夜空に浮かぶ月が、淡い光で静かな街を照らしていた。
今いる廃ビルの屋上も、月明かりで照らされている。
そこで僕は、右手に包丁を持ったリンと対峙していた。

今のリンは、ウィルスに侵されている。
普段から整えられた髪は少しボサボサで、服装も乱れて汚れていた。
リンはユラユラとした動きで、クスクスと時折笑い声を漏らす。


「リン、そんな物騒なもの捨てなよ」


包丁には血がついていて、黒く滲んでいた。
あれは僕の血、ここに来るまでに僕は数ヵ所切られ、僅かだが傷口から血が出ている。


「物騒ぉ?普段料理しる時に使ってるじゃない」


ケタケタと笑いながら、常にユラユラと身体を動かしている。


「じゃあ持ったままでいいからさ、もう降りよう?マスター達も待ってるし、リンの怪我の手当てもしないと」


「何言ってんの、怪我させたのはレンでしょ?」


リンの身体にも僕より少ないが、僕が付けた擦り傷があちらこちらにある。
ホントなら、できるだけ怪我なんてさせたくなかった。

しかしリンは加減無く、こちらに危害を加えてくる。
力なら僕の方が勝っているけどウィルスのせいなのか、今のリンの身体能力は並みではない。
そんな相手を無抵抗で抑えるなんて、到底無理な話だ。


「それに、私はレンがいてくれれば十分だよぉ?マスター達なんてど~でもいいもん♪」


そんな棒読みで言われたって嬉しくないよ、棒読みじゃなくてもあんまり嬉しくないけどね…。


「そう、なら僕の側に来なよ」

「アハハハ、誘ってんの?…いいよっ♪」


そう言った瞬間、リンは僕の鳩尾を力一杯殴り付けた。


「かはっ…!?」


僕はそのまま後ろに倒れ、リンに馬乗りにされ押し倒された体制になった。


「…り…リンってば、だいた…ーーっ!!?」


苦し紛れにふざけた瞬間、太股に激痛がはしった。
あまりの痛みに言葉にならない叫びをあげる僕に、リンが顔を近づけてきた。


「照れ隠しして、嬉しいくせにぃ♪」

「っ…足刺されて……喜ぶ人はいないよっ………」


太股から包丁が抜かれる感触がしたが、激痛で感覚が麻痺してよく分からなかった。
包丁から滴り落ちる僕の血をリンは舌で受け止め、口をモゴモゴさせて味わっている。


「あは♪レンの血、と~っても美味しいよ」

「…何があるか分からないんだから、あんま飲んじゃダメだよ」

「レンも欲しいのぉ?」

「いらない…、刃先向けないで」


「つれないなぁ」と顔を離し、リンは舌で直接刃に付いた血を舐めとった。


「ねぁ…、リン」

「なぁに?レン」


血を舐めるのをやめ、僕を見下ろすリン。
口からは僕の血が流れ、月明かりに照らされた白い肌によく映えた。


「僕の事、好き?」


リンはきょとんとした顔の後、にんまりと口だけで笑みを浮かべた。


「うん、好きだよぉ♪レンは私のコト好き?」


顔を近づけてきた彼女の瞳は暗く、僕の顔を写し出している。


「うん…好きだよ」


この言葉に嘘偽りはない。


ウィルスに侵されていようと、リンはリンだ。

僕はリンの髪に触れながら言った。


「じゃあさ…、一緒に壊れちゃおうか」


今の僕に、リンを助ける術はない。

彼女がこれ以上傷つくのが嫌なんじゃない、彼女がこの事で悲しむのが嫌なんだ。






日常を取り戻せないなら


リンは僕が壊したいし
僕はリンに壊されたい


そうして終われたのなら
これからも一緒でしょ?






そんな僕のエゴを包丁を投げ捨て、狂った彼女は笑って応えた。






僕の首にリンの手が
リンの首に僕の手が






お互いに見つめあい、最後の言葉を交わす。



「…またね、レン」


「うん…またね」










  ―月夜を背景に
   少女と少年は笑った―











(キミと一緒ナら、闇ニ堕ちルノも悪クなイ)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

月夜に狂気と血を

リンレンでヤンデリン。
表現に血とかありますけど、別にワンクッションとか要らないですよね?(・ω・;)

病んだ理由に悩んで、結局ウィルスにしましたが…まあ細かい所は触れないでくださいm(_ _)m

閲覧数:351

投稿日:2010/08/15 19:37:17

文字数:1,643文字

カテゴリ:小説

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