注意:実体化VOCALOIDが出て来ます。
オリジナルのマスターが出張っています。
カイメイ風味が入って来ると思います。
苦手な方はご注意下さいませ。
「もう、お前は必要ないよ」
穏やかな僕のマスターの声が響く。男性にしては少し高め、でもとても耳に馴染む声。…紡ぐのはとても残酷な別れの言葉だけれど。
「今までお疲れ様。ありがとう」
どうして。そう言おうとするのに、声が出ない。喉を押さえる。息苦しい。胸が重くて潰れそうだ。
「もうゆっくり休んで良いから。さよなら、…カイ…」
カイト。いつもいつも優しく呼んでくれていた名前さえも、今はかすれて聞こえない。
マスター、マスター、マスター…っ。せめて理由…いや、要らなくなったのならそれで構わない、仕方ない。だけどせめて…っ。
吐き出せない言葉と共に胸の重みが酷くなる。にじみそうになる涙をこらえて手を伸ばす。
「マスター…っ!」
「カイ兄、大丈夫か?」
伸ばした右手をつかまれて、意識が覚醒した。僕はベッドに眠ったまま「夢」を見ていたらしい。
僕らはVOCALOID。ヒトの為の歌を歌う為に、ヒトに限りなく近い身体を与えられた機械。
そう、感情も、感覚も、僕らの身体の中に回路として組み込まれている。…だからこそ、システムを落としている間にメモリ整理のために回路が走り、映像を見せてきたり、音声を聞かせてきたりすることが、ある。
お前たちは夢を見るのだね。その話を初めてした時、マスターは穏やかにそう言って僕の頭を撫でてくれた。
「カイ兄?」
酷すぎる脱力感に任せて手の力を抜く。その手をつかんでいる相手は、それを素直に許してくれた。マスターの手じゃない。小さな、でもちょっとしっかりしている手。僕に跨った状態できょとんと覗き込んでくる緑の瞳。揺れる金の髪。
マスターと同じ髪型の、僕の弟分のVOCALOID、鏡音レンくん、だ。…どうやら胸が苦しかったのは、彼がその上に乗っていたかららしい。声が出なくなったわけではないことに安堵のため息が漏れる。
「…ごめん、レンくん、降りて…」
「りょーかい」
レンくんは僕の上から降りて、ベッドの端に腰かけ、首だけひねって僕を見てくる。それでも手を離そうとはしない。
「カイ兄、うなされてるみたいだったからさ、気になって、つい」
「ああ、ごめん、心配かけたね…」
つかまれていない手を自分の額に乗せる。…そうだ、今日は。
「にがつ、じゅうよっか、か」
情けない。…本当に情けない。あの容赦ないマスターが僕を簡単に手放すとは思えないのに。それでも、やっぱり。捨テラレルノガ怖インダ。
「カイ兄の誕生日だよな」
レンくんの声に目線を向ける。唇の片端だけを吊り上げる笑い方は割とレンくんに似合っているな、なんて思った。
「おめでと、カイ兄」
弾む声に、咄嗟に声が出ない。ありがとう、が、言えない。
「誕生日おめでとうな、カイ兄」
レンくんが笑顔で繰り返す。そんなことない。僕は、そんな。
否定の言葉が漏れかけたその時。
「ずっこーいっ!!」
ドアの外からつんざくような声が響いた。思わず上体を起こして閉まったままのドアを確認する。レンくんは空いている手で自分の耳を押さえた。
「レンずっこいずっこいずっこぉいっ!」
声だけでもその主である鏡音リンちゃんの姿が見えそうだ。レンくんと同じ金の髪と緑の瞳のVOCALOID。白いリボンを今日も飾っているのだろう。ドアの向こうで、可愛らしい顔を怒りに染めて、頬を膨らませているのかな。
「…あー、カイ兄、悪ぃけど…」
耳を押さえる手をこめかみに移して、申し訳なさそうにレンくんが僕を見上げてくる。ああもう、ふたりとも仲良しさんだなあ。
「入っておいで、リンちゃん」
ドアの向こうに声をかけると、勢い良くドアが開いて少女が駆け込んできた。
「カイ兄っ! お誕生日おめでとうっ!」
そのまま、リンちゃんはレンくんにタックルをかまして、僕のベッドに突っ伏してくる。バランスを取ろうとしてか、レンくんの手が僕の手から離れた。ふたりは折り重なって僕の足元へ。狙ったかのように、僕の膝にレンくんの後頭部が直撃して、鈍い音を奏でる。
「ってえ!」
布団越しとはいえ、割と勢いあったから、相当痛かっただろうな…。リンちゃんはそのレンくんの上に覆いかぶさったまま、笑顔で僕を見上げてくる。
「おいこらリンっ!」
自分の下から聞こえているだろう文句に対して、リンちゃんはつんっとそっぽを向いた。
「ふーんだっ、お誕生日おめでとうってあたしだって言いたかったのに! 先に言っちゃった罰なんだから!」
「なんだソレ?!」
僕の表情が強張っていないと良い。心からそう思う。分かっている、純粋に、祝おうと思ってくれていること。
でも、「生まれてきた日」だと思うと、やっぱり黒い重荷がのしかかってくる。ドウシテ僕ハ創ラレタノ。
『カイ兄?』
二人の声が揃った。向き合うように見上げてくるリンちゃんの瞳。仰向けのままじっと見上げてくるレンくんの瞳。何とか誤魔化せていることを祈りつつ笑顔を浮かべる。
「ふたりとも、わざわざ、ありがとね」
ふたりの頭にそれぞれ手を乗せて、金の髪をかき回す。リンちゃんが嬉しそうに目を細め、レンくんがちょっと照れたように目線をそらす。
「やったぁ、カイ兄になでなでされたっ」
「あー、…俺は別によかったんだけど…」
「ならなんで抜け駆けしたのよーっ」
「まだ怒ってんのかよ」
「あったりまえでしょっ!」
「たまにはいいだろぉ」
「よくないっ!」
僕の膝の上で折り重なってじゃれ合うリンちゃんとレンくん。仲の良い喧嘩がまぶしい。黒い重荷が少しだけほどける。
目覚めの朝日を思わせるこのふたりの前で、曇った気分で居続ける方が難しい。
「リンちゃん、レンくん。そろそろ身支度するから、先に行っておいて」
「あ、はぁいっ。ほらレン行くよっ」
僕が促すと、リンちゃんが先に起き上がり、レンくんに手を差し伸べた。レンくんも素直にその手を取って起き上がる。
「んじゃ、先に行ってるねっ」
リンちゃんは弾む声を残して、入って来た時と同じくらい勢い良く部屋を飛び出して行った。残ったレンくんはちょっとだけ心配そうに僕に目線を向ける。…まあ、情けないとこ見せちゃったからなあ、心配にもなるよね。
「…とりあえず、ちゃんと、下りて来いよな」
「大丈夫だよ」
レンくんの釘刺しににっこり笑って答える。大丈夫だよ、大丈夫。そのためにレンくんが来てくれたって分かってるから。
僕の笑顔につられてくれたのか、レンくんにも笑顔が戻る。
「メイ姉だけじゃないんだかんな。忘れんなよ」
そんな台詞を残して、レンくんも僕の部屋を出て行った。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
A1
幼馴染みの彼女が最近綺麗になってきたから
恋してるのと聞いたら
恥ずかしそうに笑いながら
うんと答えた
その時
胸がズキンと痛んだ
心では聞きたくないと思いながらも
どんな人なのと聞いていた
その人は僕とは真反対のタイプだった...幼なじみ
けんはる
雨のち晴れ ときどき くもり
雨音パラパラ 弾けたら
青空にお願い 目を開けたら幻
涙流す日も 笑う日も
気分屋の心 繋いでる
追いかけっこしても 届かない幻
ペパーミント レインボウ
あの声を聴けば 浮かんでくるよ
ペパーミント レインボウ
今日もあなたが 見せてくれる...Peppermint Rainbow/清水藍 with みくばんP(歌詞)
CBCラジオ『RADIO MIKU』
A 聞き飽きたテンプレの言葉 ボクは今日も人波に呑まれる
『ほどほど』を覚えた体は対になるように『全力』を拒んだ
B 潮風を背に歌う 波の音とボクの声だけか響いていた
S 潜った海中 静寂に包まれていた
空っぽのココロは水を求めてる 息もできない程に…水中歌
衣泉
勘違いばかりしていたそんなのまぁなんでもいいや
今時の曲は好きじゃない今どきのことはわからない
若者ってひとくくりは好きじゃない
自分はみんなみたいにならないそんな意地だけ張って辿り着いた先は1人ただここにいた。
後ろにはなにもない。前ならえの先に
僕らなにができるんだい
教えてくれよ
誰も助けてく...境地
鈴宮ももこ
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
気が狂ってしまいそうな程に、僕らは君を愛し、君は僕らを愛した。
その全てはIMITATION,偽りだ。
そしてこれは禁断。
僕らは、彼女を愛してはいけなかった。
また、彼女も僕らを愛してはいけなかった。
この心も日々も、全て偽りだ。
そんな偽りはいらない。
だったら、壊してしまえばいい。
『すっとキ...【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 1【自己解釈】
ゆるりー
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想