呼吸も落ち着き、脈拍を測る機械の音が規則的に部屋に響いていた。
「…」
 誰も、言葉を発しなくなった。
「…あっちとこっちを短期間に行き来していたから、疲労がたまっていたんだろう、って先生が」
 幸い大したことはなく、静かに眠っているだけだ。しかし、王子が倒れたということで、多少大げさではあるが、最先端機器を使用しての精密検査が行われた。疲労と栄養失調が見られたが、しばらくやすんで適切な食事をとればすぐに回復するだろう、というのが数人の医師の見解だった。
 主な原因は、人間界とこちらを必要なスキルを習得せずに行き来していたことで疲労が、ヴァンパイアであるにもかかわらず血を吸わなかったことで栄養失調が起こったということだ。ついでに、ちょっとした貧血も起こしていたらしい。
 つまり、大本はレンが人間界に行ったことにあるのだ。しかし、リンは一人、責任を感じていた。
 自分がレンを人間界にとどまらせてしまった。時折心配してかけた言葉、「血は吸わなくていいの?」それは、レンに対して、遠まわしに「血を吸うな」と言っていたのかも知れない。自分はそんなつもりじゃなくても、レンがどう受け取るかはわからない。本当の原因は自分だ――。
 頭を抱え、リンはうつむいた。
「貴方の所為ではありませんよ。元はと言えば、私たちの責任です」
 優しく言葉をかけたのは、キカイトだった。
「私たちがちゃんと見ていればこうはならなかった。ちゃんと人間界の危険性を教えて置くべきだった。スキルを教え、無意識にでも使えるようにしておくべきだった。それを教えておかなかった、私たちに非があります」
「いえ、私がレンにプレッシャーを与えて居たんだと思います。今回のようなカタチでなくても、きっとレンは人間界に来て、私にあっていたんじゃないかと思います」
 思いつめた様子のリンに、キカイトは少し答えに困った。
 いつになく真剣な表情のリンは何を見るわけでもなく、ただじっと待っていた。一体、何を待っていたのかはわからないが、じっと動かずにレンに寄り添って、確かに何かを待っていた。
 そのとき、ドアが開いた。
「…アカイト、キカイト、客人。せめて二人で出迎えろって」
 そう言って、入ってきたのは帯人だった。
 どうやらそれを伝えに来ただけらしい。
「客って、誰だよ?」
「兎に角、行ってみましょう。それでは、この場はよろしくお願いいたします。…行きましょう、アカイト」
「おう。…頼んだぞっ」
 既に席を立って部屋を出てしまったキカイトをおって、アカイトも少し早足に部屋を出てキカイトに追いつく。
 清々しいような表情のキカイトを見て、アカイトは言った。
「あのことなんかあったのか?」
「いえ、別に」
「ふぅん…。いいけど。…それよりさ、この間の」
「はい?」
「黄色は弱い色って奴。あれ、俺も考えたんだ」
「はあ。結論は出ましたか?」
「ああ。でた。やっぱり、あれ、おかしいよ。確かに他の色に混ざれば黄色は違う色になる。けど、まざったもう一つの色だって黄色と混ざって変わる。黄色だけが弱いんじゃないさ。赤だって青だって、同じくらい弱い。けど、一緒に居るなら、もっと強くいられるだろ?」
 まるで子供のようなアカイトの話に、キカイトは微笑んで、
「…そうですね。…なら、一緒に居てくれますか。一番信頼していますから」
「…。ああっ!ずっと一緒だ!」
 そういって、アカイトは無邪気に笑った。それにつられて、キカイトも笑いを浮かべた。
 それから二人でアイコンタクトをとり、背筋をピッと伸ばして凛々しく客間へと急いで歩いた。走っていって相手に足音が聞こえることを避けるためだ。二人が客間の前に着くと、中からはほぼ音がしなかった。客人が来ているときはここに案内されるはずだから、ここにいないということはないだろう。
 軽くノックをして、中に入る。それを、アカイトもまねした。相手を見もせずに一旦、会釈。それから顔を上げて相手を確認する。
「…どうも…」
 中にいたのは、透き通るような海色の髪の毛をツインテールにした、大人しそうな白いワンピースを着た少女だった。決して大人びすぎた服装ではなく、彼女の可愛らしいイメージにぴったりと合った、清楚なワンピースだった。
「…ミクさん」
 静かにキカイトが言った。
 彼女の名前は、初音ミク。将来、この国の王女になる少女だ。つまり、彼女は、レンの婚約者なのである。まあ、実際、レンは婚約など投げ飛ばす勢いで婚約解消をしたいとカイトに愚痴っていることがあるが。
 しかし、今日の彼女はどことなくおかしい。いつもならもっと笑顔で接してくるミクが、いまは沈んだ表情で元気がない。しかも、いつも彼女についている執事が見当たらない。まさか、一人できたのか。
「どうされました?」
「…すみません、手に持っていた地図に、ここが書かれていたので…」
 そういって、ミクが手に持っていた地図を差し出した。
「…私、思い出せないんです」
「何を?」
「全部です。私の名前も、住んでいるところも」
 つまり…どういうことだろう。
 こんな流れ、漫画で見たことがあるぞ、と思ってアカイトが症状名を搾り出していると、キカイトが言った。
「つまり、記憶喪失、ですか」
「…はい。そういうことだと思います」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

遠い君 17

こんばんは、リオンです。
やっとミクが出てきたよ!
レンが倒れたよ!イヤッフー!
…書いている途中から、アカイトが好きな漫画のキャラクターと被って見えてきました。
最●記の、猿です。
ピンと来た人はリアルにお友達になってほしいです!
兎に角、レンが倒れたなら、皆で襲いに行こうじゃないか!ってことで、
いってきます!
それでは、また明日!

閲覧数:297

投稿日:2009/12/18 22:40:56

文字数:2,198文字

カテゴリ:小説

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