夜8時30分頃。テーブルの上、マナーモードにしてある携帯がぶるぶる震えているのを、しかし電話に出る事はせず留守電に切り替わるのを、メイコは床に座り込んだまま横目で眺めていた。
しばらくして点滅する光と共に、不在着信・一件。という表示がディスプレイに映し出された。そこにきてようやくメイコは携帯を手に取り、ボタンを押し、誰からの電話だったか確認をする。
相手はカイトから。しかしメイコは折り返しの電話をかけることなく、携帯をテーブルの上へ放り投げた。
はあ、とため息がメイコの形の良い唇から零れ落ちる。苦々しげに眉をひそめて、立てた膝の上に顔をうずめた。
カイトは、メイコと同じ会社で働く一つ下の後輩で、2年くらいの付き合いの恋人だった。
そのカイトが今、浮気をしているような気がする。
本人を問いただしたわけではないけれど、状況がそう言っていた。
忙しいといって仕事帰りのデートを断られた。やたら携帯を気にしている。夜、連絡が取れないことが続いた。それでも、カイトの態度は変わらず優しくて、埋め合わせだと一緒にランチをしたりしてくれた。だからカイトの言葉通り仕事が忙しいんだな。で片付けられたのだけど。
誕生日に一緒にいてくれなかった。これは疑ってくれと言っているようなものじゃないだろうか。
メイコの誕生日当日。今日の夜やっぱり一緒にいられない。とお昼に入った店で、向かいの席でしょうが焼き定食を食べるカイトに言われた。
ざわざわと昼間時の定食屋は混雑していて、店員もせわしなく立ち振舞っていた。人の出す音や周囲の会話の声で、相手の言葉はうっかりすると聞き逃してしまいそうになる。だから、一瞬聞き間違えたのか。とメイコが思っていると、更に重ねてカイトが口を開いた。
「ごめんメイコさん。今日やっぱり無理だ。」
そう申し訳なさそうに言うカイトの言葉が、今度は雑音に邪魔されることなくきちんとメイコの元へ届いた。聞き間違いではなかったのだ。とメイコは目を見開いた。今まさに口に運ぼうと思っていたご飯が箸から転がり落ちるのも気にせず、何で。と険しい声で問いかける。
「最近カイトが忙しかったのは、今日の為に仕事を前倒しにしてるから、って言う理由だったじゃない。忙しい。っていう理由はもう無いよ。」
そうメイコが問い詰めると、カイトは目を泳がせながら、言葉をにごした。
「え、あ、いや。あの。うん。急に用事が入って。」
人が良いカイトはとても嘘が下手だ。
何かやましいことがあるのだ。とメイコはじっとりとカイトを睨みつけた。けれど、カイトは取り繕うような下手な作り笑いを見せるばかりでそれ以上は何も言わない。
「もう、知らない。」
そうメイコが突き放すように言って、カイトを無視するように、目の前に並ぶ焼き魚に箸を伸ばして食べるのを再開すると、カイトが情けない顔でメイコさん。と呼んだ。
「絶対に2、3日後には埋め合わせするから。そんなに怒らないで。」
カイトの必死の言葉に、渋々ながらもメイコは顔を上げた。
その捨て犬のような哀れな表情に、駄目だなぁ。と思いつつもついほだされてしまう。ため息交じりでメイコは表情を和らげた。
「遅れた分だけ豪勢に祝ってよね。」
そうメイコが言うとカイトは、もちろんだ。と大きく頷いた。
だがしかし。2、3日後もカイトから音沙汰なし。相変わらずデートに誘っても用事がある。と言われてしまう。
そして誕生日から5日後の仕事帰り。カイトに対する不満を抱えながらも、メイコは買い物をして帰ろうと住んでいる街の駅前のスーパーに立ち寄った。
野菜と、秋だからきのこが安いから手を伸ばして。魚を買って、鶏肉が安いから小分けにして冷凍しておこうか。あとは牛乳と、ジャムが切れていたから買おう。お酒は箱買いしたのがまだあった。パンは、どうしようかな。スーパーじゃなくて美味しいパン屋さんに足を伸ばそうかな。
そんな事を思いつつ買い物を進めて、レジに並んで。ふとメイコが視線を上げると、レジの先の台で買い終えた品物を袋につめる人の姿が目に入った。
おばさんたちの中から一つ分頭が飛び出ている、不慣れな手つきでエコバッグに買った物をつめているスーツ姿の男の姿。見間違えるわけが無い、カイトだった。
何でここにいるの?と驚き。もしかしたら自分を訪ねてきたのか、と喜び。 声をかけるには少し遠い位置のその姿をメイコが見つめていると、荷物をつめ終えたカイトが顔を上げて微笑んだ。
その笑顔の先には見知らぬ女性。
え?と不思議に思っているメイコの目の前で、カイトはその女性と二言三言、親しげに会話を交わし、荷物を手に肩を並べて去ってゆく。
何これ決定打?浮気現場発覚、みたいな?
呆然としているうちにメイコの番がまわってきたらしく、ネギが一点シメジが一点まいたけが一点、、、と固まっているメイコをよそに、レジのおばさんが慣れた様子で商品を打ち込んでいった。
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