「ねぇ、ルカ姉……さっき松田警視に言ったことって……。」


 ホテルのエレベーターで降りて行く時、ミクがルカに尋ねた。


 「……分かってる様ね。……和也君が心の声で言い残したのよ。『がくぽの様な人を見た』って……。」


 『……………!!』


 一同の間に緊張が走る。

 神威がくぽ。嘗て共に歌った仲間でありながら、ルカ達のマスターの弟子の命でルカ達を殺しに来たボーカロイドだ。

 その時はリンとレンの音波術の覚醒により事無きを得た。だがまた襲ってきたら―――――ミク達の背筋を冷たいものが走る。

 だが―――――


 「……大丈夫よ。彼はもう改心してるわ。むしろ、うまく見つけて捜査に協力してもらいたい処ね。……さて、犯人の動向をつかまなくちゃ……。」

 「へ?ルカ、そんなのあんた大得意じゃない!」


 メイコが素っ頓狂な声を上げた。『心透視』で犯人の行動時の心情を掴むことのできるルカにとって、遺留品や場所に残る残留思念から犯人の動向をつかむことは最も得意とするところなのだ。

 だがそのルカが―――――眉間にしわをよせて唸っている。


 「それがさ……ずいぶんと気配を消すのがうまかったみたいで、ホテル全体洗ってみたんだけどさ~っぱり見つかんないのよ、気配。」

 「ルカさんにすら見つけられないの!?あたしの時はあんなに簡単に見つけたじゃない!!」

 「ああ、暴走の時?あんたの場合は気配だだもれよ?」

 「え。そなの?」


 エレベーターを降りても、まだルカは考え続けていた。


 「これほど気配を消すのがうまい奴は今まで見たことがないわ……こうなったら地道に聞き込み捜査をするしか―――――」


 そう言いながらホテルを出たその時。





 『ならばこの吾輩が手伝ってやろうか?』





 「……え?」


 突然頭の中に響いた声に、驚いて顔を上げる。

 ホテルの前、海岸と道を隔てる堤防の上。2本の尻尾を揺らし、碧い焔をまとわりつかせ、通行人の目線も気にすることなく優雅に座る灰色の猫。

 その後ろ姿に―――――ルカ達は見覚えがあった。あんな目立つ姿をした。だけどこんなときほど頼りがいのある背中は「あの猫」しかいない―――――!



 『―――――よう、ルカ。まさかこんなところでも会おうとは思ってもみなかったぞ。』



 「ろ…ロシアンちゃん!?」


 そこにいたのは―――――ルカの盟友・猫又のロシアン。幾度となくルカ達のピンチにタイミング良く颯爽と駆けつけるこの猫又は、まるで場所を選ばないかのように其処に居た。


 「ロシアン!!こりゃ奇遇d」

 『ねこ助~!!なんでこんなとこにいるの(んだ)!?』

 「ロシアンちゃん!久しぶり~!!半年ぶりぐらい?」

 『そんなとこだな。あとリン、レン。いい加減ねこ助は止めぬか。』


 カイトを押し退け、ロシアンに群がるリン、レン、ミク。そんなロシアンに、今度はルカが近づいた。


 「ロシアンちゃん…!どうしてこんなところに?」

 『半年前のあの時から、適当に各地を飛び回った後、ここのボス猫共とひと喧嘩やってな。3か月ほど前からここいらのボスをやっておる。なかなか快適なのでな、結構長居しておるのだ。……お主らは旅行か何かか?その割には、全員やたら血腥いがな。』


 何もかもを見通したかのような口調。おそらく今、ルカ達の体にはべっとりと富岡親子の血の匂いが染みついているのだろう。

 こうなっては隠し通せない。ルカはロシアンに全てを話した。


 『……ふむ。成る程な。……運が悪かったな、ルカ。『黒猫組』は、普通の捜査ではもちろんのこと、お主の『心透視』で追跡する捜査も、奴らには相性が悪い。気配を消すのが、その名に違わず得意だからな……。』

 「そんな……!それじゃどうすれば――――――」


 泣きそうになるルカ。だがロシアンは―――――不敵に笑っている。


 『気配を消すことができても―――――奴等が人間である限り―――――いや人を斬った奴である限り、絶対に消すことができないものがあるさ。そして吾輩は……それを追跡することができる!!』

 「え……それって……!?」


 ルカが聞こうとするが、ロシアンの尻尾がルカを制する。そして一言―――――


 『お主ら、耳をふさげ。鼓膜が吹き飛ぶぞ。』

 『へ?』


 ルカ達の疑問の声よりも早く―――――



 『ぎにゃあああああああああああうおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』



 怪音。爆音。―――――そうともとれる……いやそうとしかとれないような、ロシアンの凄まじい叫びが響き渡った。

 咄嗟に耳をふさぐ一同。周りの人々は思わず逃げ出す。周辺の石や窓ガラスが共振を起こして弾け飛ぶ。

 圧倒的な迫力に、ルカは思わず総毛立った。ただ鳴き声を上げているだけ―――――極論を言ってしまえばそれだけなのに、全身を鳥肌が覆う。

 こういう時、いつだってルカは思い知らされる―――――目の前のこの小さな猫は、長い永い時を経た、紛れもない神獣・猫又なのであるということを。

 突然響き渡る鳴き声が消える。先ほどまでのやかましさが、嘘であるかのような静寂が訪れた。

 ――――――――――が。



 「なあぁ~お。」



 『……え?』


 ルカ達の足元には………いつの間にか一匹の猫が。

 呆気にとられていると―――――――――


 「にあぉ~お。」

 「にゃあおぅ。」

 「におおおおぃぅ。」


 「にゃお」「なおお」「にあぁ」「にゃあ」「におぅ」「なあぅ」「にゃ」「にぃぃ」「なうぅ」………


 『……う……うわぁぅお……。』


 リンとレンが、感嘆の声を漏らした。ロシアンの周りには―――――あちらこちらから集まってきた、100匹近い数の猫が群がっていた。


 『こいつ等は吾輩の配下だ。この町のボスを倒した時からついてきておる奴らでな。若い衆が多いが……臭いを探すことにかけては、長けたものも多い。』


 はっとしたルカ。ただ部屋に入っただけのルカ達でもかなりの血の匂いがしているのだ。富岡親子をあれほど斬ったのだとすれば―――――たとえ何らかの方法で返り血を防いだとしても、どこかに血の匂いが染みついているはずだ。

 すっくと立ち上がったロシアンは、集まった猫達に向けて口を開いた。


 「……にゃぅおおおお!!にゃう、にあああああおう!なおおうああああご、にゃおうなおおう……!にゃごにゃああごる、におおおおおお!!」


 当然と言えば当然だが―――――猫語である。にゃーごにゃーごの大合唱に耐えきれなくなったミクがルカに問いかける。


 「る……ルカ姉、なんて言ってるかわかる?」


 ルカはロシアンを見つめたまま、ポツリポツリと訳し始めた。


 「……『今から貴様らに、ある人間を探してもらう。怒髪天を突くという言葉が良く似合うほど髪の立った男で、痩せ形、黒いスーツを着ている。そこの者共の身に染みついている血の匂いを、どこからか必ずさせているはずだ!探せ、そして吾輩に伝えよ!』……犯人の要旨……なんだろうけど……どうして!?犯人の目星も付いてないのに……!!」


 ルカが困惑していると、


 「にゃるごぅ!!」


 『にゃーごぉう!!!』


 ロシアンの一言で、猫達はルカ達とすれ違いざま匂いをひと嗅ぎして散って行った。

 ロシアンもひらりと堤防を飛び降り、ルカの前を歩きだした。


 『さぁルカ、吾輩らも行くぞ。こっちだ。』


 慌てて駆け出し、ルカはロシアンを問い詰めにかかった。


 「ね、ねぇ?どういうことよロシアン?何であそこまで細かくわかったの!?」

 『ん?ああ……奴らの犯行には、この上なくわかりやすい手がかりがあるのだ。勿論、ちょっとした予備知識が必要と言う条件の上だからな……気に病むことはないぞ、ルカ。』

 「う……うん!」


 歩きながらロシアンは解説を始めた。


 『まず結論から言ってしまおう。おそらく今回の事件の犯人は―――――富岡悪之介だ。』

 『えええええええっ!!?』


 ルカだけでなく、ミク達も驚愕の声を上げていた。富岡悪之介。若い刑事が言っていた、初美の元旦那だ。


 「どっ……どういうこと!?」

 『その前に予備知識として入れておかねばならぬことがあるな。『黒猫組』が暗殺中心とする暴力団だというのはすでに知っているな?その暗殺方法なのだが……一人ひとり違う方法を持っているのだ。延髄を一突きにしたり、頸動脈をかき切ったり、眉間に針を撃ち込んだり、首をもぎ取ったり……暗殺用員約30人……一人として同じ技は持っておらん。そしてその中でも特に残虐なのが、『黒猫組』No.2―――――富岡悪之介でな。奴の得意とする殺し方は、全身の急所となる血管をわざと外したうえで、全身の動脈を切り刻むといった方法だ。……今回の方法と一緒だろう?』


 ロシアンの言う通りだった。富岡親子に刻まれた傷はすべて急所を『意図的』に外した跡が見られた。


 「………だとしたら……!!」

 「旦那さんが奥さんを殺した……ってこと!?」

 『先程の話と合わせると……大方、自分の借金の脚拭いを命じられた……ということだろうな。』


 リンとレンの悲痛な声が、そしてロシアンの冷静な分析がルカの中の怒りを一層倍増させる。

 許せない。許さない。借金の脚拭い?ふざけるな。

 今にも爆発してしまいそうな怒りが、ルカの中を駆け巡り、拳にも力が入っていく。


 『……ルカ。』


 はっと我に返り、目の前を見るとロシアンが足を止め、振り返っていた。


 『……感情的になるな。怒りを心の奥底で燃やすのは何ら問題はない。だがそれを表に出してしまっては、揺れが体に現れる。この先、何かしらの争いがあった時にその揺れは思わぬ怪我をもたらすぞ。』


 300年の齢を重ねた灰色の猫又の言葉は、ルカの心にずしりと響く。まるで……アンドリューの言葉の様に。


 「……わかった。」 


 ロシアンの言葉をしっかりとかみしめ、ルカは再び歩き出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行 Ⅶ~猫又の推理~

この猫、神出鬼没に付き―――――。
こんにちはTurndogです。

基本どこにでも現れるロシアンwww
実はルカさんのストーカーなんじゃあるまいn
ロシアン『なんか言ったか?(しゅぼっ)』
アッ―――――!!あちちちちちちっちちちちちちちちちち!!

あとカイトは最早扱われなくなっt(もうやめてぇ―


ルカさん、爆発三秒前―――――。
次回はもう火が付きます。

閲覧数:465

投稿日:2013/03/13 19:07:36

文字数:4,249文字

カテゴリ:小説

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  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    ロシアンの登場の仕方と、登場時の言葉が
    某ノーサイドさんバリにカッコイイww
    ……否、私は某ノーサイドさんのほうが好きというか、大好きの域を通り越して、依存症なんですけどn((黙れくそボケw

    2013/03/21 18:37:35

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      そりゃあね、ロシアンは齢300年の猫又ですからwww
      カイムラルも素晴らしくすぐれた男ではあるがロシアンの前では……おや、誰か来たようd(死亡☆フラグ!

      2013/03/21 20:47:05

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    あい せい にゃぁ~お
    便利だな、にゃんにゃんたちww

    かつお節と煮干し……どっちがいい?

    2013/03/15 00:19:48

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      リアルなwww

      ネコ?「にゃおううおおうう」
      ネコ?「にゃるううううう」
      ネコ?「なおうううううえいふぉfdhdしfs」
      解読してあげてくださーい(んな無茶な

      2013/03/15 17:48:46

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