2.聖母の光

 しかし、母親の対応は意外なものだった。
優しく二人の小さな体を抱きしめ、優しく微笑みかけた。
あれだけ泣いていた赤ん坊がふいに泣き止み、天使のような笑顔を母親に見せかえす。

「大丈夫ですよ この子たちは きっと」
驚いた表情をする老人に聖母はそう答えた。
「しかし、これは、そんな精神論では……」
そこまで口にして、老人はこの聖母の目を見て次の言葉が出てこなくなった。

―意思の光―

女性の目の奥に確かに光り輝いている光 それは強く優しい色の光
それは先ほどの彼女の言葉が決して強がりなどではなく、心から信じていることを示していた。

もちろん、現実的にそんな確証などなく、老人の目の前には二つの『死』という事実だけが
転がっているようにしか見えなかった。

とまどう医者に母親は言葉を続けた。
「それに、この子たちは『はじめて』の例なのでしょう? 
どうなるかなんて、未来なんてきっと誰にもわかりませんよ。
それにわたしはこの腕から二つの確かな強い命の鼓動を感じています。
だから きっと大丈夫です」

老人の脳内の膨大な医療の知識は、この女性の言葉を
くつがえすのにもちろん十分であっただろう。
しかし、そんなものなど目の前の女性の存在の前ではちんぷなものに感じられた。
老人は40以上は歳が離れているであろうこの女性の言葉に存在に、完全に圧倒されていた。

 やがて、一人の女性と二人の赤ん坊は身支度を整えて、深々と頭を下げ、帰路へついた。
年老いた老人と途中で戻ってきた老婆は、ただただその背中を見送っていた。

「あなたたちの名前 つけなくっちゃね。ふふふ、実はもう考えてあったんだ。
男の子ならロミオ 女の子ならシンデレラ
まさかどっちも必要になるとは思ってなかったけれど、うれしい誤算かな。
これから仲良くしてね ロミオとシンデレラ」



 次の日も、その次の日も、母親の思いにこたえるように子どもたちは生き続けた。
母親もめいっぱいの愛情を持って双子を育てた。
理由はさだかではないが、双子の体は自身の発生する電流に耐え、融解することはなかった。
母親もなぜか自分の子どもから発生する電気に感電することはなかった。

村民の一部はこの家族を追い出すべきだと主張したが、
村医者の懸命な説得によりすべての村民は、家族を支えていくことを決めてくれた。



「またガラクタ探してるのか? 姉ちゃん」
「ガラクタじゃないって。これは古代の遺産『ロストテクノロジー』の結晶なんだから」
村からほど近く行った森の中にある遺跡の前で、やいやいとけんかしてる二人の子どもがいる。
それはロミオとジュリエットだった。もう双子は14歳になっていた。
最近、ロミオは武術、シンデレラは考古学に興味を抱くようになった。

「遺産って? こないだ拾ってきたのなんか、絵が描いてあるだけの筒だったじゃないか」
ロミオは少しおどけながら、手に持っているL字の棒で地面に筒の絵を描きだしてみせる。

「うっ うるさいな。ロ、ロミオは子どもだなー。あの素晴らしさが理解できないなんて」
シンデレラも少し小バカにする様な口調で弟に対抗する。
しかし、その顔は少し紅潮している、弟の指摘は図星だったようだ。

その気恥ずかしさをかき消すかのように、姉は弟にたたみかけた。
「それにロミオのそれもなによ? ただL字の棒を振り回してるだけじゃないの」

「なっ 違う! これは武銃術といってだな。銃を持ちながらの近接戦闘を――」
ロミオはここぞとばかりに得意げに話し出すが、姉は涼しい顔でそれを見ている。

シンデレラは大きなため息をついた後、こう言った。
「それで強くなってどうするのさ。強い力は争いを生み、
その繰り返しでお互いの憎しみだけが大きくなっていく。それが今の戦争の原因でしょ?
あんたが強い力をつけて戦争に行っても、お母さんは絶対に喜んでくれないよ?」
いつになく強い口調でロミオに対して言い寄るシンデレラ。

 それには理由があった。
二人は成長していく過程で自ら発生させている電気を調節する方法を自然と身につけていた。
それにより普段は普通の人間と同様に生活できるようになったが
同時に普通の人間との決定的な違いを二人は感じていた。

それは自らの電圧を上げた時の身体能力の上昇、思考能力の上昇だった。
どちらも体内を多量の電流が流れていくことで、
筋細胞、脳細胞が活性されることが原因だった。
年齢を重ねるたび、その効果もはっきりと高くなっているのを感じていた。

シンデレラはそんな自分に危機感をおぼえていた。
戦争―― 自分たちが戦いの道具として利用されたときのことを。

しかし、ロミオはこの力をなんとか生かしたいと考えていた。
自分のこの力で戦争を終わらせることができると。

「ふん、女にはわかんねえよ。男のロマンは」
まだ子どものロミオは自らの思いを男のロマンという言葉で表現することしかできなかった。
「確かに戦争を終わらせることは大切なことだけど、私たちの使命は『メルト症候群』を
克服する方法を見つけて、今もこの病気で死んでいってるたくさんの人々を救うことでしょ?」

 二人のこの力に対するとらえ方は違っていた。
シンデレラは自らの生まれた意味をメルト症候群を世界中から一掃するためだと考えていた。
この力はそのために神から与えられた力だと。

ロミオは自らの力でこの永きにわたる戦争を終わらせて、人々を幸福の世界へ導ける
そのために自分で編み出した技術だと。

どちらもみんなを幸せにしたいと願う、心優しき子どもたちの口論はいつものことだった。
今日もいつも通りしばらくの後、仲直りの時をむかえようとしていた、その時だった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

紅のいかずち Ep0 ~シンデレラストーリ~ 第2話 聖母の光

紅のいかずちの前章にあたる、エピソード0です。
この話を読む前に、別テキストの、まずはじめに・・・を読んでくれると
より楽しめると思います。
タグの紅のいかずちをクリックするとでると思います

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閲覧数:150

投稿日:2009/11/21 22:25:35

文字数:2,385文字

カテゴリ:小説

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