[第8話]~日和
 季節は過ぎて、少しずつ蝉が鳴き始めていた。
鏡屋に来てもう2カ月になるだろうか。
 結局、奉公することとなった私は、鏡屋の店先を掃除していた。

 空は少し雲はあるが、綺麗に晴れていた。
だいぶ強くなった日差しが、私の肌をさす。

 「ふう…。」
と汗をぬぐって、また始める。

 そんなことを繰り返していたら、めい子さんが話しかけてきた。
 「疲れたでしょう。丁度今からみくさんの所へ反物を持って行くんです。いきませんか。」

 「え…、でもまだ終わってませんし…。」
私の言葉を遮って、めい子さんが続ける。

 「…あの日から、若旦那と話されてませんよね…。」

 その通りだ。
あの日以来、私と連はちゃんと面と向かって話していない。

 黙り込む私を見て、めい子さんは優しく微笑む。

 「若旦那は、心配しております。”私があんな話をしたから”、と。」

 今一緒に行けば、連と前のように話せるようになるのだろうか。
連とは話したいけれど、どんな顔を見せればいいのか分からない。

 「行きませんか…?」

優しくめい子さんが問う。

 程なくして、店から連が出てきた。
 「おや、終わったのかい?じゃあ、りんも行くかい?」
 「行きましょう。りんさん。」
2人に言われたら行くしかない。

 俯いて、2人の後を歩き始めた。


    *    *    *    *    *    *    *    *

 あの日、連は話し終えた後少し息を切らしていた。

 私は涙を流しているのに、連は涙一つ浮かべてさえいない。
ただ、憎しみを込めた瞳で、畳を睨みつけていた。

 「連は…、悲しく…ないの…?」

 そう訊くと、驚いた様子を一寸見せて

 「悲しんで、何か変わるのかい。」

と、冷たく言った。

 一瞬私を睨んだ連の瞳。
私は、動けず、何も言えなかった。

 連は、すぐにいつもに笑顔に戻った。
 「長くなったね。もうすぐ昼餉だよ。」

 連は笑っているのに、私の瞳にはさっき睨んだ連の眼が、焼き付いていた。


    *    *    *    *    *    *    *    *


 ぼうっと歩いていると、初音家に着いていた。
門の前で、みくさんが待っていた。

 ”ああ、この人は本当に連が好きなんだな…。”
みくさんの笑顔を見て、思った。

 みくさんの案内で、客間へ通された。

 「あら、鏡屋さん。こんにちは。」
なんだか聞き覚えのある声が聞こえた。

 巡屋さんだ。もちろんかいとさんもいる。

 「ああ、巡屋さん。届物ですか?」
 「はい。こちらのお嬢さんに頼まれていた、簪を。」

 風呂敷から取り出した簪は、とても綺麗な緑色で見入ってしまった。

 「私どもは用は済みましたので、お暇しましょうか。」
 そうかいとさんに言った巡屋さんの目が、いつもより優しかった。
 
 2人が出てすぐに
 「りんさん、みくさんが若旦那と二人でお話ししたいそうです。少し出ましょうか。」
めい子さんが言った。

 私は、その言葉に疑問を持ちながら、めい子さんと一緒に部屋を出た。



 みくさんは鏡屋の常連だから、仕方ないんだ、と言い聞かせながら。





 心の奥が感じた、悪い予感を見ないふりにした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

緋色花簪

今回はあまり内容がありません。
次ぐらいかな?
りん、連、みく、めい子の3人が動き出します。(多分

また、2話に分けることになるかな~?

THE・ノープラン です★

閲覧数:161

投稿日:2012/03/20 08:45:40

文字数:1,384文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    ノープランって大事w
    フィーリングって大事ww

    みんなが幸せな世界になるんだろうか?
    リンちゃんは元の世界にもどれるんだろうか?

    ↓いやいやw勉強はしましょwwww

    2012/03/21 08:11:03

    • イズミ草

      イズミ草

      私のモットーは、「計画なし計画」なのでwww
      ここぞというときは、ちゃんと計画していきますよwww

      リンちゃん、元の世界に戻れなかったら、「てーへんだぁ」(大変だぁ)www
      少しの犠牲はありますが、ほとんどがハッピーエンドにするつもりですwww

      ノープランなので、また変わるかもですが。

      勉強は…しるるさんに言われたらやるしかないですな…。
      頑張ってみます…。

      2012/03/21 17:45:39

オススメ作品

クリップボードにコピーしました