことも笑うこともなくなっていたことに。
ただ、涙だけは溢れてくるのだ。何故だろうか?特に悲しいとも思っていないのに。
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