数日後。
 「沢口さん、ここです」
 雅彦と沢口はカラオケボックスにいた。二人はカラオケにいこうと前から約束していたのだ。部屋に入って早速飲みものとつまめるものを頼む。
 「カラオケなんて何年ぶりかな…」
 懐かしそうに話す沢口。
 「沢口さんはカラオケにいかれるんですか?」
 きになったのか、雅彦が尋ねる。
 「まあ、昔は作家仲間とよくいっていたよ」
 「どんな歌を歌ったんですか?」
 「年寄りくさい歌ばかりだよ。嫌いではないけどね」
 苦笑しながら沢口が話す。
 「僕は歌うのが好きな学生を連れてよく来ますよ。歌うのはミクたちの曲ばかりです。カラオケに来るほどの学生なら、たいていはいくつか十八番の曲がありますからね」
 そういいながら飲みものが来るのを待つ二人。注文した飲みものが来ると、歌に備えて少し飲む。
 「それじゃ、どっちからいきます?」
 「雅彦君からどうぞ」
 そういわれ、何を歌うか考える雅彦。
 「…よし、これにするか」
 そうして歌う曲を入力する雅彦。しばらくするとイントロが流れてきた。曲はミクの曲である。元来、女性であるミクが歌う程キーの高い曲は二人にはそのまま歌うことは難しいのだが、二人は無理をせずキーを下げて歌ったり、あまりキーの高くない曲を選ぶことが多かった。そもそも二人の目的は上手く歌うことではない。歌うことを楽しむことなのだ。二人とそのことは分かっていたので、二人のペースで歌っていた。そうしているうちに、雅彦は歌い終わった。
 「沢口さん、歌いたい曲入れました?」
 「もちろんだよ」
 次は沢口の番である。二人ともあまり歌は上手くない、学生と一緒にカラオケボックスにいったり、パーツの試験でボーカロイドの発声に関する新技術を盛り込んだパーツを試験代わりにつけることが多い雅彦はまだ良いのだが、沢口はお世辞にも上手くない。だが、ここにいる二人はそんなことは全く気にしなかった。
 歌い終えた沢口、拍手をする雅彦。そうして頼んだフライドポテトをつまみながら次の曲を物色する雅彦だった。

 時間が来たので、そろそろ帰る準備をする二人。
 「沢口さん、満足ですか?」
 「ああ、十分満足だよ」
 「それじゃ帰りましょうか」
 「…」
 「…沢口さん?」
 沢口からの返答がなかったので、怪訝そうに沢口を見る雅彦。見ると、沢口が胸を押さえてうずくまっているのが見えた。それを見て、青くなる雅彦。
 「…沢口さん、大丈夫ですか?」
 「…大丈夫だ」
 「そんな訳ないじゃないですか!顔が真っ青ですよ!店員さんを呼びましょう」
 「…しばらくじっとしていれば大丈夫さ」
 沢口の様子に、あたふたする雅彦。
 「そうは見えません。沢口さん、無理しちゃ駄目です」
 「…大丈夫だといっている!」
 あくまで制止する雅彦に対して、強い調子でいう沢口。その言葉に、手を引っ込める雅彦。雅彦に浮かんだ怯えるような表情を見て、しまったという顔をする沢口。雅彦に対してどうフォローすべきか考える。
 「…ともかく、大丈夫だ。帰ろう」
 「…分かりました」
 雅彦は沢口の態度を少し不満に思っていたようだったが、そのことは口に出さなかった。

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初音ミクとパラダイムシフト4 3章6節

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投稿日:2017/03/09 21:41:27

文字数:1,332文字

カテゴリ:小説

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