あいのかたち、さがしにいこうか。
 
 
 
 
「…ねーミク。やべえ私二次元しか愛せない」
「私にそんな告白されても」
 
何を勘違いしたんだかディスプレイの向こう側で自分を守るように両手を組み合わせたミク。 私は遠い目を横へ放ってハッと鼻で笑い、「悪いけど例え二次元でもまな板に興味はない」と言った。ディスプレイの向こう側からネギを叩きつけられた。リアルな世界に届くわけがないが、ネギ汁がディスプレイに飛び散って大変汚い有様になった。
 
「だってさー、現実の同級生の猿っぷりったらないよ!?年上だろうが年下だろうが、現実の男のヘタレ加減!ねっちこ加減!鬱陶し加減!」
「………だから私にそんな告白されても。 じゃあ、男は諦めて女に走っちゃうの? 未来ちゃん」
「いやいや女のねちっこ加減と鬱陶し加減ってのは男の比じゃないよ。計り知れないよ。 私がアレと同種でよかったと思う時、それはアレと結婚しなくていいということだ」
「スタール夫人…」
 
未来ちゃんだってアレの仲間でしょう女の子でしょうとため息をつきながら、律儀にも自分のぶちまけたネギ汁を綺麗に掃除し始めたミク。 何だかんだ言っても私とは違って真面目で根っこは優しいミクに、ネギ汁を放置しておくことは出来ないらしい。 私はふうとため息をついて、「何故私は男じゃあないんだろう、」と呟く。 別に女の子が好きだとかいうことは全くない。断じてない。女には女の汚さが十二分に理解出来てるのだ。女である身の、共通した自分の汚さだってちゃんと理解してる。
 
「…でもさー私最近男子のクラスメイトにレズとか噂され始めてさ。冗談じゃねえよ。ただでさえ友達少ないのに評判駄々下げられて。 だったら女との交流がないお前らはホモかっつーのスケッチさせろ」
「未来ちゃん、最後、何か違う」
「私的にあの優等生男子と悪ガキ男子の絡みが見たい」
「未来ちゃん、いい加減脳味噌アンインストールした方がいいよ」
 
最も腐ったネットワークに汚染されているはずの電脳世界の住人にドン引きしたような顔をされてしまった。 …いや、軽口は叩いているが実際結構深刻な問題なのだ。根も葉もない噂から始まって、最近は嫌がらせされ始めている。靴箱に何かされてるなんて日常茶飯事。先生に言った所で、こういう問題は悪化する一方だ。 ていうか馬鹿じゃないのかあいつら、そんなことしたら私は余計男どもを諦観する一方だ馬鹿じゃないのか。あれこれ二度目?
 
「…はあ。漫画の世界に行きたい。見てよ漫画のヒーローたちの器の広さ。男だよ。いや漢だよ。 あいつら全員プレス機にかけて薄っぺらくしてやったら少しは度量の大きな人間になれるかしら」
「うん度量というか表面積は大きな人間になると思うけど。というかソレ人間?未来ちゃん落ち着いて」
「駄目だ二次元しか愛せない…どう頑張ってもあの猿は愛せない…」
 
がっくり肩を落とす私に、ミクはため息をついて近づいた。 仮想(バーチャル)と現実(リアル)を隔てた私達が触れ合えることはないけれど、彼女は多分現実の誰よりも親身になって考えてくれている。と思う。 皮肉なものだ、現実の女は他人の不幸は蜜の味で、表じゃ友達面していても一歩離れれば声を潜めて男子と同じ噂を面白可笑しくネタにしてる。 知らないとでも思ってるのだろうか。それとも知ってて尚やっている?だとしたら私は心底アレと同じ性別であることを憎む。 混沌とした感情のロンドを彷徨う私に一筋の光(コトバ)。
 
「…ねえ未来ちゃん。人間は基本七十年生きるんだよ。医療の進歩した今の時代なら、百年、かな? 未来ちゃんはまだたったの十数年しか生きてないよ。その程度で男がああだ女がああだ、愛する愛さないだとか、考えることないと思うよ」
「………」
「学校は、四六時中誰かと生活しなきゃならない。でも学校を出たら?社会に出たら? 男の子に興味がない女の人なんてたくさんいるよ。 レズだホモだ、そういうこと、言ってられるうちが花」
「ミク親父くさッ」
 
つい言うとミクはニッコリ笑って「未来ちゃん私が脳味噌アンインストールしてあげる」と言った。 恐い。 恐いけれどつい笑いがこみあげてきて腹をかかえて笑い転げると、ミクはしかたがないといわんばかりに肩を竦めて自分も笑った。 ひとしきり笑った後で、浮き出た涙を拭いながら「そっかぁ、」と言う。
 
「ならしかたがないな。 学校卒業するまでは、ガキに付き合ってやるか」
「うんうん」
「出生率結婚率の低下の片棒かついでやるさ。滅びろ日本」
「うんうん、………ってその呪詛はどうかと思うよ」
「はは。ところでミクは?好きな人…違うな、好きなタイプ、いないの?そっちに」
 
とん、と指先で画面をつつく。 ミクはにこりと笑って、その指先に自分の小さな手を押し当てた。 仮想と現実を隔てた私達の間に、確かに繋がる絆は、ディスプレイ一枚分の短くて近い糸。きっと綱引きの縄くらいにぶっといヤツ。 ミクは青い髪を揺らして私の顔を覗き込み、そして言った。
 
 
「とりあえずは未来ちゃんと同じく孤独な、愛すべき二次元友達でいてあげる」
 
 
あいのかたち が みつかったら、また二人で笑いながら話そうか。 今日この日した会話を思い出しながら、画面越しに小突きあって、さ。
 
 
 
 
E n d .

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ラブサーチ☆ガールズパーティ!

こんにちは、雨鳴です。
読んでいただいてありがとうございます!

好きなだけコメディが書きたくて書いていたらこんなことに(笑)
こういうノリが大好きです。
成長途上の女の子同士の会話という雰囲気で。

閲覧数:375

投稿日:2009/08/22 23:13:39

文字数:2,220文字

カテゴリ:小説

  • コメント7

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  • 雨鳴

    雨鳴

    その他

    こんばんは、雨鳴です。
    読んでいただいてありがとうございます!

    コメディっぽいノリが大好きなんです、私…!
    シリアスが苦手なのでどうしても中途半端にコメディをいれてしまいがちなのですが、
    違和感無く読んでいただけたのならよかったです…!

    「天使は~」は話数が半端じゃないので、どうぞゆっくり読んでやってくださいませ。
    感想聞く機会も滅多にないので、何かご意見いただければ嬉しいです…!

    コラボの方、執筆速度のムラが激しいヤツですが、
    こちらこそ、これからよろしくお願いしますね!

    2009/10/10 21:31:05

  • ミプレル

    ミプレル

    ご意見・ご感想

    こんばんは^^小説家同士の技術レベル向上のためのコラボでご一緒させて頂いております、ミプレルです。
    とても楽しく読ませて頂きました!ミクの突っ込みのタイミングからリズムから思わず笑ってしまいました。
    でもどこか未来ちゃんと共感するところがあるので、ミクの言葉には励まされました。少しシリアスな中にコメディ要素も入っていて本当に凄いなと思いました。尊敬します…っ!
    天使は歌わない、のシリーズも10話までしか読めていませんが、またコメントに来てもよろしいでしょうか…?
    それでは乱文失礼いたしました。コラボでもよろしくお願いいたします。

    2009/10/10 18:39:13

  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    使わせてもらいました

    いえ、そういうことではなくて。
    「思っていたよりも」です!

    そうなんです!
    その「チキン」というのもすごく意外です
    作品がすごいので、「しっかりしている人かな」と思っていたらww
    まあ、人それぞれですよ^^

    コラボ、よろしくお願いしますね^^

    2009/08/25 17:41:01

  • 雨鳴

    雨鳴

    その他

    意外にって(汗)
    私って初っ端、ふんぞり返った感じしてました…!?うわあ何かすみません…!

    そう言っていただけるとありがたいです…!
    字面はアレでも中身常に冷や汗かいてるようなチキンなので
    これからも長い目で見守っていただければありがたいです。

    2009/08/25 12:36:14

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