書庫に着くと、扉は当然のように施錠されていた。
「今開けます」
ノックして名乗ると、特に渋るでもなく鍵が開けられ入室を促された。他人に聞かれないほうがいい話であることは、十分理解しているらしい。
「分かっているとは思いますが、今朝の悪戯の件に関してです」
人三人を数時間前に殺したにも関わらず、目の前の幼い少年は天使のような容姿に似つかわしくない嗤いを浮かべた。
「騒ぎを起こしてしまったこと、お詫び申し上げます」
一瞬前の不穏な表情を一切消して謝罪しながらも、まだ飽き足らないのか金色の瞳には憎悪が伺えた。殺害自体を悪いと思っていないことは明らかだ。
「別に説教する気はありませんよ。ただ単純に、今後同じようなことをするなら一言知らせておいてほしいだけです」
「はい、今後はお約束します。今回はあまりにもお恥ずかしくて、ご報告できませんでした」
素直に頭を下げられる。
「もちろん、今言ったことは貴方が快楽殺人者ではないことを前提としたものです。取るに足りない理由で、紅蓮の鉄槌構成員の命を脅かすことは許しません」
正直な話をしてしまえば、今王都に残っている構成員で今後国のために使える人材など皆無な以上、畑を耕そうとしない元農民など減ってくれて問題ない。が、そんな本音を伝える気にはならなかった。
馬鹿でも組織として不必要でも、仲間が死んでしまえばイルは悲しむ。紅髪の少年の、苦しむ姿を見たくないのだ。
「もちろんです。貴方に許されても、イルが許してくれそうにないですし」
頬を書きながらこう言われ、苛々と息をついた。絶対に認めたくない事実ではあるが、この少年と己の考え方はかなり近いものがある。
「ですから、これから少しずつ連絡経路を整えていきませんか? 必要のない情報は貴方で留めておけばいい。イルに全てを知らせる必要はどこにもないのですから」
こう言われ、ようやくこの少年に半ば以上操られてここに来ていることに気がついた。今朝イルの部屋にいなかったことも、ディーと二人で話す機会を持ちたかったからなのだろう。
「またイルを謀るのですか?」
眉をひそめる。革命のためとはいえ、親友に騙されて――いや、その真意を見抜けなくて彼が密かに己を責めていることを、今目の前にいる金髪の少年が気づいていないはずはないからだ。
その上で、またイルを蚊帳の外に置くつもりなのか。そういった非難を込めたが、悪ノ召使の表情は穏やかな笑みから崩れない。
「まさか。イルにはもう嘘をつかないと決めているんです。けれど、それは知っていること全部を話さなければいけないわけじゃない」
イルは優しく、あれだけの欺瞞を見続けていてもまだ世界を綺麗と思える人間だ。その彼に余計な負担をかけないために、汚れ仕事など存在すら認識させないに越したことはない。
ディーもレンも、イルのためにしていることではない。ただのエゴだ。あの紅髪の少年がそれを望まないことなど、百も承知の上でなお隠そうとしているのだから。
「昨日のような突発的な事故を以外にも、まだ構成員を処分する必要が?」
今回の事件はまだいい。加害者に決定的な罪があったからだ。
ただしかし、組織の維持のために正義とはかけ離れた粛清も、時には必要なことをディーはよく知っている。イルは馬鹿でも愚かでもない。それに理解はするのだが、納得することは彼の性格上難しく、苦しみも伴う。
「今のところはありませんが、いずれかならず必要になります。もちろん、イルにはいい指導者になってもらわなければならないので、全てを隠すわけにはいきません。しかし、それを僕と参謀殿で最小限に抑えられたらと思っています」
この天災児にとってはもっとだろうが、ディーも目的のため自分のためなら他人を殺すことも躊躇わないし、そこに何の疑問もない。イルと違って、『正義』のために動く気などさらさら無いからだ。
己が信じる存在のために必要だから、それだけで善人すら血の海に沈められる。
「現状だと、僕だけで全てを飲み下すには役者不足です。ですが貴方が協力してくださるなら、そう難しいことですらない。協力、してくださいませんか?」
お願いします。としっかりと頭を下げられた。腹が立つが、この矜持の塊のような悪ノ召使が心からイルのことを想って、敵に等しいディーに頼み込んでいることを認めないわけにはいかなかった。
「部下からの報告は、一律で私に回すようにしておきますよ。ですが、貴方の事前報告が絶対条件です。もしそれが無ければ、私はイルの判断を仰がないわけにはいかないのですから」
条件をつけつつも承諾の意を示すと、金髪の少年の涼しげな表情が一変し、年相応の純粋な安堵が人形のような顔に滲み出た。
「ありがとうございます」
そう言ってまた頭を下げた後、数冊の本を抱えてさっさとイルの部屋に向かってしまった。
その様子を見て、何故か激しい悪寒に襲われた。
悪ノ召使、彼の二面性がディーは恐ろしくて仕方が無かった。あの金髪の少年は捻じ曲がった根性を持っている反面、あまりにも純粋過ぎる信念がある。
言うまでも無く、それを捧げる相手は義弟であり親友であるイルだ。ディーも心酔する彼のためならば、あの天災児は文字通り何でもするのだろう。
『僕がこの革命を演出したのだって、元はと言えばイルのためですから』
あの時は感情が先走り深く考えなかったが、思い返してみれば彼は生みの親、養父母を含む百人以上を暗殺し処刑し、隣国を侵攻し攻め込んだ緑の国国民はもちろんのこと、自国国民にすら多大な被害を出した。
黄の国の将来のため?
そんなわけは無い。そんなお綺麗な思考回路の持ち主では断じてない。
全ては指導者となるべき資質の持ち主で、黄の国を愛していたイルのためだ。
もしそのイルが、己を縛る黄の国を疎んだとしたら? あの天災児は、どうするのだろう。
問うまでもない。
イルが嫌うものは、完膚なきまでに排除するに決まっている。
あの紅髪の少年が、そんなことを望むことはありえないと断言できる。しかし、もし不測の事態で彼がいなくなってしまったら、あの知性の怪物はいったいどうするのだろう。
唯一愛した肉親の死で生きながらえた、彼にとってはイルが生きるための場所でしなかったこの国を、その親友が存在しなくなったなら?
それもまた、問うまでもない。
それ以上をとても考えていられず、ディーは思考を振り切るように歩き出した。
「冷静なる狂犬、か」
意図せず、こんな言葉が口から漏れた。
「私は怖いですよ、イル。レン=ハウスウォードの破壊する力は、一個人が持つには余りに大きなものだ」
仇とかそういう問題ではなく、人間の本能でディーはたった十五歳の少年を恐れていた。
(歌から勝手に書いた)悪ノ召使(30-2
もんのすごく中途半端な出来ですが、とりあえず一旦これでレン生存ルート本編を終了いたします。もしかすると、これの続きが今後出ることもあるかもしれませんが、その前に番外編(革命五年後から)を投稿予定です。
宜しければ、そちらもお付き合いくださいませ。
セオリー通りレンが処刑されているとリンもイルも
「これから強く生きるぜ」って感じでしたが、リンが死ぬとだめ見たいですね@@;
元々レンとイルが笑って終われる物語、をコンセプトに書いていたはずなのですが、どうしてこうなったのでしょう><;
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-----------...ネバーランドから帰ったウェンディが気づいたこと【歌詞】
じょるじん
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BPM=200→152→200
作詞作編曲:まふまふ
----------------------------
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ご意見・ご感想
matatab1
ご意見・ご感想
『悪ノ召使』の名に恥じないレンの極悪っぷり……。正規ルートのリンもですが、この双子だけは敵にしたくないです。
ディーも善人ではないのに、レンと比べるとそう見えるのが不思議。苦労人ですね、彼。
地震、何事もなくて何よりです。
私は今まで体験した事のない、震度5弱の揺れを味わいました……。正直、あんな揺れがいきなり来るくらいなら、定期的に小さな揺れ(震度3くらいの)が来た方がマシです。
2011/03/12 15:13:04
星蛇
自分で書いておいてなんですが、おっしゃる通り怖いです。この双子が目の前に現れたらまず全力で逃げます!@@;
ディーは毎回毎回貧乏籤引かせられている、可哀相な子です……。苦労人とは、上手い言い方ですね!
番外編もよろしくお願いします。あっちでは益々ドSっぷりに磨きがかかったレンが出てきます(笑)
震度5!恐ろしいですね。NZの地震と何か関係あるのでしょうか?^^;
またたびさんも怪我が無かった事を願います。
私は怪我とかよりメールの送受信ができない状況に苛ついています。因みにau携帯ですが、通話はできるのにメールができない!
2011/03/12 15:24:52
零奈@受験生につき更新低下・・・
ご意見・ご感想
全部読みました!
にこにこ笑いながら毒殺するレンが怖すぎますw
でも、あんな幼少期で性格が歪まないほうがおかしいですね。
番外編が楽しみです。
うちの方は地震で食器がダンボール一箱分駄目になりました。
そちらはどうでしたか?
2011/03/12 13:19:50
星蛇
早速ありがとうございます!
番外編でちゃんと更生していくので、よろしくお願いしますw
番外編も、遅くとも明日には投稿したいと思います。
私の家は平気でしたね。北海道だからかな?
けれど、その日の午前中にJRで移動していたので、それが午後だったら足止め喰らってたかもしれません。恐ろしい@@;
しかし段ボール一個分の食器とは、お怪我が無かった事を願います。
2011/03/12 13:49:36