[おやすみ可愛い夢]




真っ白な月が空に浮かんでいた。
部屋の中の光は月明かりだけ。

夜は冷えこむというのに、窓を開けてもの思いをする姿がある。


「どうしたの?」


その横顔に、ベッドサイドから声をかけた。


「……ううん」


また、ゆっくりと口が動きだす。


「…………ずっとこのままならいいのになって思って」


そんなに高くない月を見つめ、君が言った。

風が吹きこんできて、君の髪がゆれる。

君のせいでわずかにほてった体でふわりと君を包み込むと、少し冷えた体を暖めてあげる。
そうすると、君がどこか嬉しそうに振り向いてそっと唇が触れた。


「あったかいな」
「うん」


もう一度、今度は意識的に、唇を合わせる。


「眠ろうか」
「……一緒に……?」
「一緒に」


並べられたベッドの片方に君と一緒に潜り込む。

このままずっと、朝がこなければ、君と同じ夢を見れるのに。




(甘い甘い悪夢)





[貴方の泪を止める術が欲しい]




―――どうして、そんなに泣いてるの?
―――ねぇ、どうして?


はっと気が付いて、目が覚めた。
ついさっき、隣にいる君が泣いてる夢を見た。


―――月を見上げていた君の目から、一筋のしずくが流れる。
―――目にたまった雫をぬぐってあげても、また流れて、止まってくれない。


たったそれだけの夢のはずなのにすごくすごく苦しくて……。

隣で眠る君に目をやると、目には涙がたまっていた。


どうして、泣いているの?
どうか、泣かないで。


願いながら、君の涙を拭いた。
そして、そっと、目じりに口づけをした。




(神様どうか 私の涙腺と引き換えに)





[袖を掴むフリをして抱き締めた]




夜中に目が覚めてから、ちゃんと眠れたのかもわからないまま朝がきた。


「おはよぅ」


君が目を擦りながら言う。


「おはよ」


そうこたえると、君が嬉しそうに笑う。
その顔に涙の跡はもうない。


「よく寝たな」
「だって、一緒に寝てくれたから」


ニコニコと言う。


ベットの中でまどろんでいると、コンコン、と扉をノックする音がして、声が聞こえてきた。
「おはようございます。お目覚めでしょうか。朝食のご用意ができていますので、広間にいらしてください」
部屋の前でメイドがそう言って立ち去っていった。


「朝ごはんだね。着替えなきゃ」


君が起き上がってベッドから出る。
クローゼットから服を出して着替える動作を、動くことなく見つめていた。


「着替えないの?」
「あ、うん」


返事をすると、君の隣で君と似たような服を着る。


「袖のボタン、やってあげるから」


君がボタンを留めるのを苦戦しているのを見てそう言った。


「うん、お願い」


差し出された君の右腕の袖口のボタンを留める。


「ありがと」


手を離すこともできなくて、君を手を引いた。


「どうしたの?」


不思議がる君をよそに、君を抱きしめた。




(貴方は戸惑い 私はもう引き返せない)





[魔法を囁いて]




不思議そうな声で呼ぶ。


「ね、どうしたの」
「あ、ごめん」


君を抱きしめた僕がとっさに離れようとすると、君が背中に腕を回した。


「待って、離れなくていいよ?」
「怖い夢でも見たの?」


僕が抱きしめたはずなのに、背中に回された腕が温かく包んでくれる。


「……うん」


ぎゅぅう、と君が優しく抱きしめてきて、それに安心する。
いつもなら、僕が抱きしめてあげるのに。


「いつも抱きしめてくれるから、お返しね」


そう、はにかんで笑う。


「……ありがと」


数秒の間、僕らは抱きしめあっていた。


そして、ゆっくりと呟く。


「……僕らはずっと一緒だよ」
「うん…………僕には君しかいないから」


か細くつぶやいた声は、君と僕の耳に流れた。




(鼓膜すら溶けてしまう程に甘く)





[君の秘密に錠前を、]




僕らは合わせ鏡のように、同じ、だった。
顔も、身長も、体重も、声も、そして、たぶん想いも。

僕は君を想い、君は僕を思った。
言葉にしなくても、指を絡めて手を合わせれば、なんとなくわかる。

それは僕が君で、君が僕だから。


「僕には君しかいないから」


お互いの耳に流れた声は、僕のものなのかどうかも、もうわからない。
ただ、ただ、抱きしめ合い、愛おしんでいるだけ。


「……悲しいの?」
「ううん」
「…………さみしいの?」
「……ううん」
「……そう…………」


君は僕の心の空っぽがわかるんだ。
君は僕の心の空っぽだから。


ぎゅぅ、と君が僕をまた抱きしめた。
そして、そっと唇を合わせた。

それは何かが溶けるようで、僕のなかの空っぽに何かが流れた。




(そして永久に僕の物になる)


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

二人の

タイトルはこちらよりお題をお借りしました。
サイトさま:h a k u s e i
http://hakusei.3.tool.ms/



小説のつもりです。
[君の秘密に錠前を、]はその前までのと時間が空いたので、もしかしたら雰囲気が変わってるかもしれませんが、ご了承ください。
やっと完結したのでうpしました。


ちゃんと、長編の小説にしていきたいと考えてます。

一応、イメージはレン君です(要素が全くないけど…)。

閲覧数:252

投稿日:2012/04/21 21:33:16

文字数:2,056文字

カテゴリ:小説

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