この小説は言わずと知れた名曲、カンタレラのMEIKOバージョンと合わせてみたを小説化したものです。
カイメイ前提ですが、ミクメイ要素も含ませるつもりです。
MEIKO=メイリーナ、KAITO=カイザレ、ミク=ミクレツィアです。
自己解釈の個人的妄想の産物なので、多少はそういった部分もありますが、
ほとんどが歴史や人物像に真に迫っていません。二次創作です。
それでも許して頂けるお心の広い方のみお読みください。
読んでくださる方々のお暇つぶしになれるなら幸いです。
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父親が死んだ。
一片も欠けていない満月が、庭に広大に植えられた薔薇を一面に見渡せるほど美しく輝く月夜だった。
その夜は妙に寝付き悪く、気分転換に夜風にでも当たってこようと思い、カイザレは庭一面に咲き乱れている薔薇園に訪れていた。
カイザレはこの薔薇園が好きだった。元から赤いものが好きだったことも要因の一つだが、ここにいると今は修道院にいる幼い頃よく遊んだ少女の事を思い出す。
名をメイリーナといい器量も人柄も良く優秀な少女だったが、とある理由で父がこの家から追い出したのだ。
否、もう少女と呼ぶべきではないだろう。彼女はカイザレよりも2歳年上で、今年23歳になる筈だ。もう少女を通り越して立派な女性だろう。
そう物思いに耽っている時だった。
「カイザレ様、こんな所におられましたか!!!」
切羽詰まった声に薔薇から目を放し振り返ると、そこにはカイザレが幼い頃からこの屋敷に仕えている執事がいた。
「騒がしいぞ。何の用だ。」
一人物思いに耽っている時間を邪魔され、不機嫌になりながらも返事をする。
そして執事から返ってきた言葉は、
「ご主人様が・・・ご主人様がお亡くなりになられました!!!」
だった。
「・・・・そうか。」
それだけを返答し執事を下がらせ、また薔薇に目を向けた。
父親は最低な男だった。
金でローマ教皇という地位を買い、愛人を幾人も持っていた。
冷酷非道。そういう言葉が似合う男だった。
カイザレ自身、別にそれが悪いと思った事は無い。
自分も似たような種類の人間だったし、そのことに罪悪感を持った事すら無い。
だが父親が彼女を追い出した時は違った。
あれが生まれて初めて抱いた憎しみや殺意だったと思う。
カイザレも幼い頃は、子供が実の親を慕う様な平凡な愛情を父親に抱いていた。
だがあの時に初めて、本当に初めて自分や彼女が慕っていた男の本性や、卑しさを知った様な気がした。
「お父様が、お亡くなりになられたのですってね。」
音楽の様な美しい声が聞こえた。
この声には振り返らずとも、誰が発したものかは分かる。
「ミクか。」
カイザレは振り返らずに、腹違いの妹であるミクレツィアを愛称で呼んだ。
その声には実の父親が死んだというのに、悲しみや苦しみなどの感情はまったくといっていいほど籠っていなかった。
いまさら驚きはしない。彼女は一見心優しそうな性格をしている様に見えるが、その実、薄情な性分をしている事をカイザレは知っていた。
「まだ、起きていたのか。」
「お兄様こそ、まだ起きていらっしゃったの?」
「婚前の女性がこんな夜更けまで、起きているのは感心しないな。」
ミクには婚約者がおり、彼女は結婚を控えている。
「良いでしょう?ボカロジア家のために、好きでもない相手と結婚するのだもの。夜更かしぐらいしたって罰は当たらないと思うわ。」
もちろん、この結婚は政略結婚だ。今の時代、貴族の娘が結婚相手と互いに惹かれ合って結婚するという事の方が稀だろう。たとえ愛人が生んだ庶子であっても。
「それで、どうなさるの?」
「何をだ?」
唐突にミクが口を開いた。
「誤魔化すのはおやめになったらどう?従姉妹のメイリーナ様の事よ。昔、話してくださったでしょう?」
その言葉にカイザレは僅かに目を見開いた。
ミクにメイリーナの事を話したのは一度だけだ。彼女が頭が良いのは知っていたが、自身の思いを悟られているとは思ってもみなかった。
「・・・知っていたのか。」
「もちろんよ。分からない方が可笑しいわ。私がもう何年、お兄様と過ごしていると思っていらっしゃるの?」
と言っても、多少感が鋭い者なら誰にでも分かる事だとミクは思う。
兄が今は修道院にいるらしい、従姉妹の事を話してくれたのは一度だけだが、兄が彼女の名前を呟く時にはどこか愛おしいそうな甘やかさを含んでいた。希求の響きさえ含まれているような気がした。
「もうお父様もいないのだし、そろそろ良いのではないの?大切なものを取り返すには、ね。」
もっとも、とミクが続けた。
「まあ、お兄様の事だし、最初からそうするおつもりだったのでしょうけれど。」
「・・・随分と積極的だな。お前は嫌がると思っていたのだがな。」
ミクはあまり人と深く関わるのを嫌っていた筈だ。まして、血が繋がっていようとなかろうと見知らぬ人間と住むなどと、カイザレが言い出したら絶対に拒む筈だ。
「興味があるもの。」
「興味?」
「どんな女性に言い寄られても心を揺り動かされなかったお兄様が、一人の女性に執着なさるなんてそうあることではないわ。それほどに魅力的な方なのでしょう?私もお目にかかってみたいわ。さぞかしお美しい方なのでしょうね。」
「・・・そうだな。とても美しくなっていると思う。」
火傷の痕は薄れているだろうか、と思う。残っていてもこの思いは変わらないけれど。
「でも、良かったのではなくて?」
「何がだ?」
「メイリーナ様が修道院へ送られて。お父様が彼女を引き取ったのは、私の様に政略結婚をさせるためだったのでしょう?」
「・・・お前は本当に頭が良いな。」
考えている事を読まれ、ため息を吐く。
だが、ミクの言う事も一理ある。
父は彼女の両親が死んだ時、一人残された彼女を哀れに思ったから引き取ったのではなく、後々己自身の手駒にできると踏んだから引き取ったのだから。
彼女が火傷さえを負わなければ、本当に政略結婚の餌にさせられていただろう。それこそ、自身の目の前にいるミクの様に。
最も、カイザレがその事に気がついたのは彼女が父親によって修道院に送られ、ミクがこの屋敷にやって来た後だったが。
「楽しくなりそうだわ。」
ミクが微笑みながら言った。
珍しく本心からきた笑みだった。
「そうだな。」
カイザレも微笑みながら言った。
本心から笑ったのなど何年ぶりだろう?
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