――――――――――#15

 KASANETETO――――――――――Our Love be Shoot The Moon.

 次の瞬間、病室のドアが勢い強く開き、何かが投げ込まれた。グミさん(仮名)が床に体を投げ出す。という映像を認識しながら、鉄格子ごとぶち破ったテトの体は次のグレートコードの影響下にあった。

 何か忘れてる気がする。とんでもない何かを忘れてる気がする。兵士として何かとんでもない何かを忘れている気がする。何かの探され率は異常とか、そんなチャチなもんでは決してない。

 そうだあいつ。間違いなく「心を読みやがった」。だから――――――――――。

 銃撃が後を追いかけるが、テトの落下は始まっていて窓から虚しくあさっての方に跳んでいった。

 ――――――――――『ちっ、やはりそういう事ですか!!!』

 まだ互いに『隠者』のグレートコードが利いている。最後に確かめたかったのは、何故機械ではなくグレートコードを使っていたのか、その理由は。

 地面に叩きつけられる寸前、テトの体は上に思い切り引き戻された。月の方向に向かって重力加速度を操作という、かなり不思議なグレートコードである。『月』ルーラーのコードは大体が訳が分からなくて使いづらい反面、読まれにくいのがいい。

 YOWANEHAKU――――――――――そとはへいおんに いのりはわたしとわれらのために

 『愚者』がぶった切られた。これで心が読まれなくなる。というか、あいつは気づいていた筈だ。だからグミさん(仮名)に時計を返して、他人から興味を逸らせようとしたのか。ならば、彼女は常に他人の心を読む能力が暴走している訳だ。

 となると、エルメルトどころかクリフトニア全体であれの扱いに困るということになる。UTAU軍の中枢に影響を与えるほどの役職にある重音テトとしては、グミさん(仮名)は別に全然クリフトニアいて貰って構わないし、市民の発言力が強いから敵の捕虜も人道的に扱わないといけない。その辺、UTAUはちょっとやんちゃしてるが、こういう甘い所は断じて甘えさせてもらおう。

 もうちょっとクリフトニアで遊んでいきたかったが、急用が出来てしまった。とりあえずはグミさん(仮名)の事で機密だの恩給だのと忙しい手続きがある。来月末までに間に合わせないと、防諜上の処置がやりにくくなるかもしれない。国内のカウンターインテリジェンスは欲音ルコの担当だが、あいつにはちょっと嫌われてるので、書類をバッチリそろえないと嫌がらせされる。人道よりもそれが困る。

 その点、官僚主義的なクリフトニアはやる事が手堅い。裏技が通用しにくいから、機敏さには欠けても分の悪さも覆しにくいのだ。だから見て置きたかったという所もある。

 建国も楽ではない。メディソフィスティア僭主討伐戦争のドサクサで立てたUTAU連合国だが、戦後に台頭した勢力は大きな物だけで5つ以上はある。その1つがクリフトニアを盟主とする経済安全保障連盟だ。先の戦争を発端に結成されて、戦後そのまま経済共同体の機能を創設し、民主主義街道を爆走中である。

 UTAU連合があった地域は新政権の設立が遅れた為に、クリフトニアが提唱した連盟に参加できなかった。その上、敗残兵が追われて流れ込んで来た為に少なくない混乱が起きた。UTAU軍が連盟に喧嘩を売っているのは、内政の混乱を外に向けさせる為と、無理やりでも特需を起こしたいという事情もあった。クリフトニアは北方に敗残兵の掃討を押し付けて復興を始めたと思われてるので、クリフトニアと同じテーブルに着きたくないという感情もある。

 当時の重音テトは中将で、攻響兵を指揮して敗残兵を追っていた。敗残兵は再起を図る為にあれこれと余計な事をしてくれて、その分お返しはくれてやったが大きな爪痕が残った。特に怨嗟の行き場がクリフトニアに向いていて、すごくややこしい。

 だからまあ、テトとしてはさっさと講和したい、防衛体制をきちんと整備したい、という方針だが、大将になったと言えども軍内で通すのは無理難題でしかない。

 月の方向に向かって跳んでいるが、逆方向のベクトルも発生させることが出来る。自分自身の重心をずらしながら出力を調節すると、物理的にありえない軌道で長い距離を移動することが出来る。ただし、軌道は必ず放物線を描くので、読まれるとまずい。

 KASANETETO――――――――――hanmmok hanged under the Moon.

 適当に詠むと、空中でブレーキがかかったかのように、体が見えない力で吊り上げられる。足元の山腹に降り立つと、最低限必要な荷物を回収する。イベレーターミサイルを発射した場所とは別の場所だ。

 「さて、帰りますか。お疲れ様だったね」

 誰に聞かせるでもなく、独り言を呟く。テトさんの休日はそれなりに長かった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」 3章#15

Q.どうして戦わなければならないのですか?A.あーまた今度ね。

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投稿日:2013/01/27 05:57:19

文字数:2,029文字

カテゴリ:小説

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