【メイコちゃんカフェ】3話『優しい苦さ』

とある雪国の―――
とある街の―――
小さなカフェを営むメイコの
とある日常です。

久しぶりのメイコちゃんカフェシリーズ。
今回はリンちゃんの恋の悩みです。てへっ♪



突然降り積もった雪は、錆び色の木の葉をまとった木々を
とても綺麗な白衣で装う。

店内は充分に暖かいのだけれど
結露した窓から見える雪を見るだけでメイコは
外気の寒さを二の腕に感じ、少しだけ身震いした。

雪のような色のソーダ硝子のマグカップには
湯気の立つコーヒーに泡立てたミルクを浮かべ
メイコはカウンター越しに座るこの店で一番若い
常連さんに差し出す。

「おいしそう」
カフェクレームを眺めて、リンは嬉しそうな顔をした。
色白の肌に、頭の白いリボンが良く似合う
小柄で可愛らしいお客さんの顔を見て
メイコはほっこりとした気持ちになる。

そんなに多くは無いであろうお小遣いを持って
月に2度はこの店に来てくれるのだ。
そんな彼女のためにメイコは少し大きめの
マグカップを使って彼女にたっぷりのコーヒーを
出して上げるのである。

「ね、ちょっと聞いていい?」

カウンター二つ隣の席からリンに声がかかる。
こちらはいつも油断なら無い常連のルカである。
近所の小さなアンティークショップの店主である彼女は
いつもメイコを惑わす上質のアンティークを持って
来ては細々とした店の売り上げを持ってゆく
手強い客だが、今日はただコーヒーを飲みに来ただけらしい。

「はい?」
リンがルカに顔を向けるとコホンとワザとらしい咳払いをして
話しを切り出した。

「……あのー、いつも一緒に来ていた男の子は最近見ないけど
どうしたのかなーって……」

唐突に何てことを聞くんだ!とメイコは思ったが
実は彼女もその事については気になっていた。
どこかでタイミングを計らって聞こうとしていたのだが
ルカに先を越されてしまった。

カフェクレームに視線を落としながらリンは
少し困った顔で笑い、口を開く。

「……、実は少し、距離を置こうって事になって
今は一人なんです」

「あらら……、そうだったの。う~ん……、もしよければ
おねいさんが相談にのってあげようか?大丈夫!こう見えても
おねいさん、恋のエキスパートなの。
大概の事は相談に乗ってあげられるわ。
ああ、こっちのおねーさんの方はだめよ。店の売り上げと
雑貨の事しか頭に無いからね!」

ルカはニコニコしながらメイコの方を指差した。
余計なお世話だし、むしろ、店の売り上げと
雑貨の事しか頭に無いのはルカの方じゃないだろうかと
思ったが、それは口にはしないでおく。

気がつくと、ルカはリンの方に席を詰め、彼女と話し込んでいた。
結構な長い時間、話していたようだが結果的には
ルカの男への不満の演説が大部分で、リンの悩みについての具体的な
解決はしなかったようである。

「―――そうよ、大体、男ってヤツはいつまでたっても
自分勝手……、あ、いけない、仕事に戻らなくっちゃ!」

散々一人で喋った挙句、ルカは会計を済ませて
リンとメイコに手を振って店を出た。

ケトルに火を点けてメイコはリンを見る。

「ふー……、やれやれだね。ゴメンね、彼女、いい人なんだけど」
「うん、でも話せて良かったです。私もちょっと一人で悩んでて……」
冷めたカフェクレームを口に運び、リンは話を続けた。

「彼、いつもゲームとか漫画の話ばっかりで、私がツマラナイって
言ったら怒り出してケンカになっちゃって、少し距離を置こうって
事にしたんです」

「ふーん……。でも、まだ好きなんでしょ?」

「時々、優しいから……」

コクリとリンは頷いた。

暗い帰り道、手を繋いでくれたりした事を思い出す。
彼女より少しだけ大きな手は温かかくて、優しかった。

今、リンの手の中にあるのは冷めたカフェクレームの入った
ソーダー硝子のカップ。それをゆっくりと喉に流し込むのだが
心地の悪い甘さが引っかかっり喉に残る。

優しく甘い日常は、このカフェクレームのように
いつか冷めてしまうのだろう。
リンはそう思うと涙がこぼれそうになった。

ケトルは湯気を噴出し、メイコはコンロの火を止めた。
二つ用意した薄口のコーヒーカップに湯を入れ温めてる間に
苦味のあるマンデリンの豆でコーヒーを淹れる。

香ばしい香りが店内に広がり
コーヒー皿にカップをのせてコーヒーを注ぎリンに差し出した。

「たまには、サービスするわ」

コクリとお辞儀をしてリンはカップを手に取る。

目の前に砂糖もミルクもあるのだが
メイコが素のまま飲むのを見て、リンもブラックのまま
恐る恐る口に運んでみた。

香ばしい香りと湯気が鼻に届き、ゆっくりと喉に流れて
先程のカフェクレームの嫌な甘さを
ブラックコーヒーが溶かしてゆく。

「あ……、おいしいかも……」

「苦いのも、たまに良いでしょ?」
「初めてかも、コーヒーのブラックを飲むの。
なんだか大人になった気分」

メイコはリンの言葉を聞いて微笑んだ。
コーヒーを素のままで飲めるからって、それが
大人の条件と言うワケでは無いけれど
知らないよりは、知っている方が素敵なはずだ。

甘いものを引き立てる苦さ。
苦さを忘れさせる甘さ。

どちらも、飽きないタイミングでかわりばんこに
やってきたら良いのだが、世の中そうは上手くいかない。

「どうしたらいいんだろう……」
リンは鼻をスンと鳴らして呟いた。

「……、冷めないうちに召し上がれ」
メイコは優しく言う。

優しく甘いだけの日々は、いつか飽きる。
だから苦いものが必要だって事に気づく。

それならいっそ、苦いことも好きになれれば
楽になれるのかな?なんて事は
メイコ自身だって分からない。

でも手の中にあるコーヒーカップの温かさと
香りが心地よく思えたならば―――
それは、優しい苦さなのだ。

窓の外はゆっくりと千切った綿菓子のような雪が落ちてくる。

それを見ながら二人は
コーヒーカップを手の平で、暖め続けていた。


―おしまい―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

メイコちゃんカフェ 『優しい苦さ』

冬になったら書けちゃうこのシリーズ。
ちょっと優しかったり、苦かったり。そんな恋の話。

そして―――もう一つの物語は地下のバーにて。

メイコちゃんカフェ・別館『カイトくんバー』
https://piapro.jp/t/dpsU

メイコちゃんカフェ・別館『カイトくんバー』②
https://piapro.jp/t/nGcu


これまでのメイコちゃんカフェシリーズ。

メイコちゃんカフェ『雪ウサギ』
https://piapro.jp/t/QhRR

メイコちゃんカフェ『ベルサを持った悪魔』
https://piapro.jp/t/nXP0

閲覧数:393

投稿日:2018/06/16 14:06:54

文字数:2,531文字

カテゴリ:小説

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  • あみっこ

    あみっこ

    ご意見・ご感想

    他のおすすめ二つとは違って、読んだ後に考え込みました。
    私はもう思春期ではないですが
    良い大人になった今でもよく人間関係で悩んでリンと同じように悩みます。
    そして悩みが過ぎ、いつも思うのは
    ・すぐに白黒はっきりつけずのんびり待っていれば時間が解決してくれる
    ということです。
    この小説を読んで上に書いたことを思い出しました。
    このお話のリンちゃんの悩みも時間が解決してくれることでしょう。
    のんびりと仲直り出来るといいな。

    2023/06/21 22:19:38

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