ココロ・キセキ  ~奇跡の科学者の日記より~


 私は幸せ者だ。君を生み出せて。君と過ごせて。
「――ハカセ?」
 ずっと黙っていたから不思議に思ったのだろう。なんでもない、と首を振って君を安心させる。もっとも君は『ココロ』がないから不安に思うことは無いだろうが…。


 私は幸せ者だ。君を生み出せて。君と過ごせて。でも欲を言うなら――。
「ハカセ、ナゼ泣クノ?」
 知らぬまに泣いていたらしい。悲しくて寂しいからだ、と答えた。
「サミシイ? カナシイ?」
 君は知らない。だって『ココロ』がないから。
「『ココロ』トハ、何デスカ?」
 君に教えてあげよう、『心』が感じる全てを。
「システム異常ガ発生シマシタ。システム五十パーセントダウン」
 やはり君には早かったようだ。あとで回復させなければ。


 私は幸せ者だ。君を生み出せて。君と過ごせて。でも欲を言うなら、君にも『ココロ』があって欲しい。
「――ハカセ、ドコカ壊レテイルノデスカ?」
 私にあって君にないもの、それは『心』だ。でも、君にあって私にないもの、それは『永久(とわ)の時間』だ。私の時は終わってしまう、君を残して。創ってあげられなかった、君に『ココロ』を。
「メッセージヲ…受信シマス…」
 だれからだろう。君にメッセージを送れるのは。
「発信元ハ…未来ノ…」
 未来? 未来からメッセージなんて。
「ワタシ…?!」
 驚いた。いや驚いたなんてものじゃない。
「……わたしを生んでくれてアリガトウ。『心』をくれてアリガトウ」
 心臓が止まるかと思った。未来の天使の『心』からの感謝の言葉。未来の君はどうも『心』を持っているらしい。


 私は幸せ者だ。君を生み出せて。君と過ごせて。君に『心』が宿ると知って。
「――ハカセ!」
 もう体を起こすのも億劫だ。当然だ。もう年なのだから。まったく心残りがないといったら嘘になる。だが、君は一人でも生きていける。でも、私には無理だった。だから君を生み出した。そして気付いた。 君に『ココロ』が宿ればどうなるのだろう。私が感じたことと一緒のことを感じるのだろうか?


 私は幸せ者だ。君を生み出せて。君と過ごせて。君に『心』が宿ると知って。君が私のことを憶えていてくれて。
 人間は死ぬ間際になるといろいろ思い出すらしい。走馬燈と呼ばれるものだ。
『――ハカセ。――ハカセ? ――ハカセ! ――…ハカセ。――ハカセ…』


 私は幸せ者だ。君を生み出せて。君と過ごせて。君に『心』が宿ると知って。君が私のことを憶えていてくれて。でも望むなら君と共に……。

『独リハ寂シイ』

「君が生まれてくれて」
「私を生んでくれて」
「「アリガトウ」」


 これは奇跡の科学者が綴った日記を修正・加筆したものです。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

孤独な科学者の日記

孤独な科学者の心情を書いたつもりです
才能無くてすみません

閲覧数:114

投稿日:2011/05/07 14:39:48

文字数:1,166文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました